日本に「教師の日」は必要なかった


10月5日は世界的に「教師の日」だ。

ユネスコでは1994年からこの日を「世界教師デー」と定め、教師への感謝を通して教師の待遇改善や社会的地位の向上、さらに教育のあり方について考える日としている。
「教師の日」はすでに世界100か国以上で開催されているが、日本では去年よりスタートしたばかりだ。

フジテレビのインターネット放送「ホウドウキョク」の「教育のキモ」では10月5日、「教師の日」の普及委員会代表をしている松田悠介さんをゲストとしてお招きし、日本での取り組みを伺った。松田さんは、「うまれた環境に関わらずすべての子どもに教育を」をミッションにするNPOティーチフォージャパンの代表理事だ。

そもそもなぜ日本には「教師の日」がなかったのか?

こうした疑問に松田さんは、「日本では教師はこれまでずっと尊敬された職業で、これまではわざわざ教師の日をつくらなくてもよかったと言える」と述べる。

しかし、いま日本の教師が置かれている状況は大きく変わっている。

日本の教師を取り巻く環境は…(イメージ)
日本の教師を取り巻く環境は…(イメージ)
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日本の教師はハードなのに…

日本の教師の平均勤務時間は、OECD参加国の中でもトップクラス、1週間あたりではOECD平均が約38時間なのに対して約54時間だ。さらに勤務時間の内訳をみると、日本では授業に使った時間が31%、授業以外が69%なのに比べ、OECD参加国平均は授業41%、授業以外59%と、日本の教師は勤務に占める授業以外の業務が圧倒的に多くなっている。

この理由について松田さんは、「日本では部活動や保護者対応も多く、他の国が教師をサポートする事務職員がいるのに比べ、日本の教師はほとんど一人で何でもこなさないといけない」と分析する。つまり日本の教師は、どの国よりも勤務がハードなのに、感謝されることが少ない職業なのだ。

考えてみれば日本では、生徒や保護者から教師に感謝の言葉を送るというのは、せいぜい卒業式の日くらいで、「その卒業式でのありがとうで、先生たちはまた一年頑張れる」(松田さん)という。

「感謝を言う場がない」

今年の「教師の日」、「教育のキモ」では生徒たちがイベントを行った東京都渋谷区立広尾中学を取材した。

生徒たちは寄せ書きや花束を用意し、教職員に生徒からサプライズプレゼントを行った。生徒たちになぜこのイベントを始めたか聞くと、「いつも感謝していてもなかなか言う場がない」という意見が多かった。

教師に感謝(イメージ)
教師に感謝(イメージ)

確かに大人でも、普段から感謝の言葉はなかなか口に出して言えないが、「父の日」や「母の日」のように記念日があれば、感謝の言葉を言いやすい。「教師の日」は10月5日のみだが、10日まで都内で行われるイベント「教師のコトバ展」では、「影響を受けた教師の言葉」を会場内にパネルで並べている。

秋も深まる今日この頃、学生時代に出会った恩師に思いをはせながら、感謝の言葉を考えてみるのはどうだろう。

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。