新型コロナウイルスの感染拡大は、生活困窮者にも影響を与えている。路上生活者(ホームレス)の自立を雑誌販売で支援する「有限会社ビッグイシュー日本」(本社・大阪市)によると、コロナ禍でホームレスの人たちも苦しんでいるという。

ビッグイシューは英国発祥の社会的企業で、生活困窮者に雑誌の路上販売者となってもらうことで自立につなげてもらう取り組みだ。日本の場合は、1冊450円の雑誌を売ると230円が販売者の利益となり、貴重な収入源となる。(2021年8月時点)

だが、コロナ禍ではこの路上販売が難しくなっている。外出自粛で人通りが少ないうえ、販売にも感染リスクがつきまとう。そんな苦境での生活はどうなっているのだろう。
ビッグイシュー日本への取材を通じて、路上生活者の現実と私たちができることを考える機会としたい。
外出自粛で売上減少と孤独な環境に
ーーコロナ禍で雑誌販売はどのような状況?
苦戦しています。路上販売なので街に人が少なければ販売部数も減り、常連も訪れにくくなります。売上は最初の緊急事態宣言の時は東京で約5割減、場所によっては、それ以上に落ち込みました。全体では年間を通して約3割減が続いた感じです。
販売者がひとりであることも気になります。以前は事務所に雑誌を仕入れにきたとき、仲間と会話したり、ご飯を食べられる環境を整えていました。コロナ禍では、そのような「人とのつながりを持つ活動」も難しいです。販売が落ち込むと気持ちも落ち込みがちなので、そちらの影響も心配でした。

ーー販売者は収入面で打撃を受けている?
コロナ禍の前から決めていたことですが、雑誌価格を2020年4月に350円から450円に値上げしました。販売者の収入アップと会社の経営改善のための決断でした。販売者一人あたりの月の平均売上部数は以前が350冊程度、コロナ禍では260冊程度と減りましたが、値上げ分で販売者の取り分は1割減程度でカバーできています。
雑誌を定期購読で届ける「コロナ緊急3カ月通信販売」という取り組みも始めました。これまでの通信販売は全額会社の収入となるものでしたが、売り上げの一部(1冊あたり230円)を路上販売のみで生活する人に分配します。多くの方にお申し込みいただいていて、販売者には月2~3万円程度をお渡しできています。

ーー街の状況についてはどう思う?
路上生活一歩手前の方が増えているのではという印象です。私たちは雑誌発行と仕事づくりを「有限会社ビッグイシュー日本」で行っていますが、その活動の中から生まれた「認定NPO法人ビッグイシュー基金」として、販売者以外のホームレスの方への支援も行っています。そちらへの相談件数はコロナ禍で以前の10倍以上となっています。
厚生労働省の調査では、ホームレス状態の方は減少しているという報告もありますが、調査方法は、路上や駅舎など外で寝ている方を目視で確認するというものです。仕事服でスーツケースを持っていたりするとわかりませんし、ネットカフェや友人宅で寝泊まりしている方は反映されません。路上にブルーシートで小屋を作るような方は減ったかもしれませんが、家とは呼べない場所で寝ている方が増えている可能性はあると思います。

コロナ禍で、高熱でも病院に行けず炊き出しも中止に
ーーコロナ禍でホームレスの人はどんな状況?
ステイホームできませんし、高熱が出てもすぐに病院で診察してもらうことは難しいです。また、人が集まることの感染リスクの高さから、各地で炊き出しがなくなっています。煮炊きでの配布は停止せざるをえません。路上で寝起きしている方は本当に大変だと思います。

ーー実際にはどんな困りごとや悩みを抱えている?
感染拡大で命を失うリスクがある中、個室という安全な場所で身体を休めることができず、体調不良でも病院にかかれないので、健康面の不安は大きいと思います。仕事面でも影響があるでしょう。
例えば、行政が用意する「特別清掃」という仕事があるのですが、目的地まで一つのバスで移動することが感染リスクを高めるとして、一時中止になりました。また、空き缶の買い取り価格が落ちたという話を聞いたこともあります。収入源がなくなるうえに炊き出しがなくなれば食べ物を得る機会もなくなります。二重三重に命が脅かされているといえます。
ーー感染拡大やワクチン接種については?
路上で暮らす方は住所がないので、ワクチン接種関連の書類が届きませんし、コロナやワクチンの情報を得る手段も限られています。「コロナは怖い」といった認識はあるかもしれませんが、どうすればいいかの情報が得られていない可能性もあります。戸籍や住民票がない方でも本人が望めば、ワクチン接種が受けられると通達が厚労省から出されているのですが、自治体で対応に差があるのも事実です。
個室でステイホームできる支援が必要
ーーホームレスの人はどんな支援を必要としている?
個室で身体を休めることができる。そこから次のことを考えられる環境が大事ではないかと思います。路上生活をされる方からは、役所の福祉窓口に相談にいったら複数人が暮らす大部屋に入居させられた経験があり、「コロナ禍で大部屋に入れられるくらいなら路上のほうがまし」といった話も聞きました。そのような状況ではない、誰もが安心できる個室でステイホームできるような対策ですね。

ーービッグイシューはどのように支援している?
コロナ緊急3カ月通信販売が一つです。毎月現金を渡せることで、「不安を感じたら休むことができる」心の余裕につながっていると感じます。会社負担での感染症対策やいつでもPCR検査を受けられる取り組みにもつなげています。また、認定NPO法人ビッグイシュー基金では、個室のアパートを契約し体調不良や不安を感じたときは無料で泊まれる「シェルター」として準備しています。このほか、他企業の協力をいただき、コロナ禍で家を失った方が新たな家を借りる資金などをサポートする「おうちプロジェクト」という支援も行いました。
ーー世間に伝えたいこと、呼びかけたいことは?
ホームレスや路上生活者と聞くと特別に感じがちですが、誰でもそうなる可能性がある。特にコロナ禍では、仕事がなくなり収入がなくなり、安心できる住まいを失うリスクに直面する方はたくさんいると思うんです。そんなとき、周囲に助けてくれる人間がいなくても公的な支援をきちんと受けられる、ひとりぼっちだと感じていてもホームレス状態にならなくていい社会であってほしいと思います。
不安な状況にいる方は遠慮せずに助けを求めてほしいと思いますし、みんなが不安を感じているからこそ、社会を変えられる機会だとも思っています。私たちも知恵を絞っていけたらと思いますし、協力ができたらとも思います。

総務省が雇用・失業の動向として公表している労働力調査によると、2021年6月時点の完全失業者数は206万人で、17カ月連続で増加。2020年1月の159万人に比べると50万人近く増えた。仕事や住む場所を失うことが他人事ではないことは、忘れてはならない。
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