"あなたの人生最高の一冊”を子どもたちへ
コロナ禍でクラウドファンディング市場が急拡大している。
クラウドファンディングとは、インターネットを通して、そのプロジェクトの目的や意義に共感した人から資金を募る仕組みだ。
「児童養護施設の子どもたちに1万冊の本を届けたい」
2021年4月に、支援金3000万円を募るクラウドファンディングのプロジェクトが立ち上がった。
その名はJETBOOK(ジェットブック)作戦。

児童養護施設とは、保護者がなんらかの理由で育てられない子どもが生活する場で、自立を支援する。
このJETBOOK作戦は、児童養護施設に本を届けるため、本の購入代、郵送代などにあてる資金を寄付する人を募っている。寄付は一口3000円から。
お金を寄付するだけでなく、施設に贈りたい「最高の一冊」を選び、なぜその本を選んだか、想いをメッセージカードに書くこともできる。
参加者の一人として、贈った本の前で、子どもたちがどんな顔をするか想像するとわくわくするプロジェクトだ。
山内ゆなさん:
どんなに遠くにいても、本を通じて繋がり合うことができる。ジャンボジェット機のように、力強い想いを届けたいという想いが、このプロジェクトの名前には込められています

こう話すのは、JETBOOK作戦を立ち上げた山内ゆなさん(18)。
山内さん自身も、2歳から児童養護施設で育った。大学に進学し、2021年の3月に施設を出て、ひとり暮らしをしている。
10代が中心になって運営するクラウドファンディングでは、この3000万円という目標支援金額は過去最高になる(READYFOR調べ)。
山内さんがこのプロジェクトを立ち上げたきっかけは、同じ施設に住む小学5年生の女の子から「本読みたいから、教科書貸して」と言われたことだった。
施設では、読みたい本やインターネットを自由に使う環境が整っていなかったり、スマートフォンを持っている子が限られていたりと、様々な面で情報を得る機会が少ないと感じていたという。
さらに、新型コロナウイルスの影響で、アルバイトを含めた外出が制限され、ますます新しい情報に触れる機会が失われてしまっている。
ネット環境を整えるためには莫大な費用がかかる。
まずは、「本」という身近な形で、施設の子どもたちに新しいことを発見する機会を贈りたいと考えた。
コロナ禍で増加するクラウドファンディング
2020年からこうしたクラウドファンディングの支援額が増えている。
日本クラウドファンディング協会によると、2019年上半期(1月~6月)と2020年上半期を比較すると、購入型クラウドファンディング(寄付するプロジェクトも含み、JETBOOK作戦も該当)の支援額は、77億円から223億円と約3倍に増えている。
コロナ禍で生活様式が一変し、「家にいながら何かできることはないか」と考える人が増えていることが大きいという。
簡単な支援、明確なお金の使い道、目に見える手応えが魅力だ。

日本ではじめてクラウドファンディングを始めたREADYFOR(レディーフォー)によると、2019年から2020年にかけて、10代、20代の支援者が急増している。10万円のコロナ給付金の使い道として考えた人も多かったと見られる。
このJETBOOK作戦をはじめとした、子ども・教育関連のプロジェクトで見ると、2019年の一年で約10億円だった支援金額は、2020年の一年で約24億円、約2.5倍に増えている。
コロナ禍ならではのつながり方
このプロジェクトは2020年12月に続いて2回目。
初回は、山内さんがほぼ一人で運営した。ブログなどで想いを発信し、約300冊の本を集め、届いた本を一冊一冊確認し、持ち帰って地道に施設に届けた。

2回目の今回は、クラウドファンディングのプラットフォーム「READYFOR」で発信され、イラストエッセイストの犬山紙子さんや、プロゴルファーの東尾理子さんなど、著名な顔ぶれが応援メンバーとして並ぶ。
徐々に大きなムーブメントになったきっかけの一つは、音声SNSのclubhouse(クラブハウス)だった。少しでも多くの人に児童養護施設を知ってもらいたいと、発信していたところ、READYFORの関係者をはじめ、多くの人とつながっていったそうだ。
その中の一人、ソーシャルワーカーとしてJETBOOK作戦を支える安井飛鳥さん(36)。
安井飛鳥さん(36):
ゆなちゃんが話しているのを聞いて、おもしろいことをやっているなと思って参加しました。
このプロジェクトにはゆなちゃんを始め、施設経験者も関わっていて、そうした若者と協働する中で僕自身、新たな気付きや学びの機会にもなっています
対面でなかなか人と会いづらい今、こうしたSNSを通じたつながりはコロナ禍ならではとも言える。
まずは「児童養護施設」を検索して
JETBOOK作戦は、100カ所の児童養護施設に100冊ずつの本、計1万冊を届けることを目標にしている。
1万冊の本は、100カ所の児童養護施設の近くにある、100カ所のいわゆる「町の書店」で購入し、施設に届ける予定だ。地域にお金を落としたい、という思いと、近くに児童養護施設がある、と書店などにも知ってもらい、子どもたちが気軽に行ける場所にしたい、という山内さんの思いがある。

また、もっとたくさんの人に児童養護施設について知ってもらうのも、このJETBOOK作戦の目的だ。そのために、このプロジェクトの参加目標人数を1万人に設定した。
山内ゆなさん:
児童養護施設で生活している、というと、「かわいそう」と言われたり、少年院と一緒と勘違いされることがあったんです。正しく理解されていない。暗い場所ではないし、反省する場所ではないし、集団生活なのでルールはありますけど。まずはどんな場所なのか、知ってもらいたいです。
まずはネットで「児童養護施設」と検索してみてほしいです。YouTube(ユーチューブ)などの動画配信で、施設で育った人が発信していたりもするし、見てみてほしいです
「頼れる人がここにもいるよ、と伝えたい」
JETBOOK作戦の参加人数は1600人を突破した(5月12日現在)。

山内ゆなさん:
たくさんの人に協力してもらって大変ありがたく、嬉しく思っています。
まだまだ目標の1万人には遠いので、目指していきたい。頼れる人がここにもいる、応援してくれる人が1万人もいるよと、施設の子達に伝えたいです
JETBOOK作戦は5月31日まで支援を募集している。
https://readyfor.jp/projects/JETBOOK
(井出光 フジテレビ経済部記者)