目が見えないのは不便だけど、不幸じゃない…“相棒”片手に続ける旅
北海道在住の全盲の写真家・大平啓朗（おおひら・ひろあき）さんは、全国を旅しながら撮影をしている。
街の音、人の気配…。感じた一瞬を切り取る大平さんは、自分にしか撮れない写真を撮り続けている。
「凱旋門」、「エッフェル塔」、「カンボジアの子どもたち」…。全盲の旅カメラマン・大平啓朗さん（41）は、これまで様々な場所で写真を撮ってきた。
普段は北海道に住んでいる大平さん。この日は、名古屋に一人旅。
まずは荷物を預けるために、ホテルへ。スタッフに案内された部屋で、まず確認したのは電話の位置。
大平さん:
困った時は頼るって決めて、最初に聞くのは電話の場所。でも、やっぱり一人でなんでもやりたい
目が見えないのは不便だけど、不幸じゃない。1人でできることは何でもやる。
そして、バッグから取り出したのはカメラ。
大平さん:
相棒。これがあるから歩きに行きたくなる。撮って見せたくなる、旅の仲間
行き交う人たちの気配「音と匂いはドラマ」…大平さんだけに見える世界
相棒のカメラを持って街へ。友人と会うために名古屋市西区の円頓寺商店街にやってきた。大平さんは、待ち合わせ場所に向かってくる友人に向けて一枚。
大平さん:
人の表情を（シャッター）切るのが好き。引き出せるシーンを作って…
商店街を行き交う人たち。街の音…人の気配…。大平さんにだけ見える世界がある。
大平さん:
チャリンコ行ったね。来た来た来た、コンコンコン（足音）、ありがとう（シャッター切る）
音を頼りに次々にシャッターを切る大平さんは、「音や匂いは、ドラマ。感じた一瞬を楽しみたい」と話す。
研究室の劇薬誤飲し失明…それでも「新しいゲーム始まった」
大平さんは、高校生の頃カメラを始めた。当時はまだ目が見えていた。
しかし24歳の時、大学院の研究室の劇薬を誤って飲んで失明し、後遺症が残った。
起きたら目が見えなくなっていたが、目が見えないのは、絶望とは思わなかった。世の中には、目の見えない人がたくさんいる。自分も大丈夫と思えたのだ。
大平さん:
新しいゲーム始まったって…。見えない大平バージョンでいこうって感じで思ったから…
新しいゲームが始まる。失明して人生が面白くなった、そう考えた。
写したいのは“小さな幸せ”…「本当に大切なモノは身近にある」
大平さん（YouTubeより）:
みなさんこんにちは！おーちゃんです！今日はね、写心（写真）を撮る感じで…。僕ね、感じて撮るんですよ
大平さんは自分の挑戦をYouTubeで配信している。段ボールに行き先を書いて、ヒッチハイクをしたり、馬に乗って田舎町を歩いたり…。写真を撮るために、日本一周の旅に出た。
函館で歩いていた時に、撮った1枚。タイトルは「こぼれ陽」。
大平さん:
葉っぱが揺れて、カサカサカサって。隙間から太陽がこぼれて…。暖かい緑と力強い太陽って感じで撮ったかな
大平さんが写したいのは、小さな幸せ。
大平さん:
見えなくなって思ったのが、小っちゃいハッピーがめちゃくちゃあるんよ。本当に大切なモノとか、すげー身近にあるんだなって
心が動いた瞬間にだけシャッターをきる…偶然の出会いでベストショット
大平さんは、心が動かなければシャッターは切らない。「伝えたいドラマが無い時は撮らない。僕にしか撮れない一瞬を切り取って伝えたい」と話す。
商店街の居酒屋でトイレを借りた大平さん。この店で心が躍るステキな出会いがあった。
大平さん:
トイレを貸してもらったら、お兄ちゃんが出てきてイエス！みたいな。じゃあ1杯ちょうだいよって言って
トイレのお礼に日本酒を1杯。（乾杯してシャッター切る）この日のベストショットが撮れた。
「かんじんなことは、目に見えない」…みんなを幸せにする「全盲のハッピーマン」
大平さんは全国の小中学校で、自分の体験を話し、みんなをハッピーにしたいと考えている。
大平さん（中学生へのオンライン授業）:
波照間島。海の匂いって優しい香りがするなって…。（写真見せて）波を見てるとね、ザバーってサンゴ礁の砂浜に染み込む音なわけよ。砂がサラサラだから滑らかだったの
匂いと砂に染みこむ波の音に感動した事を、1枚の写真で表現した。「好きなことがあったらまずやってみて。続ける事が仲間を呼ぶから」と中学生にアドバイスを送る。
全盲のハッピーマン、大平さんには、大切にしている言葉がある。
「心で見なくちゃ、物事はよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」（サン＝テグジュペリ「星の王子さま」より）
大平さん:
僕の写真は1人でも見てくれるからシャッターを切る。なんだろ、生きてる…生きてるが写真じゃない？
「人生を懸けて目の見えないことに恩返ししたい。見えなくなってラッキー」
心を写す写真家だ。
（東海テレビ）
