「バイデンのアフガニスタンでの降伏」
アフガニスタン政権の崩壊とタリバン勢力による首都カブールの占拠は、バイデン米政権の命取りになるかもしれない。
「バイデンのアフガニスタンでの降伏」
ウオールストリート・ジャーナル紙電子版15日のこういう見出しの論評記事は、この問題をめぐるバイデン大統領の言動を「米国の最高司令官として、最も恥ずべきもの」と糾弾し、「タリバンが首都カブールに肉迫している時にも、バイデン氏は自らの責任を放棄して米国が現政権を見捨てることを確認し、その責任を前任者(トランプ前大統領)に押しつけ、タリバンに国を占拠するよう招待したようなものだった」と追及した。

日頃バイデン大統領には好意的なワシントン・ポスト紙も、電子版15日の記事で「平常は感情移入する大統領が、今回は好戦的で反抗的な冷血な態度で臨み大失敗した」と批判した。
「サイゴン陥落を彷彿させる」
「タリバンのカブール侵攻は、ベトナム戦争を終結させたサイゴン陥落を彷彿させる」
ワシントン・ポスト紙には、1975年4月29日に、サイゴンの米大使館屋上から飛び立つ米軍のヘリコプターと、15日カブールの米大使館の屋上に着陸しようとしている米軍のヘリコプターの写真が掲載されている。

「人々が大使館の屋上からヘリコプターで脱出するような状況にはなり得ない」
バイデン大統領は先月7月8日の記者会見の際にこう言っていたが、現実はまさにその通りになったのだった。
その記者会見で、大統領はこうも言っていた。
「アフガニスタンの正規軍は、30万人の世界でも最もよく武装された兵士と空軍まで持っている。それが7万5000人のタリバンと戦って負けることは考えられない」
しかしその1ヶ月後、バイデン大統領がアフガニスタンの正規軍が雲散霧消したのも把握しないでキャンプ・デービッドで夏休みを過ごしていた時に、タリバンが首都を占拠したのだ。

「ジョー・バイデンはアフガニスタンで起きた恥辱の責任をとって辞任すべきだ」
トランプ前大統領も、この問題をめぐるバイデン攻撃に加わったが、今後のバイデン政権の行方を大きく左右することは間違いなさそうだ。

サイゴン陥落後の大統領選では…歴史は繰り返すか
そこで思い出すのが、サイゴン陥落の際の米大統領ジェラルド・フォード氏が翌年の大統領選で民主党の無名の新人ジミー・カーター氏に敗北したことだ。
その敗因には、前任者のニクソン氏のスキャンダルの影響が大きいとされるが、前の年にサイゴンの大使館屋上からヘリコプターで大使が脱出した米国人にとって屈辱的な映像の代償を支払わされたとも言われている。
バイデン大統領が、アフガニスタンからの米軍の撤退を「8月末まで」と急いだのにも政治的な思惑があったからだと考えられる。
9月第一月曜日(今年は6日)の「レーバー・デー(労働者の日)」をきっかけに米国は政治の季節を迎え、来年の中間選挙へ向けて政治活動が活発化する。
民主党を率いるバイデン大統領としては、新型コロナウイルスの感染再拡大やインフレの進行など国内問題で有権者に訴える材料に乏しい中で、20年に及んだアフガニスタン戦争を終結させ「皆さんのお子さんたちが帰ってきます」と有権者を喜ばすことを狙ったのと考えられるが、それは完全に裏目に出ることになった。

今後、カブールの米大使館屋上に脱出用のヘリコプターが着陸する映像は、今後共和党側が折に触れバイデン攻撃に使うのは目に見えているし、効果的だろう。
バイデン大統領は、来年の中間選挙に向けて大きな重荷を背負ったようだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】