日常戻りホワイトハウス記者会見室は“満員”
ワクチン接種など、新型コロナウイルス対策で世界を牽引するアメリカ。6月上旬時点で、国民の5割がワクチン接種を完了し、街を歩けば、屋外ではすでにマスクを着用しない人の姿が目立つ。レストランやコーヒーショップなども一気に店内飲食を解禁した。6月7日には、これまで厳しい人数制限を課していたホワイトハウス記者会見室もルールを緩和。記者席は満席で、立ち見が出る“満員御礼”となった。

全米初 コロナ探知犬が病院で活躍
日常が戻りつつある中、アメリカでは「コロナ探知犬」の活躍が始まっている。コロナ探知犬とは、その名の通り、新型コロナウイルスの感染者を嗅ぎ分けて知らせる。爆発物や薬物などを見つけ出す警察犬などと同様、強力な嗅覚を武器に力を発揮する。世界の様々な研究機関で、コロナ探知犬の研究・訓練が行われているが、アメリカではすでに医療現場に導入された。なぜ、従来の検査だけでなく、コロナ探知犬が必要なのか。
コロナ探知犬の強みは、群衆の中から、検温などでは感知できなかった無症状の感染者を見つけ出せることにある。
無症状感染者も嗅ぎ分け、的中率95%
全米で初めて、病院で任務に当たるコロナ探知犬「バフィ」は、2歳のメスのラブラドールレトリバー。フロリダ州サラソタ市にあるドクターズ病院で、4月末から任務を始めた。


バフィの探知率は95%。病院の入り口で訪問者のにおいを嗅ぎ、感染者を見つけると、その場に座り込んでご褒美のおやつを待つ。病院の訪問者には、検温や問診などによるスクリーニング検査も行うが、無症状感染者の場合、見つけ出すことが難しい。しかし、バフィは5月、このスクリーニング検査をくぐり抜けた無症状感染者を発見。患者はその後のPCR検査で、陽性と判明した。


新型コロナウイルスに感染すると、人の汗や唾液などの分泌物に特殊な臭いが混ざる。人間の60倍、約3億個以上の嗅覚受容体を備えているコロナ探知犬は、これを嗅ぎ分けることができるという。ドクターズ病院のロバート・ミードCEOは、鼻が長いラブラドールレトリバーは、特に「嗅ぎ分け」の能力が高く、感染者判別の「追加対策」として、病院に欠かせない存在だと指摘する。

ドクターズ病院 ロバート・ミードCEO:
我々は全米で初めて、コロナ探知犬を導入した病院だ。バフィは、スクリーニング検査に引っかからなかった無症状感染者を発見した。この取り組みは実際に非常にうまく機能している。
それだけではなく、患者さん、医師、看護師、従業員から非常にかわいがられている。探知犬というだけでなく、非常にポジティブな「セラピードック」的存在になっている。


すっかり病院になじみ、セラピードックとしても大人気のバフィ。バフィの勤務時間は、週3〜4日。オフの日は、飼い主とともに家で寛ぐという。
“落ちこぼれ”の訓練生がスター探知犬に
“スター犬”として大活躍するバフィだが、最初から順風満帆だったわけではない。元々、盲導犬の訓練を受けていたが、その際にはミスを連発。角を曲がる時、合図をせずに急に進んでしまう失敗を繰り返したり、好奇心が旺盛で周囲の人や車に気を引かれ飼い主の存在を忘れてしまう癖があった。そのため、盲導犬としての訓練ではなかなか合格できない“落ちこぼれ”の訓練生だった。


そんな中、コロナ探知犬の育成プログラムを主導するトレーナー、ラスカ・パロさんと出会い、才能を開花する。

当時、パロさんが働く「サウスイースタン・ガイドドッグズ」では、コロナ探知犬の育成に向く犬を探していた。最も重要な能力は嗅覚。バフィは、おやつを入れた箱を隠れた場所から見つけ出すテストで箱をすぐさま見つけ出し、その箱をひっかくしぐさを執拗に、20回ほど繰り返した。嗅覚の鋭さだけでなく、発見物に対する執着、つまりバフィの「あきらめない根性」を示したのだ。

パロさんは、バフィの持つこの特性がコロナ探知犬に向いていると判断。コロナ感染者の唾液のにおいを嗅ぎ分ける、厳しい訓練を9カ月間、実施した。すると、バフィは盲導犬の訓練の時とはうって変わって、トップの成績を収めた。探知率は95%に達していた。パロさんは、「バフィは病院での任務が大好きで、毎朝いろんな人に会えることを喜んでいる」と話す。バフィ以外にも3匹のコロナ探知犬が訓練を終え、近く学校などでの任務につく予定だ。

コロナ探知犬は、一日に300人近くを嗅ぎ分けることができるという。今後は人が密集することが多い空港、学校、野球場などでの活躍が期待されている。
【執筆&表紙デザイン:FNNワシントン支局 石橋由妃】