教師の長時間勤務や教員採用試験の採用倍率低下など、教師を取り巻く環境は厳しさを増している。こうした状況を受けて文科省では、ICTの活用と少人数学級を車の両輪として、『令和の日本型学校教育』を担う教師の“質と量”を確保しようとしている。これからの教師の養成、採用などはどうあるべきなのか。萩生田光一文科相に聞く。

大学の教職課程は抜本的に変えていく

萩生田文科相「教職課程は抜本的に変えていかないといけない」
萩生田文科相「教職課程は抜本的に変えていかないといけない」
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――教師の質と量の確保がこれから課題になってくると思います。現在「令和の教師像」を文科省で検討していますが、そもそも教職課程や大学の教育学部のあり方がいまの学校現場に適うのかという議論があります。

萩生田氏:
2021年から学校現場では1人1台端末が導入されますが、教職課程ではそれを想定した教員養成をしているのか。例えばいま教職課程の中でICTについて学ぶ量が限られています。いまの大学生は日々の生活の中でICTを使いこなしていますが、それはあくまで動作ができることであって、ICTを活用して子どもの習熟度や理解度を深めるためには学術的に学んでいくことが必要です。教員を育てるカリキュラム、教職課程は抜本的に変えていかないといけないと思います。

――数週間の教育実習で十分なのかという議論もあります。

萩生田氏:
教員志望者が大学院に2年間行くとすれば、その間に学校現場で授業をしたほうがいいと思います。教育実習をわずか数週間でなく1年間やってみることで、ご自身も教職が自分に本当に向いているのか気付く機会にもなると思います。そうすれば卒業後即戦力となる教員にもなって頂けると思います。

「教育実習を1年間やると自分が教職に向いているか気づく機会にもなる」
「教育実習を1年間やると自分が教職に向いているか気づく機会にもなる」

――たとえば教職課程の中で企業やNPOへのインターンなど、社会活動を経験するという方法もありますね。

萩生田氏:
それはおっしゃるとおりで、教職課程で7日間の介護等体験がありますが、いま学校現場で1番困っているのは、さまざまな課題を抱え特別な支援が必要なお子さんが増えていることです。可能であれば、特別支援学校や特別支援学級で一定程度学ぶことを促進したいと思っています。

教員免許だけでない教壇への様々なアプローチ

――教員免許制度の抜本的な見直しも必要になりますね。

萩生田氏:
4年間で教職課程を修了し教員免許を取ってすぐ現場に出るというのは本当にいいのかとすごく考えています。例えば今年から外務省と連携し「日本語パートナーズ」という制度を使って、将来の英語教員の志願者を英語圏に派遣する予定です。

現地で1年間、日本文化などを教えながら英語漬けの生活を送ってもらい、ネイティブのように英語を話せるようになった先生を学校現場に送り出す。英語教員になるためにこうした制度を義務付けたら、英語教育も変わるのではないか。これまでの一律の免許制度ではなく、様々なアプローチで学校現場に入ることができるよう幅広く考えていきたいと思っています。

「免許更新制度は問題があると思ったからこそ諮問した」
「免許更新制度は問題があると思ったからこそ諮問した」

――あわせて教員免許の更新制度についても見直す必要がありますね。

萩生田氏:
教員の皆さんにはスキルアップをしてもらわないといけませんので、さまざまな研修は必要だと思います。ですから不断の研修は続けて頂きたいのですが、それを10年に1回の免許更新制度と紐づけするのはいかがなものかという思いが大臣就任当時からありました。

先日中教審に諮問をさせて頂いたので私が方向性を示すのは控えますが、問題があると思ったからこそ諮問しました。日々の仕事の中で先生方がブラッシュアップする環境を作っていくことが大事ではないかと思います。

外部人材を積極的に登用し大きな学びを

――外部人材の登用はいかがですか?たとえ教員免許が無くても子どもたちに学びの機会を与えられる、また与えたい大人は多いです。

萩生田氏:
教員免許を持っていなくても、ある分野ではかけがえのない経験をした人たちがたくさんいます。そういう専門性も学校現場に入れることが必要だと思っていまして、例えば世界的に活躍してきたアスリートに、セカンドキャリアとして学校の体育の先生をやってくれないかと思っています。

大学で教職課程を取った体育の先生も大事ですが、国際大会をいくつも経験し、様々な課題解決をしてきたアスリートが学校現場にきてくれれば、子どもたちにとって大きな学びになると思います。

「アスリートが学校にきてくれれば子どもたちにとって大きな学びになる」
「アスリートが学校にきてくれれば子どもたちにとって大きな学びになる」

――外部人材登用のために特別免許制度がありますが、その運用に教育委員会が消極的で採用数が増えていません。

萩生田氏:
これはもっと成功例を横展開し、我々も教育委員会に対してこの制度の良さをもっと発信しなければいけないと思っています。

たとえば特別免許所有者には事前にオンラインなどで在宅で学んでもらうなどして、教師として必要な資質能力があることを外形的にクリアしていることを教育現場で示すと採用が増えるかもしれません。

教員免許法改正でわいせつ教員排除を

――教員免許の見直しでは、わいせつ教員を二度と教壇に立たせないための教員免許法改正を文科省は今国会では見送りました。現在与党で議員立法を目指していますが、あらためてわいせつ教員撲滅への覚悟を伺いたいと思います。

萩生田氏:
法制上乗り越えられない課題があって今国会は内閣提出法案の提出を見送りましたが、一方で実効性のある対応として官報情報検索ツールの閲覧可能期間を過去40年分に大幅延長し、早速3月31日に埼玉県の教育委員会で、正式採用前だった教員が17年前にわいせつ行為で免許を失効していたことがわかるなど効果が出ています。

また、懲戒免職の具体的理由などを官報の公告事項とする省令改正を行い、4月1日より施行されました。さらに教員の採用関係書類に懲戒処分歴を明示するなどの工夫を求める通知を近日中に発信する予定です。もちろん最終的には教員免許法に紐づけてわいせつ教員を排除できるようにしたいと思っています。

――ありがとうございました。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
【撮影:山田大輔】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。