ブライアン・メイさんご本人が登場する替え歌

ヨーロッパ各国が協力し、宇宙開発や研究を行う欧州宇宙機関(ESA)。

この国際機関が公開した動画が話題を呼び、ESA職員や学者たちの意外な一面が明らかになった。

動画のタイトルは「European Space-ody」(“ヨーロピアン・宇宙オディ”)

伝説的ロックバンド「クイーン」の代表曲、「ボヘミアン・ラプソディ」の替え歌で、タイトルも原曲をもじっている。

「European Space-Ody」 Youtube動画より
「European Space-Ody」 Youtube動画より
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ESA内の映画サークルと音楽サークルのメンバーが仕事の傍ら、自分たちの日々の任務を紹介する内容で、出演者もほとんどがESAの職員だ。驚きは、動画の後半にはなんとクイーンのギターリスト、ブライアン・メイさん本人が登場するサプライズも!

これをフジテレビのニュースで報じたら、なんとSpaceRocksがツイートしてくれたのだ!

意外とお茶目な天体物理学者たち

撮影は実際に任務で使う管制室などで行われ、普段は真面目に宇宙に関わる仕事をする職員たちがおどけた様子で人工衛星の模型を手に歌ったり、迫真の演技で日常の苦労や喜びを再現したりしている。

替え歌と日本語訳:翻訳は筆者

This is our real life(これが私たちの現実)
This is no fantasy(幻想ではない)
We fly your spacecraft(あなたの宇宙探査機を操縦する)
European Space Agency(欧州宇宙機関)

動画には興味を持ってもらうために様々な工夫が(「European Space-Ody」Youtube動画より)
動画には興味を持ってもらうために様々な工夫が(「European Space-Ody」Youtube動画より)

Open your eyes(目を開けて)
Look up to the skies and see(空を見上げて)
There is your spacecraft(あなたの宇宙探査機がそこにある)
and it’s got company(仲間の人工衛星もたくさんいる)
Because once we get the final “GO”(私たちが「GO」を出せば)
Some fly high, some fly low(高く飛ぶものもあり、低く飛ぶものもある)
Aeolus the wind blows(アイオロス①、風が吹く)
That’s what really matters to me, to me(それが大事なのさ、私には)
GAIA, the link is bad(ガイア②、接続が悪い)
Is it broken is it dead?(壊れたのか?通信が死んでしまったか))
Pushing buttons, scratching head(ボタンを押しまくって、頭を掻いて)

GAIA, failure just begun(ガイア、故障が始まった)
But now we’ve gone and fixed it all again (でもすぐにまた修理出来た)
GAIA, oh oh(ガイア)
Didn’t mean to make us cry(私たちを泣かせるつもりはなかったよね)
Now you can scan for stars again tomorrow(明日からまた星を観測出来る)
Carry on, carry on, cause that’s what really matters(続けて、続けて、それが大事だからさ)

Okay, launch time has come (さあ、発射の時間だ)
With procedures on our minds(手順を頭に入れ )
Simulations all the time(常にシミュレーションをやってきた )
Right now everybody (さあみんな、今)
We’ve got the GO(「GO」が出た! )
Gotta leave the Earth behind and launch to space (地球を後にして宇宙に発射だ)

Mama, I’m on TV!( ママ、私、テレビに出てる!)
We want that thing to fly(アレにちゃんと飛んでほしいのさ)
Which means we have not slept much or at all! (ここ最近全然寝てないってことになるけど)
I cast a little silhouette onto Mars(火星に小さな影を落とす)
ExoMars TGO you can start to aerobrake(エクソマーズTGO③、エアロブレーキ④を開始だ)
As the orbit’s tightening windmilling is frightening me(軌道が狭くなり回転し始めそうで怖いよ)

Galileo, MarsEspresso,(ガリレオ MarsEspresso⑤)
Galileo, B-Colombo( ガリレオ, B-Colombo⑥)
Galileo, TGO (ガリレオ、TGO③)
And Meteron (そしてメテロン⑦)
I’m just a SpaCon, nobody knows me (私はしがない操縦者、誰も私を知らない)
He’s just a SpaCon, planetary family (彼はしがない操縦者、惑星達よ)
Spare him this night from the anomaly (今夜は彼のため変則的な動きはやめてくれ)
SpaCons come, SpaCons go, will you let me go(操縦者は入れ替わり来る、帰らせてくれないだろうか)

It’s safe mode NO! (セーフモード⑧だ)
We will not let you go "ARM and GO" (ダメだ、帰らせない"操作実行!")
It’s safe mode( セーフモードだ)
NO! We will not let you go "ARM and GO)"(ダメだ、帰らせない"操作実行!")
It’s safe mode (セーフモードだ)
NO! We will not let you go "ARM and GO"(ダメだ、帰らせない"操作実行!")
will not let you go "ARM and GO"(帰らせない"操作実行!")
will not let you go "ARM and GO"(帰らせない"操作実行!")
Will not let you go- never never never never(帰らせない、絶対絶対絶対絶対)
Let me go(帰らせてくれ)
No go no go no go no(だめ、操作!だめ、操作!だめ、操作!だめ!)
My shift is over, shift is over, shift is over let me go )(私のシフトは終わった、帰らせてくれ)
The scheduling has an uplink set aside for me, for me, for me~ (スケジュールによるとまた僕の仕事が増えている!)

