新型コロナウイルスの感染拡大により、この春、学校教育の現場は大きく変わった。

長期に渡る休校期間中、子どもたちの学習意欲や学校への所属意識は徐々に低下していく。それにどう維持していくのか、学校側は突如対策を求められたのだ。

その解決策の一つとして注目されたのが、インターネットなどを利用したITC教育だ。

ウェブ会議システムや動画を使った授業に急遽取り組んだ自治体は多かった。これまで触れたことのないツールを使った授業に戸惑い、奮闘する先生たち。一方で、これを期に企業が提供する授業アプリを導入し、生徒や先生たちの学びのあり方が変わってきたという自治体も。

“ウィズコロナ”時代の今、大きな変革の時にある学校教育の現場を追った。 
 

顔が見えない授業と“いいね”ボタン

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新潟県の長岡市立南中学校では5月の臨時休校中、ITCを使ったオンラインでの質問教室が行われていた。

オンライン授業を行う先生の隣には、モニターの変更など通信をサポートする先生も座り、2人1組のチームで授業に臨む。ウェブ会議システムを活用し、家庭にいる小中学生と学校をつないで、朝の学活や学習の疑問に答える質問教室に取り組んでいたのだ。

カメラで映したホワイトボードを黒板代わりに、「心臓から肺に向かう血液は酸素が少ないので、静脈血ですか動脈血ですか」と質問するのは20年以上教職を勤める土田宗明先生。もちろんオンライン授業は初めてだ。

パソコンのモニター上ではホワイトボードの画面になっているため、生徒達の顔は見えないが、「静脈血」と返事が聞こえてくる。

授業後に土田先生に初めてのオンライン授業について話を聞くと、「しっかりと話が伝わっているかどうかが、普段の授業では表情で分かるんですけれど、画面をボードに切り替えて説明している時に生徒の表情が見えないので、その時伝わってるかどうかが心配になった」と話すが、生徒たちはこのウェブ会議システムの “いいね”マークを利用して理解できたかを伝えていて、画面越しで伝わったことを確認できたことを喜んでいた。

20年以上対面で行ってきた授業。初めてのオンライン授業にやはり戸惑いもあるが、生徒たちのために「頑張って対応していきたい」と力強い目だ。

長岡市教育委員会の動きは早かった。2020年3月の最初の休校を受け、4月上旬には全ての家庭を対象にネット環境に関するアンケート調査を行い、ITCを利用した授業ができるかどうか確認を進めていたのだ。

その理由について、「3月の長期の休校があった時に、子どもたちが学校にいけない状況が続いて、学校への所属意識がだいぶ下がってきていて、少し意欲が低下していると。学習意欲の低下が一番怖い。そこで何かできることはないかと、学習環境をどう整えられるかということで調査をさせていただいた」と話す教育委員会の佐々木潤指導主事。

アンケートの結果全ての家庭にネットワーク環境や端末がそろっているわけではなかったが、長岡市は学習意欲を維持するために、オンラインでの学活や質問教室の実施を決断。端末のない家庭には、パソコンを貸し出した。

この取り組みを進めたこともあり、長岡市の先生は全員がウェブ会議システムを使用した授業を経験し、佐々木指導主事は「今後、1人1台端末がくるとなったときにも、長岡の先生方は、そういった使い方も力をつけてくれたので、生かせるかなと考えています」と話す。
 

動画学習で生まれる新しい学校教育の形

新潟県立教育センターは、休校による学習の遅れをオンラインでサポートしようと、4月から県内の小中学生に向け授業動画を配信している。作成した動画の数は200本にのぼり、制作は現在も続いている。動画は全て教科書に沿った内容で、児童・生徒が家庭からアクセスし、学びを進めることができる。

教える側は、魅力的な動画づくりに懸命だ。

教室の中央にカメラを置き、生徒が使う机には3本の水筒が置かれている。

「できるだけ生徒がいると思って、視線を生徒がいる目印の方に合わせたり、生徒とのやりとりを想像しながら話をするようにしています」と水筒を生徒に見立て、ライブ感のある授業を目指していると話した。

