コロナ以降リモートワークの増加に伴い、リモートでの上司から部下へのハラスメントや、公共スペースでの迷惑行為などが増えている。2009年の創業以来社員全員がリモートワークを行っている「子育てシェア」の株式会社AsMama(以下アズママ)の甲田恵子代表取締役CEOに、リモートワーク(以下リモワ)の課題とその対処法を聞いた。

アズママの甲田CEO。2009年以来社員全員がリモワだ。
アズママの甲田CEO。2009年以来社員全員がリモワだ。
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部下が見えないと不安な上司の会議招集

甲田さんはリモワのスペシャリストとして様々な企業で研修を行っている。研修の中でまず気づくのは、リモワ中の部下のスケジュールを管理したがる上司が多いことだという。

「まだリモワが普及していない頃は、部下のマネジメントについてグループワークをやっていると、『ずっとカメラをオンにさせればいいじゃないですか』という人がよくいました。でもオフィスでずっと上司が横に立っていたら、調べもの1つできないじゃないですか。また、見えていないと不安だからと『家で何やっているの?』みたいなことを部下に聞く管理職は結構いますね」

不安になった上司がよくやるのが、リアル会議の招集だ。

「企業には在宅ワークを申請する制度があると思いますが、こうした上司は申請すると『えっ?なんで?』という反応をします。言った上司にしてみると聞いただけかもしれません。しかし言われた部下にとっては否定に近くて、『やはり行きます』となってしまいます」

こうなるとせっかくのリモワの制度も、部下が上司に忖度して出社せざるを得なくなる。

オフィスからリモート社員へのリモハラ

さらにオンラインの会議では、リモート参加組に対してオフィスにいる上司からのハラスメントが起きるケースがある。

「たとえばリモートの社員が途中で接続が悪くなるケースがあります。そうしたときにオフィスにいる上司が『まあいいか。後で議事録読んでおいて』とか、『仕方ないから会議を進めちゃうか』というと、結果的にリモートの社員を置いてきぼりにすることになります」

その解決策は「基本的に全員リモートで会議に参加することです」と甲田さんはいう。

「つまり社員がオフィスに何人かいても、リアルで一カ所に集まらない。それぞれの場所でPCに向かって会議にリモートで参加するのです。これを徹底するとオフィスとリモートが対等の立場になって、オフィスからリモートへのリモハラも起きにくくなります」

アズママでは社内合宿した際も、これなかった社員向けに全員PCでオンライン
アズママでは社内合宿した際も、これなかった社員向けに全員PCでオンライン

部下と発言が被ると怒り出す上司

またオンラインの会議では、部下と発言が被ることを嫌う上司もいる。

「Zoomで発言が被ることがよくありますが、そうしたときはお互いに譲り合うと気持ちのいいコミュニケーションになるはずです。しかしそうした上司は『俺が喋ろうとしているのに、なんでお前がしゃべるんだ』と発言する。これはパワハラとまでは言えませんが、部下は上司より先に喋ってはいけないという空気が出来てしまいますね。上司は『Zoomは上下関係なく闊達な意見交換の場だから』と言えることが大事です」

リモハラは会議以上にマンツーマンのときに起こることが多い。甲田さんは続ける。

「そもそもリモートになると雑談が減るので、オフィスのように信頼関係を構築するためのコミュニケーションづくりが難しくなります。ですから会話をする際は、言葉への気遣いが大切ですね。特に自宅にいる人とオンラインするときは、言葉によっては相手がプライベートに踏み込まれたような感情をもちやすいことを理解しなければいけません」

(画像はイメージ)
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日常に踏み込む会話は行き過ぎ

たとえばオンラインで男性上司が女性の部下の服を褒めるとする。

「“涼し気な服装だね。すっかり夏だね”、“今日の服の色、よく似合っているね”程度であればOKですが、そこからしつこく“いつもノースリーブ派?”といった日常に踏み込んだ会話や、“下(ボトム)はそうすると、何合わせているの?”と後追いするような発言は明らかに行き過ぎです」

褒め言葉のつもりでも相手の受け止め方は必ずしもそうでないことを、発言前に上司はよく考えるべきなのだ。

また部下のいる部屋について上司がコメントするのも要注意だ。

「偶然写ってしまった背景を見て、“それ、○○さんのベッド?”とか、“今は自宅から?部屋、見せてよ”というのも、言われている側は家の中を不必要にジロジロと覗き込まれている気分になります」

こうした発言は間違いなく相手に不快感を与えハラスメントといえるだろう。もはや「悪気はありませんでした」は理由にならないのだ。

相手がいる環境へ配慮した一言を

部屋に関して言えば、バーチャル背景についてのちょっとした発言も相手を不快な思いにさせる。

「男女問わずほとんど方は、バーチャル背景を選択されていると思いますが、輪郭が消えたり、示した紙が見にくいので“バーチャル背景を切ってください”という方が結構多いです。しかしそもそも背景を見せたくないから、バーチャル背景にしているわけなので、見づらい場合には質問のかたちで聞くのが大事です。たとえば『いまバーチャル背景を切れるところにいますか?』という聞き方がいいと思います」

マンションのコミュニティスペースやコワーキングルームなど公共の場でリモートを行う場合、マスクを着用することになるが、オンラインでは声が聞きづらいケースもある。この場合「マスクを取って」というのはどうなのか?

「“マイクを近づけて”なら問題ないですが、“聞こえないんだけどマスク取ってくれる?”と言ってしまうと、強要に聞こえてしまいます。なのでこうした場合も疑問のかたちで聞くといいと思います。たとえば“いまマイクをもう少し近づけられますか?”と聞こえないということはしっかりと伝えながらも、“いまマスクを取れる状況ですか?”とか。相手がいる環境への配慮が必要だと思います」

カフェでのオンラインは周りへの配慮を

最後に公共の場でのリモワの迷惑行為だ。

最近はカフェなどでオンラインの打ち合わせや会議を行っている人をよく見るようになった。しかし周りもガヤガヤしているためか、声のボリュームがどうしても大きくなり、パソコンからの声も筒抜けで、周りの人は聞きたくなくても聞こえてしまうということが増えている。

(画像はイメージ)
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甲田さんはこう指摘する。

「まず仕事の会話を周りの人に聞こえているとしたら問題ですよね。もちろん個室が探せたらベストですが、公共の場でオンラインをやるのであればヘッドセットをつけるのは徹底されるべきだと思っています。また席はできるだけ壁のほうを見て座るのも周りへの配慮として必要でしょう」

リモワの普及にともなうリモハラや迷惑行為の増大をどうすればいいか。

リモートワークへのリテラシーが今後益々必要だ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。