「私は愚かで、取り返しのつかない大変なことをしてしまいました」
水色のハンカチを握りしめ、33歳の被告の男は何度も涙を見せた。

事件が起きたのは7年前。福島市の郊外で一緒に暮らしていた当時28歳の男性に、殴るけるなどの暴行を加え死亡させた被告には、懲役10年の実刑判決(傷害致死罪)が言い渡された。

その犯行の舞台となった住宅は、被告と被害者だけでなく、2人の女性も一緒に暮らしていた。
そこは、被告の暴力で支配されたシェアハウスだった…

事件のあった福島市の家
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監視役から“恋人”に 奇妙な三角関係と被害男性との出会い

福島地方裁判所203号法廷。全7回にわたり開かれた裁判員裁判を、福島テレビの記者が傍聴した。

初公判に、上下紺色のスーツに、青色のネクタイで出廷した被告。
犯行当時は100kgを超えていたという170cmの男は、一回り以上痩せていた。

腰を痛めているのか、サポーターをまいて慎重に歩を進め、裁判長の正面の席に着いた。
暴力の末に人を死亡させた面影はなかった。

千葉県に生まれ育ち、20代で暴力団の構成員となった被告。

兄貴分Yの舎弟として生活を送る中で出会ったのが、2人の女性AとBだった。
2人はYが関わる違法風俗店で働かされ、給料を取り上げられていた。

「かわいそうだ…」被告は2人の監視役を命じられていたが、いつしか関係性は大きく変わっていった。

女性A:
Bと私(A)は、被告と付き合っていました

検察官:
同時に交際していることについて、どう思った?

女性A:
すごい嫌な気持ちだったけど、Bの前で被告が(私と)付き合っていることを言ったので

検察官:
別れてくれると思っていた?

女性A:
はい

被告は女性Bと付き合い始め、その後Aとも交際。奇妙な三角関係が始まった。

イメージ

被害者となる男性と出会ったのも、同じ時期だった。
被害者は、兄貴分Yの関連会社で働かされていて、2人の女性と同様に給料を巻き上げられていた。

Yの部屋で寝泊まりする被害者は、被告よりも2歳年上だったが…

被告の供述:
弟のような存在。これまでの人生で、友達という友達はいない、初めての親友。助けたいなという思いがあった。みんな(4人)で相談したら「逃げたい」ということだったので、逃げることに

4人で「逃亡」 暴力で支配される“シェアハウス”が始まる

知人の紹介もあり、4人が福島市に「逃げて」きたのは2012年1月。

被告と被害者は同じ建設会社で除染や解体の作業に従事し、住まいを転々としながら4人で共同生活を送っていた。

給料は被告が管理し、被害者には出勤時に1日1000円の小遣いを渡していた。

検察官:
生活費は?

女性A:
茶封筒があって、そこにお金を集めておくことになっていました

検察官:
なぜ?

女性A:
「お金を持っていると使っちゃう」と被告に言われて

BB弾を下半身に 「殺される…」エスカレートする暴力

シェアハウスは、暴力で支配されていた。
かつて空手を習っていたという被告は、女性2人にも暴力をふるったが、特に被害者に対しては執拗だった。

「仕事中の失敗」や「指導」といった理由を付けて、日常的に暴力を繰り返していた。

裁判では、具体的な暴行内容が複数の証人から語られた。

法廷イメージ

被害者のあごをけり飛ばしたり、背中に木片を強く打ちつけたり…

さらに法廷で明らかにされたのが、被告が職場の同僚に見せた動画の存在。
被害者の下半身に、至近距離からマシンガンタイプのモデルガンでBB弾を撃ち込むものだった。

証人男性1:
被告が下半身をBB弾で撃ったと笑い、被害者にズボンを脱ぐように命じた。ズボンを脱ぐと、おしりから膝にかけて無数のアザがあった

証人男性2:
あまりの暴力に(被害者に)「なんで逃げねえの?」と聞いたことがあったが、「逃げたいのは山々です」と言っていた

「殺される」と、被害者は父親に電話したこともあったというが、これを聞いた被告の暴力はさらにエスカレートしていった。

被告の代理人:
被害者は、いなくなっていいものではありませんでした。「正しい暴力だから許される」、その間違った価値観で起こしてしまった事件で、決して被害者を奴隷のように扱っていたわけではありません

