2020年は新型コロナウイルスが全国に広がり、学校においても臨時休校になるなど、児童や生徒も大変な1年となったことだろう。

そのような中で、特に影響があったのは高校3年生といった受験生ではないだろうか?緊急事態宣言下においては自宅学習を強いられ、授業を受けることが難しい状況に…。

学校再開後は、夏休みを短縮するなどして授業時間を補うなどしていたが、「それでも足りない」「思うように勉強が捗らない」と感じた受験生もいたかもしれない。

マスク着用で授業が日常になった(画像はイメージ)
マスク着用で授業が日常になった(画像はイメージ)
この記事の画像(7枚)

例年以上に苦労したことは想像できるが、コロナ禍の受験生は実際、どのような心境だったのだろうか?また、今年はやはり勉強時間の確保が難しかったのだろうか?
河合塾と東進ハイスクールに、コロナ禍の予備校の対応と合わせて話を聞いた。
 

河合塾は急遽、映像配信に切り替え

教室に集まり、講師と生徒が対面式で授業を行う河合塾。

緊急事態宣言下では通学することができず、急遽、自宅で学習できるように映像配信をスタート。宣言の解除後は、ソーシャルディスタンスを保つなどの感染予防に配慮しつつ、対面式の授業を再開させた。

これまでの授業体制からの変更を余儀なくされ、緊急事態宣言の解除後には感染予防への対応…。どのような点に留意したかなどを、学校法人河合塾の池袋校校舎長に話を聞いた。

映像授業の様子。自宅のパソコンで視聴ができた(画像提供:河合塾)
映像授業の様子。自宅のパソコンで視聴ができた(画像提供:河合塾)

ーーコロナ禍の今年度、受験生からはどのような悩みが寄せられていた?

緊急事態宣言中に多かったのは「勉強が進まない」「生活リズムが乱れている」といった相談でした。いつでも視聴できる映像授業は、自己管理が苦手な生徒には不向きな点もあり、塾側からしっかりした学習計画を立てるアドバイスを行うなど、フォローを心がけました。

また今年度は大学入学共通テストの初年度ということもあり、「過去問がなく、どのように勉強したらいいか分からない」という不安の声も聞いています。


ーー予備校運営で大きく変わった点は?

基本的なことですが、登校時の検温やソーシャルディスタンスを意識した教室のレイアウトなどのコロナ対策です。さらに、例年以上に受験生との密なコミュニケーションとメンタルケアに力を入れました。例えば、高卒生にはチャットアプリを活用して定期的にコミュニケーションを図り、また保護者との連絡もより取り合うようにしました。


ーー今年は夏休みが短かったと思う。勉強に影響はあった?

例年より夏期講習の期間を短く設置せざるをえませんでした。定員締切となった講座も多くあり、生徒にとっては、受けたい授業を受けられないという状況が少なからずあったようです。ただ、危惧されるような、「時間が足りなくて不安だ」という声はあまり聞いていません。

教室はソーシャルディスタンスを意識した(画像提供:河合塾)
教室はソーシャルディスタンスを意識した(画像提供:河合塾)

ーーコロナ禍でいろんな制約があった中で、講師はどのような工夫をしていた?

対面授業の再開後は、特に現役生で勉強が捗っていない生徒が多いようでした。対面では生徒の反応がダイレクトに分かるので、あまり理解していなさそうな表情などの場合は、深掘りして教えるようにしていました。また、補助教材を独自で作り、より理解を深めてもらうように努めた講師もいました。


ーー2学期からは勉強を挽回できた?

あまり勉強が捗らなかった1学期からは巻き返し、例年通りとはいかないものの勉強に集中していました。ただ、ちょうど今が受験校の決定をほぼ終えたところなのですが、コロナ禍で弱気になって志望校を下げたり、第一志望は決定したものの併願校が決めきれていない生徒がいます。

例年とは違う雰囲気の受験になることから強気に出られないようで、生徒と密なコミュニケーションを図りながら、モチベーションの維持に努めています。


対面式での授業が主となることから急遽実施した映像配信など、現場では受験生のためにいろいろな体制を整えていた。また、生徒の反応がダイレクトに分かる対面授業の利点を生かし、補助教材を増やすなどフレキシブルに展開することで、1学期の遅れを取り戻していたようだ。