出来上がった動画にはテロップもつけ、さながらYouTuberだ。

動画学習には、対面での授業にはない利点があり、その1つが「とめてボタン」の活用だ。
通常の授業の中でどうしても発生する理解のスピード差。問題を解き終わった生徒が待たされたり、急いでやらなくてはいけない生徒が出てくる中で、「動画を一旦止めて、自分のペースにあわせて学習を進めることができる」という。

今後、1人1台の端末が整備されれば、動画教材で授業を進め、教師は児童・生徒1人1人のフォローに専念するという新しい学校教育の形が生まれる可能性がある。
新潟県立教育センターの泉田雅彦次長はこの取組についてコロナ禍の教育以外にも活用が考えられると話す。

「まず緊急的なこととしては、新型コロナウイルス感染症の第2波・第3波に備えるという意味があります。そのほかの、例えば不登校で学校に来られない、病気で欠席をしている場合の対応であるとか、そういったことも考えられます」
 

コロナ禍で導入したアプリが授業のサポートに

一方で企業が作る“授業”を導入したのが愛知県の県立高校だ。
愛知県では、休校期間中の授業の遅れを取り戻すべく、6月からリクルートが提供する「スタディサプリ」というアプリの導入が始まった。動画に登場し授業を教えるのは、全てプロの予備校の講師だ。

動画は長くても1本20分から30分。単元ごとに細かく分かれていて、国語、数学など主要5教科・18科目、約4万本が見放題になっている。

スタディサプリは8年前、個人向けに始まったが、最近では学校単位での利用も増加しており、高校は現在全国約5000校のうち、半数の2500校が利用しているという。
さらに新型コロナ感染拡大後は、3カ月で600校以上の申し込みがあり、会員数は110万人にのぼる。

中学1年生からオーボエを始め、プロの演奏家をめざしている麦沢菜穂さんは、愛知県立明和高校の音楽科に通う3年生だ。

県内の公立大学への進学を目指しているが、休校期間中は「最初休みになった時は、ちょっと英単語覚えようかなとか、頑張ろうかなと思ったんですけど、結局大してやらなかったですね」と、あまり勉強はしなかったという。

大好きなオーボエの練習ははかどったというが、それ以外の科目の勉強はほとんど進まなかったそうだ。そんな彼女が、6月から「スタディサプリ」を使い始めた。

「目の前にいるみたいな感じでサクサク進んでくれたので。テンポ良く最後まで、あっという間に聴けました。学校の授業で受けてみて苦手だったところとか、理解がイマイチだなってところを、再生ボタンを押すだけで何回でも見られるから、すごくためになると思いました」

一方、受験生の娘を心配していた麦沢さんの母も「すごく分かりやすくて。自分が授業を受けても分かるって思って。ちょっと学校の授業とは雰囲気違うよね、割と必要なことだけを言ってくれているんだなということがすごく分かったので」と、一安心の様子。

学校側は今回のスタディサプリの導入で、先生の仕事の有り様にも変化が生まれる可能性を感じている。

「復習あるいは予習の部分で、1週間に1課題程度、この動画を見たりこの問題を解いたりということを、スタディサプリを通して指示を出すようにしています」

学校としては新型コロナウイルス感染症の第2波、第3波により、再び休校を余儀なくされた時にスムーズに利用できるよう、今は準備期間と捉えているようだ。

「どうしても1クラス40人に対して授業を展開していくと、全員しっかり理解できるまで時間をかけるということが難しいところが実際にあります。『分からない状態になったら、スタディサプリのこの講座がいいよ』ということが言えると、新しい学びの形が生まれてくると思います」

新型コロナウイルスが引き寄せた教育の大変革期は、今私たちの目の前に来ている。

こうした状況について、富山大学大学院の長谷川准教授は、「今までは学校で使う物というと、鉛筆とかノートといったイメージでしたが、端末も文房具と同じような感覚で使えるようになっていくことが望ましい」と話す。
その上で将来については「調べたいことを決めて、どう調べるかを考え、情報を分析し、まとめて人に伝える力が必要とされる」と述べ、1人1台のITC端末が整備されれば、そういった学習も可能になると指摘する。

今後、実際に1人1台の端末が確保できるかなどの懸念材料もある。しかし収まる気配を見せないこのコロナ禍が引き寄せた教育の大変革期は、私達の目の前に来ている。