 
フジテレビの放送映像より
フジテレビの放送映像より

So you think you can stop Flight Dynamics from Fly-bys?(宇宙航行力学の専門家がフライバイ⑨を計画するのは止められない)
Do you think you can make us explain to you why?(なぜって説明出来ると思うか?)
Oh baby, can’t do this with a “maybe”(ベイビー、「もしかして」の態度ではこの仕事は出来ないぜ)
Just send it out, just gotta be right with a sneer(送り出せ、冷笑して正しくあればいい)

Science really matters(科学は大事だ)
Anyone can see(それは明かだ)
Orbit really matters(軌道は大事だ)
Bitrate really matters, to me(通信速度は大事さ、私には)
Aeolus the wind blows…(アイオロス①、風が吹く)

歌詞をみると、「フライバイ」や「エアロブレーキ」などの専門用語(※末尾の注釈参照)をはじめ、「マーズ・エクスプレス」や「ベピコロンボ」など現在行っているプロジェクト名がズラリ。筆者を含め、素人にはいささか難解だ。

しかしそんな中でも、天体に「変則的な動きはやめてくれ」と懇願したり、「ここ最近全然寝ていない」などと、普段は聞けない苦労話や本音、クスっと笑える愚痴が漏れ聞こえる。

豪華ゲストがサプライズ登場

そして後半にはなんとクイーンのギターリスト、ブライアン・メイさん本人が登場するサプライズも。

実はメイさんはクイーン結成時、大学で天体物理学を専攻。

2008年には博士号も取得しているれっきとした天体物理学者で、1975年には楽曲「'39」でアインシュタインの相対性理論を描写する曲まで作っている。

そんなメイさんは現在、ESAの隕石迎撃プロジェクト「HERA」に参加している。

このプロジェクト責任者が参加をお願いしたところコラボが実現し、本家がゲスト出演する替え歌動画というユニークな作品に仕上がった。

ブライアン・メイさんも登場
ブライアン・メイさんも登場

未来の宇宙関係者へ

「European Space-ody」は「Space Rocks」という団体のユーチューブチャンネルで配信中。

この団体はESAと提携し、宇宙にインスピレーションを受けた芸術作品などを通じ多くの人に宇宙に興味を持ってもらうよう活動している。

今回の撮影自体は新型コロナウイルス感染拡大前に行われたが、感染拡大により、編集作業などが遅れに遅れ、今ようやく公開されることになったという。

制作に関わった職員は「今ほど宇宙が面白い時はない。素晴らしい発見や新たなミッションの量は過去最多だ。少しでも興味を持ってくれたなら地元の関連機関に連絡したり、学生なら科学の先生に尋ねてみてください。きっとあなたがこの道の第一歩を踏み出せるように導いてくれるでしょう!」と話している。

これからもたくさんの作品を公開する予定だという「Space Rocks」とESA。

次はどのような作品が誕生するのか、筆者は目が離せない。

※注:専門用語解説

① アイオロス:ESAが2017年に打ち上げた人工衛星。現在地球の風を観測中。

② ガイア:ESAが2013年に打ち上げた宇宙望遠鏡。天の川銀河の3次元地図を作製中。

③ エクソマーズTGO:2016年に打ち上げられた宇宙探査機。火星の大気圏にあるガスを分析し生命の痕跡を調査。

④ エアロブレーキ:天体の大気抵抗を利用し宇宙探査機を天体の軌道に乗せる技術

⑤ MarsEspresso:ESAが2003年に初めて発射した宇宙探査機「マーズ・エクスプレス」。現在も火星から貴重なデータを地球に送り返している。

⑥ B-Colombo:国際水星探査計画「BepiColombo」(ベピコロンボ)。 2018年に打ち上げられ、水星の調査を目的としたESA・宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同プロジェクト。

⑦ メテロン:月や火星の軌道上から月面や火星の地表の機械を操る技術を確立するための実験計画

⑧ セーフモード:宇宙探査機が故障した際入る状態。消費電力を極力抑え地球に通信する機能だけを維持し、地球からの指示を待つ。

⑨ フライバイ:天体の重力を利用し宇宙探査機の速度や軌道を変える技術

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【執筆:フジテレビ 国際取材部 髙橋怜央奈】