東日本大震災が起きたあの日。
高知・須崎市の野見湾では、津波から養殖カンパチを守る壮絶な闘いが繰り広げられていた。
海の男たちが命がけで学んだ教訓とは。

高知県内有数の養殖場、須崎市の野見湾。
温暖な海域と波の影響を受けにくい地形を生かし、全国に先駆け1950年代からカンパチの養殖が盛んに行われている。

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祖父の代から養殖を営む、野見漁業協同組合の西山慶組合長(42)。
10年前、この野見湾で津波を体験した。

「朝はこないとおもった」津波で流される

野見漁業協同組合・西山慶 組合長:
完全に人間の力、船の力じゃ太刀打ちできない力に動かされていた。普通に朝はこないと思っていた。下手したら死ぬんじゃないかなと

2011年3月11日。街をのみこんだ東日本大震災の津波。
死者と行方不明者は1万8,000人以上にのぼった。

玉井新平アナウンサー:
東日本大震災の時、野見湾では渦を巻くような激しい潮の流れへと変わり、海面は徐々に上昇。岸壁を乗り越えるその時、多くの養殖業者はすでに出航し、湾内で魚を守るため壮絶な戦いを繰り広げていました

震災発生から3分後の午後2時49分。
高知県内では津波注意報が発表。午後3時30分には津波警報が発表された。
須崎市にも避難勧告が出される中、多くの養殖業者は野見湾へと出航した。

野見漁業協同組合・西山慶 組合長:
津波が来るなんて思っていない。潮が速いねという話だったので見に行ってみよう。何かあったら避難しようみたいな軽い感じ

西山さんが養殖用のいけすに到着した時には、すでに異変があった。

野見漁業協同組合・西山慶 組合長:
これぐらいのロープが切れ出す。ブチブチ切れ出して。この台木の枠が普通に折れる。ボキボキ。普通にひっくり返ったり

西山さんは船でいけすを引っ張り、沖合に避難させることを決断。
しかし…

野見漁業協同組合・西山慶 組合長:
1kmぐらいを10分、20分で流される。(かじやエンジンは)全然だめ。海ごと、ここの湾が全部動いている。少々引っ張っても全然通用しない

午後8時59分、須崎港で2.6mの津波を観測。その約2時間後には県内に大津波警報が発表された。
激しく渦巻く湾内で、西山さんの船は操縦不能に。沖合に行くことはできず、夜通し流され続けた。

一夜明け、西山さんの船は無事だったが、いけすは壊滅。野見湾全体の被害総額は21億8500万円にのぼった。
さらに、須崎市では住宅16軒で床上・床下浸水の被害を確認。15隻の漁船が転覆した。

野見漁業協同組合・西山慶 組合長:
地獄絵図。ぐちゃぐちゃになっていた。自然には勝てないことをわからされた

大きな被害を受けた養殖業界は、その後 高齢化と担い手不足が深刻化する。
西山さんは若い力で盛り上げようと、2019年 組合長に就任。
しかし、2020年 さらなる試練が訪れる。

コロナの影響で営業自粛…出荷に大打撃

野見漁業協同組合・西山慶 組合長:
一生懸命育てた20万匹のカンパチを何とかしたいと思っている。ぜひ、自慢のカンパチを食べていただきたい。野見湾の魚たちをよろしくお願いします

新型コロナウイルスの感染拡大により相次いだ飲食店の営業自粛。
出荷量は例年の5分の1以下となり、20万匹のカンパチが行き場を失った。

この危機を乗り越えようと2020年5月、野見漁協は須崎市のキャラクター「しんじょう君」と連携し、カンパチを格安でネット販売するプロジェクトを始めた。

すると全国から注文が殺到し、わずか1か月で1万3,000匹が売れ、売り上げは1億2,000万円にのぼった。
今後、新たな産業として確立させるため地元に加工場の新設を検討している。

「命があればなんとかなる」

野見漁業協同組合・西山慶 組合長:
どこの浜でもそうだが、高齢化とか浜の力がなくなってきている。少しでも浜の力を上げられることを自分たちでやって、次の世代に残すことを考えないと今の流れでいったら先はない

東日本大震災から10年。
おそろしい津波の記憶が色あせることはない。

野見漁業協同組合・西山慶 組合長:
津波には絶対勝てない。逃げるしかない。命があればなんとかなる

南海トラフ地震で最大25mの津波が予想されている須崎市。
海の男たちはあの日、命がけで学んだ教訓を胸に刻み続けている。

(高知さんさんテレビ)

高知さんさんテレビ
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