共和党の非トランプ派の危機意識はピークに

「党が生き残るにはトランプを追放するのがベストの選択肢になる。」

ワシントン在住の共和党関係者の言葉である。野党・民主党員の言葉ではない。

大統領選挙の結果を未だに認めず、遂には連邦議事堂襲撃事件を扇動したとまで非難されるトランプ氏に対し、与党・共和党の様々なグループから成る非トランプ派の危機意識はピークに達しつつあるようだ。

12日 トランプ大統領
12日 トランプ大統領
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もともと共和党の党勢は、民主党支持者が多い少数派の人口増に伴い、長期的にはジリ貧不可避と懸念されていた。それをトランプ氏が4年前、ラスト・ベルトの白人労働者層など取り込み盛り返したのだが、もはや、このままでは共倒れになると考える共和党関係者が増えているようなのである。

その証拠に「大統領自身によるその職務と合衆国憲法に対するこれ以上の裏切り行為は無い」と、共和党の下院議員団のナンバー3の地位にいるリズ・チェイニー議員も11日、とうとうトランプ氏を非難、民主党が主導する弾劾決議に賛同する意向を示した。

チェイニー議員は、これまでトランプ氏の多くの政策を支持してきたゴリゴリの保守派らしいが、最近の一連のトランプ氏の行動は、政策レベルとは次元の異なる、民主主義そのものへの攻撃で、許容できないと判断したと伝えられている。

現下の焦点は、こうした動きが蟻の一穴になるか否かである。

微妙に情勢が異なる二度目の弾劾裁判

合衆国憲法修正25条に基づく大統領の解任は、ペンス副大統領が拒否する姿勢を示しており、実現の可能性は無い。しかし、民主党が多数を占める下院に提出された二度目の弾劾決議案は時間の問題で採択される見通しだ。

米下院 トランプ大統領の即時解任を求める決議案の審議
米下院 トランプ大統領の即時解任を求める決議案の審議

この弾劾決議は刑事手続きに譬えれば“起訴”に当たる。その後は上院が、この“起訴”をもとに弾劾裁判に入るのだが、共和党と民主党の議席は50対50の同数。裁判の陪審員に当たる上院議員の3分の2以上の賛成が必要な大統領の罷免には至らないというのが、これまでの大方の見立てである。実際、最初の弾劾裁判は、共和党員の反対でトランプ大統領は“無罪放免”になった。

しかし、今回は微妙に情勢が異なるようなのである。

弾劾裁判の行方の鍵を握る上院の共和党議員団のリーダー・マコーネル院内総務は、先述の共和党関係者によれば、トランプ氏に対し「もはや怒り心頭」なのだそうだ。

トランプ氏に扇動された暴徒達が襲撃したのは、議会制民主主義にとって、そして、当時、上院を取り仕切っていたマコーネル氏にとっても“本丸”である連邦議事堂だったからで、この4年間、トランプ氏とほぼ平仄を合わせてきたマコーネル氏も、トランプ氏の行動は今回ばかりは“弾劾相当”と周辺に見解を明らかにした、とワシントン・ポスト紙は伝えている。

6日 連邦議会襲撃事件 ELIJAH SCHAFFER/BLAZETV
6日 連邦議会襲撃事件 ELIJAH SCHAFFER/BLAZETV

弾劾裁判に向けて、マコーネル氏はまだ態度を正式には決めておらず、議員団には党議拘束を掛けない方針ともワシントン・ポスト紙は伝えているが、ニューヨーク・タイムズ紙は「弾劾の動きをマコーネル氏は内心では歓迎している。将来、トランプ氏を共和党から追放するのに好都合だからだ。」という側近の証言を報じている。

このマコーネル氏の考えと報じられる内容について、先述の共和党関係者は「このところ、アメリカの名だたる大企業が次々と政治献金の差し止めや見直しを決めた影響も大きい」と分析している。「共和党にとって企業献金は主要な選挙資金になっているからだ」という。

トランプ追放劇第二幕

政治家にとって重要なのは選挙に勝つことである。退任後は勢いに陰りがさらに出てくるであろうトランプ人気に頼るだけではもう危ういのである。

野党・民主党は、解任・罷免・任期切れなんであれ、トランプ大統領がまずホワイトハウスから一刻も早く、次いで、政界から永久に消え去ることを望んでいる。追放を目論む共和党関係者とは“共通の目標”があることになる。

こうした水面下で渦巻く動きについて、民主党系のシンクタンク関係者は「上院での弾劾裁判がトランプ大統領の任期切れの1月20日前に始まる可能性は低いと思う。上院は(ジョージア州の決選投票で民主党候補が2議席とも勝利したのを受けて)民主党のシューマー院内総務が取り仕切るようになるが、彼の下で弾劾裁判が始まるのは春以降にずれ込むのではないか。その頃になれば、共和党上院議員団から17名が有罪(罷免相当)に賛同する可能性が出てくるかもしれない。」との見通しを語ってくれた。
「そして、有罪となれば、共和党がトランプの棺に釘を打ち込むのに役立つだろう。」という。

弾劾裁判は退任後でも継続させることができる。そして、有罪となれば公職から永久に追放することも可能になるという。

史上最悪の大統領とアメリカ史に刻まれる可能性の高いトランプ氏が任期切れでホワイトハウスを去るのは来週20日である。その時点で、彼は大統領権限を全て失う。コアのサポーターはそれでも彼を支持するだろうが、権力を失った政治家の末路は皆同じである。程度・スピードの差が多少あるだけだ。

先の民主党関係者は、更に「トランプ大統領退任後は共和党内で一大権力闘争が始まるだろう。トランプがそう簡単に匙を投げるはずはない。しかし、共和党内の然るべき教育を受けた常識派は多くが既に彼に背を向け始めている。」という。

つまり、大統領選挙の結果幕を下ろす第一幕に続く、トランプ追放劇第二幕=共和党内の権力闘争の行方は自明と思われるのだが、そうは言っても彼は何をするか分からない。その無茶苦茶な神通力が再び発揮されることが無いよう、マコーネル氏らが永久追放を企てても不思議ではない。

ただし、最近、ブームの将棋でも詰ましに出て失敗すると大火傷をする。それと同じ失敗をせぬよう、マコーネル氏ら老練の政治家たちは慎重に情勢とタイミングを見計らうはずである。

【執筆:フジテレビ解説委員・二関吉郎】

二関吉郎
二関吉郎

生涯“一記者"がモットー
フジテレビ報道局解説委員。1989年ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。 ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。