温暖な気候と豊かな自然、琉球王国時代の流れをくみ、独自の文化が育まれてきた沖縄。
近年ではリゾート地としてのイメージが強いが、沖縄の観光は、時代によって変遷してきたことが見えてくる。

戦後は慰霊訪問から…「沖縄ツーリスト」が米国民政府と交渉も

太平洋戦争末期の沖縄戦。住民や軍人などあわせて20万人余りが犠牲となり、沖縄は焦土と化した。

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復興に向けて歩み出す中で、1950年代から、ある目的のため、全国各地から沖縄を訪れる人が徐々に見られるようになった。

沖縄ツーリスト・宮里政欣さん:
観光客というよりは、訪問で沖縄に来ている本土の遺族ですね。遺族などが沖縄に来るようになった

沖縄ツーリストの相談役の宮里政欣さん。沖縄ツーリストは、宮里さんや初代社長の東良恒さんなど、6人の若者が1958年に創業した。

沖縄ツーリスト・宮里政欣さん:
平和になって、人の行き来が自由になってくる。事業としては、これから将来有望な事業じゃないかと

1960年代ごろには、都道府県ごとの慰霊碑の建立が始まる。

沖縄ツーリスト・宮里政欣さん:
(兄弟や親族は)どこで亡くなったんだと、場所を知りたいと

遺族の切実な願いに応えるため、元日本兵から部隊がどこに配置されていたかを聞き取り、沖縄戦について調べ、案内したという。

沖縄ツーリスト・宮里政欣さん
沖縄ツーリスト・宮里政欣さん

沖縄ツーリスト・宮里政欣さん:
沖縄の戦争の状況がよくわかったと、とても喜んでもらいましたよ

ところで、復帰までアメリカの施政権下に置かれた沖縄への渡航には、パスポートが必要な時代でもあり、米国民政府・USCARは、沖縄への渡航者についてにらみをきかせていた。

沖縄ツーリスト・宮里政欣さん:
終戦後になって思想も自由になり、共産党とか革新関係はだめだと。保証人がないと沖縄に入れない

アメリカ軍の政治的な思惑とは別に、遺族の気持ちを痛いほど理解していた宮里さんたちの気持ちは1つだった。

沖縄ツーリスト・宮里政欣さん:
聖地巡礼の人たちだから許可しなさいよと。沖縄ツーリストを引受人にして、米国民政府と交渉して

観光の主流となった慰霊訪問。復帰を迎えた1972年には、慰霊訪問団だけで、1年間に20万人が訪れるまでになった。こうして黎明(れいめい)期を迎えた沖縄観光は、本土復帰から3年後に大きなインパクトが訪れる。

海洋博が機運に…社会インフラの整備も

OCVB・下地芳郎会長
OCVB・下地芳郎会長

OCVB・下地芳郎会長:
海洋博覧会というのが1つのメインイベントですけれども、それを成功させるための空港のインフラだったり、自動車道だったり、沖縄の社会を大きく変化させたイベントだった

沖縄観光コンベンションビューローの下地芳郎会長は、本土復帰の記念事業と位置づけられ、社会資本の整備となった海洋博こそ、沖縄県が観光を産業の大きな柱にしていく機運になったとみている。

OCVB・下地芳郎会長:
農業、製造業というのは、島しょ地域の特性としてコストも含めて難しい。観光も外貨を稼ぐ産業としては、非常に重要な産業という認識が高まってきた

一方で、海洋博の閉幕後には、企業の倒産、失業者の増大、地価の下落など、光と影の部分も経験した。

その後、観光は徐々に持ち直し、1980年代には航空会社が沖縄旅行キャンペーンを展開する。

1992年には首里城の復元、2000年の沖縄サミット、クルーズ船を中心にした外国人観光客が大幅に増加するなど、復帰の年に44万人だった観光客は、2018年度には1,000万人までに成長した。

OCVB・下地芳郎会長:
観光収入を県内に幅広くシャワー効果として普及させていこうというのが、これまでの観光政策だった。観光に取り組んできた中で県民の生活の豊かさというのは、利便性という部分も考えると大きく向上したと思っています

課題も…「安心・安全な観光」を

一方で、豊かさの指標である県民所得に観光客の伸びが反映されていないことや、開発による環境への負荷、そして外的な要因による影響をいかに抑えていくかなど、課題も残されている。

OCVB・下地芳郎会長
OCVB・下地芳郎会長

OCVB・下地芳郎会長:
2001年には米国同時多発テロ事件の影響で大きな影響を受けました。そのあともSARSの流行だったり、新型インフルエンザ、東日本大震災、いろんなことを経験しながら強い観光を目指してきた

さまざまな難局を乗り越え、成長を遂げてきた観光だが、今、新型コロナウイルスという未曽有の危機に直面している。

OCVB・下地芳郎会長:
まずはコロナの影響から脱却するために、最優先は安心・安全な観光。これはずっと沖縄観光のテーマでもあります。これからの観光のトレンドでは、まず安全・安心というのが大前提

また、復帰前後の激動の時代を見つめきた沖縄ツーリスト・宮里政欣さんは、「やっぱり平和で自由に人が行き来できるということじゃないですか」と強調する。

戦後の慰霊訪問、観光とあわせた社会インフラの整備、そしてリゾート地へと、時代ごとの変化に合わせ発展・進化したことに、沖縄観光の本質が表れているように感じられる。

復帰50年の節目を迎える中で、歴史を知ることは、沖縄観光の未来を開く鍵となりそうだ。

(沖縄テレビ)

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