「断らない救急」も一部の救急患者を断らざるを得ず…コロナ重症患者増加でベッド不足に

24時間365日、交通事故など緊急性の高い患者が運び込まれる救命救急センター、通称「ER」。東海地方初のERとして1978年に設立された名古屋掖済会病院の救命救急センターは、設立以来「断らない救急」をモットーに年間1万台の救急車を受け入れてきた。

しかしコロナ感染者の急増により、2021年1月に一部の救急患者を断らざるを得ない事態が起きていた。

愛知県が立ち上げたコロナ患者の入院調整チームのトップにも任命された、掖済会病院のERの北川喜己センター長は、救急でもコロナ対応でも「目の前の救える命を救いたい」と日々奮闘していた。

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2021年1月、掖済会病院救命救急センターでは設立以来となる深刻な事態が起きていた。

救命救急センターの看護師長:
コロナの患者がくると、看護師一人が必ずその人についてしまう。すると他の救急に対応できないので…

救命救急センターの医師:
断らないといけないというのは医師としては心苦しい…。救急科もみんなそう思っているかなと

救急車が受けられない。理由は増え続けるコロナの重症患者にあった。掖済会病院では救急病棟のベッドの半数以上となる約20床をコロナの入院患者専用にしたため、一時的に急患用のベッドが足りなくなった。

掖済会病院救命救急センターの北川喜己センター長:
掖済会の救急は「断らない救急」。今回のコロナで残念ながら一部断らざるを得ない状況ができたことは辛いですよ。何とかできなかったのかという気持ちにどうしてもなりますよね

救急車を断ってでも受け入れてきたコロナ患者。しかし、そのコロナ病棟のベッドも依然として空きがない状態が…。新規の感染者数が減ってきても、病院のひっ迫した状況はまだ改善されていなかった。

北川センター長は「今回は特に、退院まで時間がかかる重症の高齢者が多いため、厳しい状態は続いている」と話す。

災害医療の経験から県のチームのトップにも任命…現場でのノウハウがコロナ対応に生きる

北川さんは2021年1月下旬、、愛知県がコロナ感染者の入院調整のため立ち上げた「医療体制緊急確保チーム」のトップに任命された。

災害派遣医療チーム「DMAT」の一員でもある北川さんは、まだ感染拡大前だった2020年2月から、医師として横浜港のダイヤモンドプリンセス号の集団感染の現場に。

そして、7月に熊本県で起きた豪雨災害の被災地では、感染を抑えるための初期対応などを行った。これまでの災害現場での経験が今回の任務に生きると考えられての抜擢だった。

「災害医療の鉄則は、明確な指揮命令系統の元に、安全確認、情報分析、それから行動に移す」と話す北川センター長。

北川センター長:
まさに今、県の救急に必要なのがその手法なんじゃないかと。災害現場のノウハウというか、今まで培ったものが生きると思っています

ERのセンター長に加え行政の大役も…多忙を極めても「コロナに関係なく救える命を救いたい」

病院の副院長とERのセンター長を務めながら、新たに行政の大役も担うことに…

北川センター長:
10分で昼ご飯をメールのチェックしながら食べるというのが日課です

愛妻弁当を落ち着いて食べる時間もない。

この日は名古屋市役所でコロナ患者の対応に追われていた。

病院へ患者受け入れ調整をする名古屋市の職員A:
コロナ陽性患者の入院の相談ですけど。75歳女性

名古屋市の職員B:
自宅療養中。熱ない。ごはんが食べられない。ハートレート(心拍数)が150で…

北川センター長:
150…。コロナとしては、入院は必要ないかもしれないけど、心房細動のほうを少しレート抑えた方がいいよってことですよね。脱水とかなのかなぁ…

平日に加え、土日も県庁や市役所に詰め、入院調整や療養のアドバイスにあたっている。

同・職員:
患者が苦しんでいるのに、どこも病院受けてくれませんよって言われて…。北川先生たちが(搬送調整に)来てくれて「じゃあこの人は明日にまわそうか」とか判断をしてくれるので、すごく救われている

多忙を極める北川さんに、休息の時間はない。

北川センター長:
自分の時間はなくなりましたね。もう基本的には今はコロナに全力投球ですかね。それはそれで仕方ないなと思って

なぜこの仕事を引き受けたのかの問いに、北川さんは「難しい質問だなあ」と言いながら…

北川センター長:
救急やっている人はみんなそうだと思うんですけど、救える命を救ってあげたい、助けてあげたいっていう、そういう気持ちですよね

コロナに関係なく元々“救える命を救いたい”と考えるスタッフが救命救急センターには集まっていると北川さんはいう。

経営的に厳しくも最新の救急システムを導入…診療の効率化で「1人でも多くの命を救う」

掖済会病院では2020年12月に、「ハイブリッドER」と呼ばれる最新の救急システムを導入した。CTや血管の撮影など、これまで別の部屋で行っていた検査が、1つの部屋で行えるようになった。これまで1回の部屋移動で約10分かかっていた。
救命救急センターの医師は「患者への負担となる部屋移動が解消されることにより、患者のより早い改善が可能になる」と話す。

北川センター長:
病院としては資金面も大変ですけど、待っていられないんですよね。一刻も早く入れたかったわけですよ

コロナ感染への不安からくる受診控えなどにより、病院の2020年の診察件数は例年の2割減となった。経営的にも決して余裕はないが、こうした設備費用は削れない。

北川センター長:
コロナ禍でも当然、心筋梗塞、脳卒中、交通事故の患者さん、転落の外傷の人も来るわけですから。そういう人たちを、最先端で治療してあげないといけないですよね

再び「救急車を断らない」病院に。目の前の救える命を救いたいという北川さんの考え方は救急やコロナ対応、そして災害現場でも変わらない。

北川センター長:
医療を受けないといけないのに、受けられない人がたくさんできましたから。そういう方が自宅で亡くなるのだけは本当に避けたいなと。そういう意味では本当に長い闘いになったなと思っていますけれども

「毎日やれるだけのことをやる。それに尽きる」、それが北川さんの思いだ。

(東海テレビ)

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