NPO法人キッズドアなどが、次の衆議院選挙で投票率75%以上を目指すプロジェクトを始めた。

若者や現役世代がどんな政策を重視するのかインターネット調査を行い、「10の争点」を決めて、次の衆議院選挙の立候補予定者にアンケートを実施する予定で、その回答を公開するという。

目標実現のカギを握るのが全世代で最も投票率が低い若者世代だ。このプロジェクトに参加する大学生たちに若者の投票行動を阻むものは何なのか聞いた。

「政治が現状を変える」イメージがない

プロジェクトに参加している関西学院大学4年生の尾上瑠菜(おのうえるな)さんと三重大学4年生の細谷柊太(ほそたにしゅうた)さんは、学生と政治の橋渡しをするNPO法人ドットジェイピーに所属している。

関西学院大学の尾上瑠菜さん(左上)と三重大学の細谷柊太さん(下)
関西学院大学の尾上瑠菜さん(左上)と三重大学の細谷柊太さん(下)
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――前回の衆議院選挙の投票率は54%とOECD諸国の中でも最低レベル。なかでも20代が34%と全世代の中で最低です。若者世代の低投票率はいまに始まったことではないのですが、なぜ若者の投票率は低いと思いますか。

細谷さん:
そもそも若者世代に「政治が現状を変える」というイメージが存在しません。声をあげることで何かを変えたという経験がないので、現状は変えられないと潜在的に思っていますし、投票はその手段に成り得ていません。政治と自分たちの生活はかけ離れていると思っているので、投票に行っても無駄だという感覚が大きいんです。

尾上さん:
海外では政治について若者が活発に議論している国がありますよね。そういう国では、日本のように政治や選挙の話をするのがダサいというイメージがないと思います。政治について意見を言う、投票に行くのが格好いいと盛り上げることが出来たらいいなと思っています。

“意識高い系”が若者の行動を止めてきた

――若い世代と話をしていると「政治の話は“意識高い系”に思われるから嫌だ」と言われることが多いです。この状況はどう変えたらいいと思いますか?

尾上さん:
そのことについて私は「“意識高い系”という言葉がどれだけの若者の行動を止めているんだろう」とずっと思ってきました。この言葉は本当によくないと思っていますが、意識が高いのはダサいとか、主張することは恥ずかしいという雰囲気が同世代の中で蔓延しています。これを変えていくには「意識が高いのは恥ずかしくない」と強く言い続けること、一方で「主張する人に“意識高い系”と悪口を言うのはダメだよね」と言っていくことだと思っています。

尾上さん「”意識高い系”という言葉が若者の行動を止めている」
尾上さん「”意識高い系”という言葉が若者の行動を止めている」

細谷さん:
僕自身もいまこういう活動をしていると周りから「何してんの?」とか「おもろない」とか言われるんです。(笑)でも活動を続けていく中でメディアに取り上げられたりすると友達にも少しずつ認められていくんですよね。

「おもろない」より「私だったら無理やわ」

――尾上さんも「おもろない」とか言われますか?

尾上さん:
「おもろない」というより「私だったら無理やわ」みたいな感じで、“距離のある人”だと思われますね。実際、私も高校までは「自分とは違う人だなあ」と思っていたので、気持ちは分かるんです。

――いま同世代にとって投票って何だと思いますか?

細谷さん:
自分の周りは「行けと言われたら行くか」というスタンスが多くて、「この1票で未来が変わる」という認識を持っている人は相対的に少ないです。大学の仲間はまあまあ投票に行きますが、もう社会で働いている同世代の多くは「選挙って何?」という感じです。

尾上さん:
投票に行っても行かなくても、別に自分たちの生活に何の支障もないから興味がないです。自分たちの現状に対して何かしらの不満はあると思うんです。例えばバイト代が少ないから最低賃金を上げてほしいとか、学生へのサポートをしてほしいとか。ただ不満があってもソリューションが選挙や政治に結びつかないんですね。

ネット投票は投票率の底上げにつながらない

――若者を投票に向かわせるソリューションとしてネット投票が言われていますが、これは効果があると思います?

尾上さん:
投票に行きたかったけど物理的に行けなかった層は取り込めると思います。たとえば大学には地方から来て住民票を移してない学生がいるのですが、これまでは地元に帰らないと投票できなかったのがネットだと投票できるようになりますね。ただ選挙に興味が無い層に「ネット投票だから投票しよう」と言っても投票するのかなという疑問は正直あります。

細谷さん:
ネット投票といっても「候補者がどんな人なのか?」をぱっと見で分からなかったりすると、投票に行こうとは思わないかなと。だからネット投票を導入する際には、情報をわかりやすく理解できるようにしないと、投票率が多少は上がっても全体の底上げにはならないかなと思いますね。

細谷さん「ネット投票では全体の底上げにはならないと思う」
細谷さん「ネット投票では全体の底上げにはならないと思う」

投票には当事者意識と自分の将来像が必要

――今回のインターネット調査では約4万5千名が回答したということですね。この活動を通して20代の投票行動がどう変わると期待していますか?

尾上さん:
若者世代の投票率を75%まで上げようというのが最終ゴールですが、何よりも「投票に行くことで社会を変えられるんだよ」と多くの同世代に感じて欲しいなと思っています。そのためにも当事者意識が必要なんじゃないでしょうか。

細谷さん:
投票に行くためには自分の将来像が明確でないといけないのかなと思っていて、現状に満足していても、自分は将来こんな人になりたい、こんな仕事をしたい、こんな人生を歩みたいというイメージを描いていくと、たぶんいまのシステムはおかしくないか、変えないといけないんじゃないかと考えると思います。

――ありがとうございました。次の選挙、若者世代の投票を期待しています。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。