上野を撮り続けた92歳の写真家

400メートル以上にわたり桜並木が咲き誇るさくら通りは、上野公園の中でも人気のスポット。多くの観光客が、酒や肴を持ち寄って宴を繰り広げる場所だ。

しかし、2020年は新型コロナの感染拡大阻止の為に封鎖された。

2021年は片側通行に規制されたものの、観光客が訪れ桜を楽しんだ。

片側通行の上野公園さくら通り 2021年
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桜並木の中を愛用のカメラ片手に軽快に歩き回る高齢の男性の姿があった。

写真家の須賀一さん。

須賀一さん(92)

上野に生まれて92年。地元の街の風景を記録し続け、多くの写真集を出版し、数十年以上にわたりカレンダーの撮影を担当してきた。

須賀一さん:
上野は俺の遊び場だよ。坂になっているところでスキーをやって、不忍池で釣りをやって遊んでた

2020年の上野公園は「初めての景色」

毎年、上野公園を撮影している須賀さん。

2020年は今までとは違う景色が広がっていた。

須賀さんが去年撮影した写真。

さくら通りが閉鎖された際に撮られた1枚だ。

2020年3月27日 撮影:須賀一さん

須賀一さん:
初めて。上野公園に人がいなくなったのは。92年上野にいて、あんなに上野公園に人がいないのは初めて見た。本当、何も。しーんとしちゃって。

上野で何かあると全部撮っている。モナリザが来たとか。パンダが来たとか。自分の生まれたところを撮っておかなきゃいけないなと、何か変な使命感みたいなものを考え出しちゃったんだよね

須賀さんが撮影してきた写真の中で、ずっと変わらないものがある。上野公園の桜だ。

2006年4月2日 撮影:須賀一さん

須賀さん:
いろいろなものを撮ったりしているうちに、上野というのは桜が名所だから撮らなきゃいけないなと思って、桜を撮り出したわけ

花見客で埋め尽くされたさくら通り。昔はこの光景が当たり前だったと須賀さんは語る。

須賀さん:
撮っていて楽しい、嬉しい。江戸っ子だから、(人が集まる中に)カメラを持ち込んで撮っていると生きているなと感じる

--体が元気なうちは上野を撮り続けたいですか?

須賀さん:
撮るよ。車椅子でもやってみようかなと思っている。コロナの後、どうなるかなと思ってる。生きてりゃずっとやるよ

撮影後記

上野公園。桜の季節、歩道が見えなくなる程の花見客で埋め尽くされるこの公園に、私は取材やプライペートで何度も訪れたことがある。

2020年、さくら通りが閉鎖された光景を見た時は、私もショックを受けた。

長年、上野公園を見続けてきた人はどう感じたのか。上野に生まれて92年、上野公園を撮り続けてきた須賀さんを取材したいと思った。

取材当日、須賀さんに指定された時間は午前10時。夜型人間で朝が弱いから起きているか分からないという。恐る恐る、待ち合わせの時間に自宅を訪ねると、「今朝は、6時に起きて不忍池辺りの桜を撮ってきた」と言う。

いきなり出鼻を挫かれたが、その日撮影してきた桜の写真をたくさん見せてもらった。92歳とは思えない行動力に驚かされた。

午後は、さくら通りの桜を撮影に行く須賀さんに同行させてもらった。来年のカレンダー用の写真を撮るという。カメラ片手に人混みをかき分ける動きは、カメラマンの動きだった、全く年齢を感じさせない。

昔ながらのフィルムカメラで撮影していると勝手にイメージしていたが、最新のミラーレスカメラを使って撮影している。

「昔のカメラなんか重くて持てないよ。昔はカメラ4台抱えて撮影しに行っていたけど、今はこのカメラで十分」と言い切る。

家に帰れば、その日撮影した写真をパソコンに保存する作業を始める。撮影日、撮影場所毎にファイル分けされ、その仕事は丁寧だ。

最新のカメラ、機材を使って現場に臨む92歳のカメラマンの姿に、時代の変化を常に捉えてきた「生涯現役」の姿勢を見た。

36歳の私は、カメラマンになって10年以上経つ。この期間で、撮影機材は激変した。肩に担ぐ大型カメラ「ENG」がテレビ取材の主流ではあるものの、高性能の小型カメラが誕生し取材で利用されている。

GoProやスマートフォンなど、一般の人でも使うカメラで撮影した映像を放送で使用することもある。

今回のVTRも、ミラーレスカメラの動画モードで撮影したものだ。

カメラマンになって以来、先輩に負けない映像を撮る上で何が必要かを常に考えてきた。そのひとつの答えとして、新しい機材を積極的に取り入れることも大切にしてきた。

36歳になって、新しい機材を身体に覚い込ませることも、少々辛くなってきた。だが、92歳の須賀さんが最新機材で撮影する姿を見ると、私も負けられないと思った。

<撮影>矢野冬樹

<取材・撮影・編集・執筆>石黒雄太