原発事故を後世に伝えていく「伝承館」

東日本大震災と福島第一原発の事故から今年で10年。2021年3月、長崎から「被災地のいまをこの目で見たい」と、福島県双葉地区を訪れた。

この双葉地区に2020年秋に誕生した「東日本大震災・原子力災害伝承館」は、実は、長崎とも深い関りがある。

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福島県双葉郡、富岡町の桜並木。原発から約10キロの富岡町にも少しずつ住民が戻ってきた。今は震災前の1割強が町内で暮らしている。

しかし、原発が立地する大熊町、双葉町は、復興のための道路などを除いてほとんどの地域が「帰還困難区域」となっている。

その双葉町に2020年9月、この地域で起こった震災と津波、そして原発事故を伝える「伝承館」がオープンした。館長を務めるのは、長崎大学の髙村昇教授。

震災直後から福島の人々の放射線への不安に寄り添い、今も住民の帰還に向けた支援を続けている。

東日本大震災・原子力災害伝承館 髙村昇館長:
福島というのは地震と津波と原子力災害という複合災害。こういう複合災害というのは世界で経験したのは福島だけなんです。そういったこともあって長崎から支援をしてきた私に話があったのかなと

伝承館では、この地域で何が起き人々の生活がどう変わったのかが分かる写真や資料、映像を展示している。

この伝承館を、地元の双葉地方消防本部の人たちと一緒に訪れた。

金澤文男さんは、震災直後は救急隊として傷病者の救急搬送に当たった。

双葉消防本部総務課 金澤文男課長:
不思議と一列に並んでてね、脇を抜いていく人いなかったんですよね。おかげで渋滞にならずに、一定の人の、救急搬送された人たちの命を守れたかなと思いました

他の震災被災地にはなくてここにだけあるものが、原子力災害を伝える資料だ。原発とともに発展してきた町の歴史を伝えるポスターや写真は、安全神話を疑わなかった過去を浮き彫りにしている。

長期化する事故の影響、健康不安や避難生活による心労、風評被害まで…
この土地で何が起きたかを伝える「伝承館」だが、すべてを前線で見てきた消防隊員たちにとっては、スクリーンやガラスケースの中の展示物は被害の実相を伝えきれていないのではないかという思いもある。

2011年3月16日、福島第一原発4号機の火災に出動したときの様子が再現されている。防火服の下に放射線防護のタイベックスーツを着用し、マスクの隙間をガムテープで塞いでいる。

双葉消防本部総務課 金澤文男課長:
全面マスクすると誰か分からないので、胸と背中に名前を書いたのを貼って誰かわかるようにしていた。写真にあるように…

この時向かった現場では、放射線量が100ミリシーベルトとの情報を受け、全員、緊急退避したという。

防災無線ですべての住民に避難を呼び掛けた、川内村の遠藤村長の声も残っていた。

川内村 遠藤雄幸村長(当時の声):
また川内村にお戻りになった時は、 川内村再生のために一緒に頑張っていきましょう、お元気で!

原発から約20キロの距離にある川内村は、村ごと郡山市に避難した。
しかし、山間の村で津波の被害がなかったことや、放射線の影響が想定していたよりも低かったことから、震災の翌年には役場機能を村に戻し、今は8割の住民が帰還している。

髙村さんは、長崎と福島を行き来しながらこの10年、住民の帰還を支えてきた。

9月のオープン以来、「伝承館」には福岡や北海道からも修学旅行生が訪れた。長崎からも2つの高校が訪問を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い中止となった。

髙村さんは、「いつか多くの人にこの場所を訪れてほしい」と話す。

東日本大震災・原子力災害伝承館 髙村昇館長:
伝承館は双葉町というところにあるんですけどまだ、誰も戻ってないし、津波被害を受けてそのまま残ってる家とか10年間避難されたままで傷んでいる家とか、震災、原子力災害、津波被害、遺構が残っている。伝承館を見るのと合わせてそういったものも見ていただきたい

伝承館の屋外には、かつて町の中心部の道路に誇らしげに掲げられていた標語の看板が展示されている。

双葉消防本部総務課 金澤文男課長:
これまでの10年、これからの…まだまだ何年かかるか分からないけど、これは広島・長崎と同じ原子力放射線の被害を受けたところ、その人たちがまだ苦しんでいる状況と同じなので、「終わりではない」ということだと思います

東日本大震災・原子力災害伝承館 髙村昇館長:
10年前、福島でどういう災害が起こって、住民、自治体、県、国がどういうふうに対応して、事故の収束から除染、復興、帰還にどう取り組んだかを知ってほしい。単に福島県内、国内にとどまらず、国際的にも発信できる情報の発信拠点、知の交流拠点という位置付けになっていきたい

原発事故の被災地に完成した「伝承館」は、今も続く事故の影響も、そこに暮らす人々の思いもすべてを含めて、後世に伝えていくという重要な役割を担っている。

(テレビ長崎)