公立小学校の英語教育が本格的に始まるまで、あと半年だ。
いま公立小学校では、5年生と6年生が「外国語活動」として英語を学んでいる。外国語活動は、音声を中心に外国語に慣れ親しむことを目的とされ、「聞く」と「話す」をメインに、デジタル教科書や副読本を使ったり、ゲームや歌、英語ネイティブな先生との対話などが行われている。

来年4月から小学校では、この外国語活動が3年生と4年生に前倒しされ、5年生と6年生は新たに「教科」として、英語の授業が行われる。

果たして新しい英語の授業はどんな授業となるのか?
保護者にとって不安や心配がつきないポイントを取材、わかりやすく説明する。

Q.授業時間は増えるの?

3,4年生は1年間に35時間(毎週1時間に相当)、5,6年生は1年間に70時間(毎週2時間)の授業が行われる。英語の授業が増えても、ほかの授業が減るわけではないので、当然授業量はトータルで増えることになる。

これについて、東京都八王子市立浅川小学校の清水弘美校長はこう言う。

「どの学校も一番大変なのが、時数の確保です。週に2コマ多く入れるのに、一日5時間の授業を6時間に、6時間を7時間にしてキュウキュウの状態にしたり、夏休みを削ったり、土曜日に授業をして振替なしでやるとかしないと対応できません」

英語が教科になるため、英会話に通う子どもも増えており、子どもは益々忙しくなりそうだ。

Q.担任の先生で大丈夫?

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小学校の教員免許を取るのに英語の試験は無い。だから「先生たちの英語は大丈夫なのか」と不安な保護者も多い。

そこで頼りになる助っ人的な存在が、英語ネイティブなALT(アシスタント・ランゲージ・ティーチャー)だ。いま小学校の外国語活動では、担任の教員とALTがチームになって、授業を行うケースが増えている。

ただ、各自治体にとっては、ALTにお金がかかるのが頭の痛いところだ。
「お金のある自治体ではすべての授業にALTを入れるところもあります。一方財政の厳しいところは一部の授業のみになるので、残りの時間は担任が一人でやることになりますね。担任は大学を卒業しているから『少しは英語できますよ』という感じですが、一人の時はちょっとどきどきしながら話すんですよ。ピアノを弾けない音楽の先生みたいな感じですかね」(清水校長)

Q.教科書はどう変わるの?

いま外国語活動では、デジタル教材と補助教材「Hi, friends!」が使われている。来年度からの教科書は、「Hi, friends!」に準じたものになるが、教科書会社は採択の際に『ここが足りない』と言われるのを嫌がって、どうしても教える量を増やしがち」(文科省関係者)だ。

つまり子どもたちは、いま使っている補助教材より、分厚い教科書を使うことになりそうだ。

デジタル教材(DVDなど)についても、課題を指摘する声がある。

「子どもの興味や関心に応じて、話を広げるとか話題を楽しむとかできないわけですね。たとえば、『あなたはどんなスポーツが好きですか?』といった題材があったときに、生の人間だったら、柔道を習っている子に『柔道が好きですか?』とか言えるじゃないですか。子どもの実情に合わせて、興味や関心をもっと引き出せるように、授業を構成できるといいのですが、デジタル教材だと難しいですね」(清水校長)

Q.成績はどうやってつくの?

5,6年生の「外国語活動」が教科になると、当然成績評価も行われる。では、成績はどうやってつけるのか?清水校長に聞くと、

「ALTがいる日にヒヤリングのテストをして、3つぐらいの質問に答える感じで評価します。だから学校の成績はあまり英語能力の評価にならないので、英検の何級を持っているかとかが評価になっていくでしょうね」との答えだった。

来年度から大学入試には英検など英語の民間試験が導入されるが、今後ますます民間試験の成績が重視される可能性がありそうだ。

Q.中学受験への影響は?

最後に、私立中学校への進学を目指している保護者が最も気になるのが、中学受験への影響だ。英語が教科になることで、私立中学校の入試科目になる可能性はあるのか?

中学受験塾の大手、日能研関東の小嶋隆社長に聞いた。

「さまざまな学校で話を聞くと、関心が高いのは事実ですが、まだ標準化されてない中、『公平性が求められる入試でやるのはいかがなものか』という反応でした。上位校と言われる麻布、開成、武蔵とか桜蔭や女子学院、雙葉などは、まだ入試科目に入れないようですね。上位校で唯一英語入試をやっているのは、SFC(慶應義塾湘南藤沢中等部)ですが、SFCはもともと帰国子女が多いからで、同じ慶應でも普通部や中等部はやらないでしょう」

小嶋氏によると、「教科になったからといって、急に入試科目になることはないと思います。入試科目として出揃うのは10年程度かかるのではないでしょうか」ということだ。

一方、東京インターナショナルスクールの坪谷・ニュウエル・郁子理事長によると、「とにかく英語ができればという学校が増えています。中高一貫校からこちらに相談にみえるところもよくありますね。今後、入試科目に英語を入れる中学校は、増えていくのではないでしょうか」ということもあり、受験生と保護者は安心していられないようだ。

【執筆:フジテレビ 鈴木款】

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鈴木款著
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政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。