村の懇親会でぶどう酒飲んだ17人中5人が死亡…無実訴えながら「獄中死」した兄

1961年3月に発生した三重県の「名張毒ぶどう酒事件」。女性5人が殺害されるなどしたこの事件は、3月28日で事件発生から60年を迎えた。
この事件で、無実を訴え続けた奥西勝元死刑囚は、5年半前に獄中死した。

現在も裁判のやり直しを求め続ける遺族。そして、事件の影響を受けた被害者や地元には、「60年間のそれぞれの思い」があった。

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3月、奥西勝元死刑囚の妹・岡美代子さん(91)は、5年半前に無実を訴えながら獄中死した兄の眠る墓前に手を合わせた。

岡さん:
60年が過ぎました。長かったです。いい結果をいただきたいな、毎日そればかり

1961年(昭和36年)3月28日、名張市葛尾で発生した「名張毒ぶどう酒事件」。村の懇親会でぶどう酒を飲んだ女性17人のうち、5人が死亡、12人が重軽傷を負った。事件から6日後、「自白」した奥西勝が逮捕された。

しかし、逮捕後に一転、無実を主張。一審の津地裁は「自白に信用性がない」として無罪。一方、二審の名古屋高裁は逆転、死刑判決。1972年、最高裁で死刑が確定した。

その後、獄中から再審(裁判のやり直し)を繰り返し求めた奥西元死刑囚。事件発生から33年後の2005年、7度目の請求で「再審の開始」を勝ち取ったが、その翌年(2006年)取り消しに。

それでも無実を訴え続けた奥西元死刑囚だったが、9度目となる再審請求中だった2015年10月、収容先の八王子医療刑務所で息を引き取った。89歳だった。

名張市葛尾の区長「自分達の世代で終わらせたい」…忘れたい過去と薄れゆく記憶

事件から60回目の春を迎える、名張市葛尾。
ぶどう酒を飲んだ17人のうち、現在存命しているのは3人だけだ。事件でぶどう酒を飲んだ高橋一己さん(94)は…、

高橋さん:
ようけ(たくさん)飲まへんかった私は。まぁ、死にかけはしとるけどな

高橋さんは、事件を思い出す事はもう無いと話す。忘れたい過去と、薄れゆく事件の記憶…。

現在、葛尾の区長を務める南田耕一さん(64)は、当時4歳で事件の記憶はないが、その影響は村に残り続けたと振り返る。

南田さん:
やっぱり後ろめたいと言ったらおかしいですけど、出身は言いにくい部分はあるんですよ

南田さんは、「遺族も私たちも前に進むために、事件を子や孫に引き継ぐのではなく、自分たちの世代で終わらせたい」と話す。

事件を受け離れた人、跡継ぎ不足による過疎。当時、110人だった葛尾地区の人口は、今では32人となった。惨劇の現場となった公民館は、34年前、村人によって解体され、ゲートボール場になった。

消えゆく、当時の面影。死亡した女性5人を追悼する慰霊碑だけが、事件を今に伝えている…。

10回目の再審請求「死後再審」…2020年には鍵となる「2つの新たな動き」が

無実を訴え続けた兄の遺志を継いだ妹の岡さんは、兄の獄中死から一か月後、10度目の再審請求を名古屋高裁に申し立てた。いわゆる死後再審だ。

岡さん(会見):
兄は絶対にやっておりませんので、無実を信じております。どうぞ皆さん助けてください

そして2020年、2つの新たな動きが出てきた。1つは、弁護団が着目した、毒の入っていたぶどう酒の瓶の「封かん紙」。その裏側から製造時に使用されていたのり以外に、別の家庭用のりの成分が検出されたとする、鑑定結果を提出した。

弁護団は「再鑑定の結果から、公民館に持ち込まれる前に別の人物が瓶を開け毒を入れ、封かん紙を貼り直した可能性が高い。裁判所は再審開始、無罪の方向に動いてほしい」と主張する。

2つ目は、検察側が15年ぶりに新たに開示した、警察による懇親会の参加者の供述調書だ。有罪の最大の決め手となった奥西元死刑囚の「自白」では、ぶどう酒の入った瓶に毒を入れる過程について「公民館で、火ばさみで王冠を突き上げて取り、封かん紙も一緒に切れてその場に落ちた。急いでいたので、どこに落ちたのか思い出せない」としていた。

しかし開示された7人の調書ではこのうち3人が、懇親会が始まる前に封かん紙は王冠に「巻いてあった」などと供述。弁護団は、自白と矛盾すると指摘する。

名張事件の弁護団(2020年6月):
公民館に持ち込まれる前に、会長宅に1時間以上置かれていた。その機会に真犯人が封冠紙をはがして毒を入れ、洗濯のりで張り付けて復元したという事実を推測させる

弁護団は、「無罪を証明するような重要な証拠を意図的に隠していたことは、検察官の冤罪隠し」と強く指摘する。

物的証拠がないまま、「自白」が決め手となった名張毒ぶどう酒事件…。新たに出てきた関係者の供述調書。そこに捜査側の意図的な隠蔽があったとすれば、翻弄された村人も犠牲者だ。発生から60年、事件はまだ終わっていない。

(東海テレビ)