そして、福島に逃げてきてから2年が経った2014年の正月。事件は起きた。

“瓦割り”のように両拳で何度も殴り、回し蹴りを繰り返し

事件が起きた2014年の正月、被告は興奮していた。

女性Bの証言:
朝から(脱法)ハーブを吸っていて、目がギラギラしていた

女性Aの証言:
死んじゃうんじゃないかと思うくらいの勢いだった。暴力は全部で30分から1時間くらい

座椅子に座っていた被害者に暴力をふるった。執拗に。
両手のこぶしで“瓦割り”のように頭や肩を何度も殴り、首や胸、脇腹に回し蹴りも繰り返していた。

被害者が防御し、抵抗する力をなくしても無理やり立たせた。暴力は30分以上続いた。

「苦しい。病院に連れて行って」

被害者は床を這うように少し進み、女性Aに訴えた。
しかし、被告は「仮病だろ」と言い捨て部屋をあとにし、手を差し伸べることはなかった。

「死因が特定されたらまずい」 遺体を自宅裏に埋め、家出を偽装

暴行内容について、被告は裁判で「脱法ハーブを吸っていた影響で記憶がない」と証言したが、証言台に立った証人からは矛盾する話も出た。

被告から男性Cへの電話:
被害者が夕方動かなくなったんですけど、一回来てもらえないですか?もしかしたら死んでるかもしれないです

暴行後、被告から電話を受け、駆け付けた男性C。
被害者が息をしていなかったために、すぐに救急車を呼ぶように迫ったが…

「殴ったりけったりした。死因が特定されたらまずいんですよ」

火の粉が降りかかることを嫌った男性Cは「俺は来なかったことにしてくれ」と言い残し、現場を離れた。

その後、被告は自宅の裏に穴を掘り、被害者を埋めた。遺体の腐食が進むよう石灰をまいた。

2014年の福島市は記録的な大雪に見舞われたが、被告は雪解けとともに遺体が出てくることを恐れていた。

遺体は地中1.7メートルの深い場所に

「穴だけ掘ってもらえませんか?」と話を持ち掛けたのは、以前にも相談していた男性Cだった。

被告に借金があった男性Cは、重機を使ってさらに深く穴を掘り、埋め直した。4月のことだった(男性Cは別件で服役中)。

発覚を免れるために、被告が取った行動はそれだけではない。
被害者の不在を周囲に不審がられないように、家出を偽装した。

そして同年7月、被告は奇妙な三角関係に終止符を打つ。
女性Aと結婚し、同時に女性Bとは養子縁組をして「養女」として迎え入れるという特異な形の家族になった。

そして一家は福島市を離れた。

被告は2人にこう伝えていた。

「誰にも言うな」「あんたらは何事もなく普通にしてていいから」

「全部俺がかぶるから」

事件から5年 女性Aが警察に事件を告白

事件から5年が経った2019年。暴力で支配されたシェアハウスは終わりを告げていた。
被告が周囲に「嫁」と紹介し、山形市で一緒に暮らしていたのは女性Bだった。

被告の自宅 山形市

「福島へ連れてきてくれてありがとう」

一時、被告へ感謝の気持ちをつづっていた女性Aは、独り福島市で生活していた。

女性Bと親密になっていく被告とは距離を置き、数年前から疎遠になっていた。
しかし、罪悪感は薄まることはなく、居酒屋で泣き崩れるなど追い込まれていた。

そして同年5月、女性Aは警察に事件を告白する。

同年11月には女性Aの証言通り、自宅の裏庭から白骨化した遺体が発見され、警察は同年12月に被告を殺人容疑で逮捕(起訴は傷害致死罪)。
女性AとBの2人も、保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕した(不起訴)。

福島市の住宅敷地内での捜索

裁判で繰り返された「覚えていません」

「私は愚かで取り返しのつかない大変なことをしてしまいました。いつも一緒にいて、一番大切に思っていた被害者を死なせてしまいました。今回のことは本当に申し訳ありませんでした」

2021年2月に福島市で始まった裁判員裁判。
被告は涙ながらに謝罪したが、犯行の動機や暴行については「覚えていません」と繰り返した。

容疑者を警察署へ

被害者の母と姉は、被害者参加制度を利用して法廷に立ち、厳罰を求めた。

「(暴力の内容は)吐き気がするような内容も多く、肝心なところは言わないまま。被告の態度は白々しく感じました。やり返したい気持ちになりますが、被害者は帰ってきません。せめてこの裁判で厳重な処罰が下ることを強く希望します」

そして同年2月16日の判決公判。

紺の上下のスーツに青のネクタイで出廷した被告は、背筋を伸ばし静かに裁判長の言葉を聞いていた。

裁判長:
被害者を痛めつけようとする被告の暴力は執拗で悪質。日常的に行われていた理不尽な暴力は被害者の人格を軽視したもので、起こるべくして起きたというべき。不合理な弁解をして自分の罪責と真摯に向き合えていない

言い渡されたのは、検察の求刑と同じ懲役10年。
「懲役6年が相当」とした弁護側の主張は退けられた。

被告の暴力で支配されたシェアハウス。

その閉鎖空間で何が起き、被害者は命落とすことになってしまったのか。
最後まで、被告の口から真相が語られることはなかった。

(福島テレビ)