新型コロナウイルスの高齢者施設でのクラスターが後を絶たない中、入院先がなく、施設の中で命を落とす患者が相次いでいる。
施設を訪問して治療にあたる大阪の医師が取材に応じ、厳しい現実を証言した。

看護師:
ごめんね、ちょっと点滴しておくね。手が冷たいな、きょう。

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クラスターが起きた、大阪府内の高齢者施設。
治療を受けているのは、新型コロナウイルスに感染し入院先が見つかっていない女性だ。

生野愛和病院 渡辺克哉医師:
おしっこ行くの、しんどくないかい?おしっこの管、しんどいなら入れとくか?

生野愛和病院の渡辺克哉医師(46)。
看護師2人とチームを組み、大阪府内の複数の高齢者施設を訪問して、入院を待つ新型コロナの患者の治療にあたっている。

渡辺医師はいまも10人ほどの患者を診ているが、その半数は施設で治療できる状態を超えている。
高齢者施設で患者に投与できる酸素の量は病院よりも少なく、できる治療には限界があるという。

渡辺医師:
(施設では)酸素の機械を2台つないで最大で10ℓまで酸素を流せるが、(容体が悪い患者は)10 ℓ流しても呼吸不全の状態。病院なら何をするかというと、(酸素を)15 ℓまで流して、それで無理だったら人工呼吸器管理です。

保健所に患者の状態を伝え入院が必要だと訴えるが、あとは返事を待つしかないという。

渡辺医師:
(第4波は)ひどい、圧倒的にひどいです。受け入れ先がないということは、今まではそこまでのことはなかった。これが現実やと。本当にもう…経験したことはないけど、野戦病院ってこんな感じなのかなと。

自らが感染を拡大させるリスクも考え、渡辺医師は週に2、3回はPCR検査を受けている。
さらにコロナ患者の訪問診療を始めてからは病院の中には入らず、待機中も車の中で過ごしている。

渡辺医師は連日、クラスターが発生した高齢者施設などを訪問していた。
この日、渡辺医師が訪問した施設には、4月上旬の時点で、入院先が見つからないコロナ患者が4人いた。
施設の職員も渡辺医師の指示を受けながら、患者の対応にあたっている。

(渡辺医師と高齢者施設の職員のやり取り)
「どうでした?バイタル」
「いいです」
「きょうは様子見?」
「あした、やりましょうか」

渡辺医師:
(患者は)まだ予断を許さない状態だけど、一番悪い時に比べたら、ちょっとよくなっている感じはしますね。

車に戻り、患者の状況を保健所と家族に知らせる。

患者の家族に電話する渡辺医師:
生野愛和病院内科の渡辺です。(投与する)酸素の量をちょっとずつ下げていけるかなと思うので、連日状態をみながら酸素の値を少しずつ下げていこうと…

しかし、この日診療した患者の1人は容体が悪化し、2日後、施設の中で息を引き取った。

渡辺医師は第4波の中、複数の施設で、入院できないまま亡くなる患者を3人看取った。
こうした中で、自分の感覚が「麻痺してきている」と感じていると話す。

渡辺医師:
高齢者施設の患者が(酸素飽和度)80%台と聞いて、なんか、ちょっとそこに慣れてしまっている自分がいますもんね。普通やったら慌てて、呼吸不全やと。家族さんに慌てて電話をして病院に連絡をとって、紹介状つくって、救急車呼んでという流れになるところが、いまはコロナの患者さんやなあ、80%台なあ、酸素いま何リットル?ほな、もっと上げようかとなりますもんね。慣れといえば慣れなんでしょうね。

大阪府は今年3月以降、18人の感染者が医療が届かずに自宅などで亡くなったと発表している。(5月16日時点)
ただ、高齢者施設で入院できないまま亡くなった人は、医師の往診を受けていれば「医療が届いていた」として、発表の中には含まれていない。

その後5月17日に、大阪府は、今年3月以降、高齢者施設など102の施設でクラスターが発生していて、このうち6施設の25人が施設での療養中に死亡したと発表した。

コロナの病床がひっ迫する中、患者の家族にも難しい判断をしてもらわなければならない。 

渡辺医師:
保健所が最初に僕らに聞いてくるのが、病院に行ったときに救命処置をするかどうか。人工呼吸器をつけますか?とか、エクモみたいな人工心肺をつけますか?そこまでの加療を(家族が)希望されていますか?と必ず聞かれるので。一番最初に陽性になったときに、家族にその確認をするようにしています。受け入れ先がないからです。人工呼吸器、エクモをつける高度医療機関となると、数がもっともっと少なくなりますから。もし人工呼吸器やエクモを希望されないというのだったら、家族はこう言っていますと。そうすると、受け入れの間口がちょっと広がるので。

やむを得ず、人工呼吸器を希望せずに入院を優先したいという家族もいる。
それでも受け入れ先が見つからず、命を落としている現実がある。

渡辺医師:
実際に高齢者施設に両親を預けている人でなければ、まったくわからない別世界だと思いますが、これは実際に、もう大阪で起こっていることです。

(関西テレビ)

関西テレビ
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