「夢の次世代電池」一番乗りは中国EV企業?

4月19日に開幕した上海モーターショー。トヨタがSUVタイプのEV(電気自動車)を世界初公開し、ホンダも中国で来春発売するEVを披露するなど、EV一色となった。世界的な脱炭素の流れのなか、中国でも2035年までに新車販売の50%以上をEVなどの「新エネルギー車」とする計画が示されていて、各社がアピールに必死だ。

そんなモーターショーに先立つこと3カ月。中国の新興EVメーカーが夢の次世代バッテリー「全固体電池」を世界で初めて実用化した―?そんなニュースが一部で話題になった。

中国車のイメージを覆す、洗練されたデザインのNIOのEV
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次世代バッテリー開発で注目を集めた中国メーカーとは、2014年創業の「NIO(上海蔚来汽車)」。EVメーカーが次々と生まれては消えていく中国の中でも、優れたデザインや性能が評価される注目株だ。売れ筋のSUVが約600万円からという高級路線もあって「中国のテスラ」と呼ばれることが多い。このNIO、1月に開いたイベントで突如「22年中に航続距離が1000キロを超える『固体電池』を投入する」と明らかにしたのだ。日本を代表する電気自動車・日産リーフの航続距離が500キロ前後なので、驚きの高性能だ。

EVの普及のカギはなんと言ってもバッテリーの性能アップだ。現在主流の、リチウムイオン電池(電池内部に電解液という液体が使われている)の性能も日に日に向上しているが、やはり航続距離や充電時間という点で、ガソリン車の便利さにかなわない。これに対し「全固体電池」と呼ばれる電解液を使わない電池は、容量の大幅アップや、充電時間の短縮が期待できるとされ、EVに対するユーザーの不満を劇的に減らす「夢の電池」になり得るとも目されている。世界各国のメーカーが実用化に向けてしのぎを削り、日本ではとくにトヨタが開発に力を入れていることで知られる。

本当に「全固体電池」? NIO幹部を直撃

安徽省合肥市にあるNIOの生産拠点

NIOは「固体電池」という表現を使い、詳細は明らかにしていないのだが、もしこれが「全固体電池」であれば、衝撃的なニュースだ。ただ中国メディアのなかには、全固体の一歩手前の技術「半固体電池」なのではないかとの指摘もあり、真相ははっきりしない。

なかなか取材の申し込みに応じてくれなかったNIOだが、モーターショー直前、ようやくその機会を得ることができた。単独インタビューに答えた生産を担当する幹部・辜向利(コ・コウリ)氏は、独自の「固体電池」に自信を示した。

辜向利・合肥先進製造基地総経理

「バッテリーの技術は猛スピードで進化しています。次に出る(新型セダン)et7には150kWhの最新の量産固体電池を搭載します。2022年の第4四半期には量産できると自信を持っています」。

「『全固体』なのですか『半固体』なのですか?」たまらず質問すると、辜氏はにっこり笑って答えた。「業界でも技術の定義ははっきりしていなくて、皆が半固体か全固体かと議論しています。我々のは半固体より進んだ、最新の量産固体電池だと思います」。やはり全固体電池とは言えないのだなー、という確認はできたが、技術への自負は十分に感じられた。

3分でバッテリー交換 NIOのユニーク戦略

「固体電池」の正体が明らかになるのはもう少し先になりそうだが、EVの根幹とも言えるバッテリーに関して、NIOの取り組みは非常にユニークで、ある部分では本家テスラ以上に先進的と言えるかもしれない。

NIOのバッテリー交換ステーション

NIOの車はすべてバッテリー交換式で、通常の充電のほか、全国200か所ある専用の施設で充電済みバッテリーに交換をすることができる。全自動で行われる交換作業はわずか約3分で、充電時間というEVの弱点をうまくカバーしている。また、長年の利用によるバッテリー劣化の心配がいらず、より高性能なバッテリーが開発されたときには載せ替えられるというのもメリットで、新たな「固体電池」は、すでに販売済みのNIOの車にも取り付けが可能になるという。

車体の下部から自動でバッテリーが取り外され交換される

さらにこのバッテリー交換方式がEVの「売り方」にまで変化をもたらしている。車の購入時、バッテリーを所有しないレンタルプランを選ぶと、車両価格が約120万円値引きされる。ユーザーは月約1万2千円の会費を払えば、月6回までバッテリー交換ができるという。言ってみればバッテリーの「サブスク」である。NIOの辜氏は「EVのなかでも高価なパーツであるバッテリーをレンタルにすることで、購入のハードルを下げられるし、バッテリーが常に理想的な状態であることを保証できます」と強調する。NIOが「BaaS(バッテリー・アズ・ア・サービス)」と呼ぶこのプラン、直近では6割の購入者が選択するという。

「テスラと比べられるのはとても自然なことですが、私たちは自分で『中国のテスラ』とは言いたくないんです。私たちの販売価格は平均して(テスラより)250万円高くて、客層が違います。ライバルでもありますが、EVの市場を発展させるチームメイトですよ」。テスラとの比較を意識した上で客層の違いを指摘し、余裕まで漂わせる口ぶりだった。

“本家”米テスラは大逆風 さらに中国EVが躍進か?

モーターショー会場でテスラ車によじ登る女性(ウェイボより)

折しも本家テスラはモーターショーの会場で、ある事件に見舞われた。テスラ車のオーナーだという中国人女性が、展示された車の上によじ登り、ブレーキの不具合のせいで事故が起きたと訴えたのだ。この様子はすぐに中国のネットで拡散されたが、中国共産党系メディアなどは、なぜか女性ではなくテスラの対応を非難。テスラは、苦情に適切に対応しなかったとして、謝罪に追い込まれることになった。

上海にアメリカ国外では唯一の工場を構え、中国重視をアピールしてきたテスラだが、米中関係が悪化の一途をたどるなか、今後は強い逆風にさらされそうだ。世界最大の自動車市場中国で、NIOをはじめとする中国メーカーの勢いはさらに加速するとみられ、日本勢も正念場を迎えることになりそうだ。

【執筆:FNN北京支局 岩佐雄人】