東進では4、5月に学習量が増加した生徒も

東進ハイスクールは首都圏を中心に校舎を展開

授業はおよそ1万種類あり、そのすべてを録画映像でオンライン配信していることから、一人ひとりのレベル・目標に合わせた学習ができることが特徴だ。基本的には校舎の学習ブースで受講するが、コロナ以前から自宅で授業を受けられる環境が整っていたという。

そのような状況の中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、緊急事態宣言の間は校舎を閉校。生徒は自宅での勉強を余儀なくされたという。宣言の解除後は校舎を再開し、基本的には通学での受講、感染への不安がある生徒は引き続き自宅での学習も認めていた。

東進ハイスクールでは生徒がブースで各々に学習をする(画像:株式会社ナガセ)
東進ハイスクールでは生徒がブースで各々に学習をする(画像:株式会社ナガセ)

このような経過を経て校舎への通学を再開した同校。 東進ハイスクールを運営する株式会社ナガセの広報担当者にも話を聞いた。

ーーコロナ禍の受験勉強はこれまでと全く違ったと思う。実際はどうだったのか?

4月の緊急事態宣言で高校が臨時休校となり、生徒は当初、学校の授業が中断となることに不安はあったようです。そこで当校では、東進の授業を自宅でどんどん進めてほしいと指導しました。その結果、例年の4、5月よりも1.5倍ほどのペースで受講した生徒もたくさんいました


ーーもう少し詳しく、予備校の学習時間が増やせた理由を教えて

東進ハイスクールの生徒の多くは、高校2年生までに通い始めます。緊急事態宣言下の新高校3年生は、すでに東進での授業の受け方や勉強の進め方を身につけている生徒がほとんどで、そこまでコロナ以前との受講に違いはなく、こちらが予想したほど戸惑いはなかったようです。

ただし「家では集中して勉強できません」という相談も当初は多く寄せられ、自宅で黙々と一人で勉強することに慣れない生徒がいたことも事実です。元々当校が、自宅で受講できるのにも関わらずに通学を推奨していたのは、「校舎に行けば勉強仲間がいる」「担任がいるのでいろいろアドバイスがもらえる」というモチベーションの維持の意味合いもありました。

そこでこれまで通学時に行っていた担任や生徒とのグループミーティングを、校舎を閉めている間はZoomなどに移行し、定期的に生徒の勉強へのやる気の維持に努めました。これがよかったのだと考えています。

生徒とのミーティングの様子(画像:株式会社ナガセ)
生徒とのミーティングの様子(画像:株式会社ナガセ)

ーー勉強時間の確保には苦労しなかったようだが、では何が大変だった?

先ほどの話とも重複しますが、生徒のモチベーションを高め持続することです。大学も休校となるなど、今年はオープンキャンパスがほとんど開催されませんでした。実際に訪れて大学の雰囲気を感じ取れる機会がなかったので、学校選びや受験の動機付けが難しかったようです。

加えて、例年であれば6月頃には出る大学の入試要項の発表も今年は遅れました。元々2021年から「大学入試センター試験」が「大学入学共通テスト」に移行するという年で、不安があった今年度の受験生ですが、そこにコロナが加わり、ダブルパンチを食らった格好です。

先が見えないという不安が大きかったようで、当校では大学の様子を撮影した映像をYouTubeの東進公式チャンネル「東進TV」で紹介したり、共通テストの情報を随時アップデートするなどして、生徒に受験に関する様々な情報を提供することに尽力しました。


録画した講師の授業を各自が自分のペースで受けるというスタイルの東進ハイスクールでは、授業時間の確保という点では、休校などがあったことで逆に増えたということだった。しかし、モチベーションの維持のためいろいろとサポートし、例年と変わらない学習状況を作っていた。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

2校に伺ったところ、2学期からの巻き返しなどもあり「勉強時間が足りない」という受験生はほとんどいなかったようだ。

ただ1年前には想像できなかった環境で受験勉強をすることなった高校3年生たち。2020年を振り返るといろいろ不安はあるかもしれないが、この状況は受験生はみな同じだ。「大学入学共通テスト」まで1カ月を切ったが、最後まで諦めずに勉強に励んでほしい。
 

【関連記事】
卒論を残すのみだった大学生が中退…相談窓口「コロナ中退119番」に聞いた実情​
水筒を生徒に見立ててカメラに授業。コロナ禍で大きく変わる“学び”の形

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。