東京パラリンピックで陸上男子400メートル(車いすT52)と1500メートル(T52)で2つの金メダルを獲得した、佐藤友祈(31)。

8月27日の陸上男子400メートル(車いすT52)決勝では、世界記録保持者・佐藤が、リオ王者レイモンド・マーティン(27)との一騎打ちで逆転劇を見せた。

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ラスト20メートルから驚異の追い上げで、55秒39の大会新記録で金メダルを獲得した佐藤。

その強さの秘密は何なのか?

スピードを生み出す「脇の力」

佐藤は自身の強さについて「失われた機能にとらわれるのではなく、残された機能を最大限に生かして、自分の潜在能力を高めていって、競技をしているところ」と過去の取材で語っていた。

その言葉の真意を探るため、元車いすマラソン選手でアテネ・ロンドン大会に出場し、現在は佐藤を指導する花岡伸和コーチ(45)を直撃した。

佐藤は21歳の時に、脊髄の病気によって左手と下半身がまひしている。そのため、腕の力だけで車輪を回すことができない。

花岡コーチは「佐藤の場合、腕を伸ばす筋肉のまひが強くて機能していないんですよね。どこで押しているのかというと、大胸筋や脇の筋肉、 腕では押せないから脇で押すことを自分で掴んだのだと思います」と、佐藤のスピードを生み出しているのが脇の力であることを明かした。

レスリングで得た「脇の使い方」

そして、その“脇の力”には意外なルーツもあった。それは小学生時代にやっていたレスリングが生かされていると花岡コーチはいう。

「車いすに乗り始める前にレスリングをやっていたんですけど、それが今、車いすを走らせるのにも役立っていると考えています。レスリングとか柔道の構えって、脇をすくわれると終わりですから、低い姿勢になって脇を締めるじゃないですか」

レスリングの基本は相手の攻撃を防ぐため、脇をしっかり締めること。子どもの頃からその動きを繰り返していた佐藤は脇の筋肉が鍛えられたのだ。

「そういった動きをレスリングで掴んで佐藤は、(車輪に)肩からヒジまでの動きを上手く伝達しているんです」と花岡コーチ。腕ではなく、レスリングで培った脇の筋肉で推進力を生み出しているのだ。

脇の力を証明した2つ目の金メダル

8月29日に行われた陸上男子1500メートル(車いすT52)の決勝。

「1500メートルの決勝では、金メダルと世界記録更新を狙います」と意気込んでいた佐藤は、自身の持つ世界記録更新、そして2つ目の金メダル獲得に向けて挑んだ。

1500メートルでの最大のライバルも、400mと同じくリオ大会の金メダリストであるマーティン。5年前のリオでは、ゴール前でさされ、銀メダルとなった苦い思い出がある。

東京大会では、まず佐藤が先頭に躍り出し、その後ろにぴったりとマーティンがついた。この展開は、まさにリオ大会と同じだった。

レスリングで培った脇の筋肉を使い、スピードを上げていく佐藤。しかし、マーティンも負けじとついていく。

残り1周になると、勝負は2人の一騎打ちに。持てる力を全て車輪に伝え、佐藤は最後の直線に先に入る。

自身の世界記録には及ばなかったが、3分29秒13の大会新記録で2個目の金メダルを獲得した。

大会後、佐藤はこう振り返った。

「うれしいです。世界記録は達成できなかったんですけど、本当に色んな人たちが僕と関わって、僕自身を成長させてくれて、取れた金メダルなので、感謝の思いでいっぱいです」