感染拡大で病床逼迫

韓国の新型コロナイウルスの新規感染者は18日、1062人を記録した。17日は1014人、16日は過去最多の1078人と、3日連続で1000人を突破しており、新規感染者の大量発生が続く。累計感染者数も4万7515人となった。

地域的にはソウルと京畿道、仁川で新規感染者の約7割が集中し、都市部での感染拡大が際立っている。

韓国の疾病管理庁のHPより(筆者訳)
韓国の疾病管理庁のHPより(筆者訳)
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感染者の急激な増加に伴い、病床不足も深刻化している。疾病管理庁中央防疫対策本部が発表した危篤・重症患者の数は246人(18日)で、12月1日の97人から約2.5倍に増加した。

韓国の疾病管理庁のHPより(筆者訳)
韓国の疾病管理庁のHPより(筆者訳)

重症患者が増えた主な原因は、60代以上の高齢層に感染が広がっていること。12月に入って感染者3人に1人が60代以上になっている。そのため死者数も増加し、17日は過去最多の22人となった。

一方、重症患者向け病床は18日時点で全国45床とひっ迫している。人口約2600万人の首都圏では重症患者向け病床の空きはわずか4床。特にソウルは1床しかない非常事態となっている。全羅道など4カ所でも「ゼロ」に追い込まれている。

一般病床も不足し、17日にはソウルで入院待機中だった60代の患者が死亡する事例が初めて発生した。

防疫当局と地方自治体が連携して重症患者の病床確保に懸命だ。だが、それには専門の治療機器・装置が必要であり、一般の集中治療室を転用するのも容易ではない。熟練した医療スタッフも不可欠だ。感染者の急増に受け入れ態勢が追いつかず、その結果、医療崩壊が現実のもとのなりつつある。

韓国は初期段階で、PCR検査の大量実施や感染ルートの厳格な追跡、隔離措置の徹底などにより、感染抑え込みに成功した。世界保健機関(WHO)は韓国を「新型コロナウイルス対策の優等生」と賞賛、文在寅政権は韓国政府の成果を「K防疫」として大々的に宣伝してきた。だが、感染拡大「第3波」を迎え、この成功体験も上書きを迫られている。

(関連記事:韓国式大量検査は徴兵制の賜物…新型コロナが揺さぶる「自由」の価値

見通しの甘さと事なかれ主義

今、韓国に突きつけられているのは、ワクチン確保で大幅に出遅れた、という現実だ。

アメリカ(最大24億回分)、イギリス(最大3.8億回分)、欧州連合(EU)加盟27カ国(最大14.8億回分)、日本(5.3億回分)……。

イギリスやアメリカなど各国ではすでにワクチン接種が始まっているが・・・
イギリスやアメリカなど各国ではすでにワクチン接種が始まっているが・・・

野党「国民の党」の姜起潤議員が自身のブログで公開した「海外国別ワクチン確保動向」(保健福祉省作成)の一覧表には、各国のワクチン確保状況が列挙されている。一方で、韓国分については文在寅大統領が9日の段階で「政府は(人口の9割に相当する)4400万人分を確保し、来年2〜3月には接種を開始できるだろう」と公言していた。

ところが、文大統領が言及した「4400万人分」のうち、韓国政府が契約できているのは英製薬大手アストラゼネカのワクチン1000万人分のみ。残りの3400万人分は見通しが立っていないのだ。そのアストラゼネカのワクチンも治験が遅れ、アメリカ食品医薬品局(FDA)などの承認をいつ得られるかわからないのが実情だ。

充分なワクチン確保の見通しは立っていない韓国
充分なワクチン確保の見通しは立っていない韓国

なぜ、韓国はワクチン確保で出遅れたのか……。

韓国紙の朝鮮日報は①冬期感染リスクの過小評価②専門家の「ワクチン確保」勧告を無視③ワクチン早期購入のための手付金の出し惜しみ④官僚の保身――を挙げている。

まず言えるのは、韓国政府の見通しの甘さだ。

専門家らから「ワクチン確保を急ぐべきだ」との指摘を受けても、政府は「海外に比べ感染者が少ない」「韓国は他国と条件が異なる」などとして、まともに取り合わなかった。それまでの「K防疫」を徹底していれば感染拡大を防げると思い込み、大量のワクチン確保は必要ないと考えていた節がある。つまり「K防疫」の成功体験が判断ミスを招いたということだ。朝鮮日報も「『K防疫』成功に酔って、冬の大流行の危険性を過小評価し、ワクチンの導入時期さえ逃した」と厳しく批判している。

また、官僚の「事なかれ主義」も露呈した。

大統領に権限が集中する韓国では、官僚は大統領府の意向を忖度する傾向が強い。このため政治的リスクを伴う政策決定には消極的になりがちだ。ワクチン早期購入にあたっては、手付金を先払いしなければならなかったが、担当の省庁はこれに慎重だったという。

通常、ワクチン開発には巨費と時間がかかる。一度手付金を支払えば、開発に失敗した場合も返金されず、巨額の税金が無駄になる懸念がある。在庫を抱えるリスクもある。韓国では過去に新型インフルエンザのワクチンを輸入し、大量の在庫を抱えたことが問題視された。

文大統領は自ら旗振り役となって「K防疫」宣伝を大々的に展開してきたが、ワクチン確保には熱心ではなかった。こうした雰囲気を官僚も感知していたことが、出遅れにつながったと言えよう

「トンネルの出口」見えず

4400万人分のワクチン導入計画が決まった際、文大統領は「長いトンネルの出口が見えた」と述べた。だがその言葉は現実とはほど遠く、国民の不安は募る。「K防疫は成功か、失敗か」を尋ねた最近の世論調査は「成功」46.3%、「失敗」43.9%と拮抗している。「感染収束のために政府がすべきこと」のうち「ワクチンの至急確保」が最多の40%超だった。

韓国の防疫当局や医療関係者は、急激な感染を食い止めようと今も必死の努力を続けている。そのカギとなるのが新型コロナ対策の“ゲームチェンジャー”であるワクチンだ。「K防疫」が限界に直面し、医療崩壊の危機が迫る中、文政権はいかにワクチンを確保して国民の不安を払拭するのか。「試練の冬」を迎えている。

 

【執筆:フジテレビ 国際取材担当兼解説副委員長 鴨下ひろみ】

鴨下ひろみ
鴨下ひろみ

「小さな声に耳を傾ける」 大きな声にかき消されがちな「小さな声」の中から、等身大の現実を少しでも伝えられたらと考えています。見方を変えたら世界も変わる、そのきっかけになれたら嬉しいです。
フジテレビ客員解説委員。甲南女子大学准教授。香港、ソウル、北京で長年にわたり取材。北朝鮮取材は10回超。顔は似ていても考え方は全く違う東アジアから、日本を見つめ直す日々です。大学では中国・朝鮮半島情勢やメディア事情などの講義に加え、「韓流」についても研究中です。