コロナ禍で不動産にも影響が出ている。
東京のビジネス地域ではオフィスの空室率が9カ月連続で上昇しているという。
 

出典:三鬼商事
出典:三鬼商事
この記事の画像(6枚)

これはオフィスビルなどの仲介を手掛ける三鬼商事が毎月発表する日本各地のデータによるもので、東京の千代田・中央・港・新宿・渋谷の5区の合計では、今年2月から連続でオフィスの空室率が上がり続け、11月には4.33%になっている。
オフィス空室率が4%を超えるのは2016年6月以来だという。

またオフィス賃料は2014年1月から上がり続けていたが、今年8月時点で80カ月ぶりに下降に転じ、以来下がり続けている。
 

出典:三鬼商事
出典:三鬼商事

新型コロナウイルスの影響でテレワークが一気に広まり、オフィスの縮小や解約などにつながったのではないかと思われる。

コロナ前では予想できなかった状況になっているが、今後も空室のオフィスが増え賃料が下がる傾向が続くと、働く環境はどう変わっていくのか?そして、オフィスが少なくなることは、マンションなどの価格にも影響してくるのだろうか?
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役の西山広高さんに聞いてみた。

西山広高氏
西山広高氏

オフィスの人口密度は60~70%に下がる

――都心オフィスの空室率が上昇している原因は?

空室率の上昇の主な原因はやはりコロナウイルスに起因するところが大きいと考えられます。
従来から「働き方改革」の推進に伴い、オフィス利用の効率化への取り組みが必要だといわれていたものが、コロナウイルス感染拡大で待ったなしになり、一気に進んだ結果が数値に現れ始めているものと考えます。

コロナが収束しても完全にコロナ前の状況には戻らないでしょう。しばらくは空室率の上昇、オフィス賃料の下落傾向が続くと考えられます。
 

――これからのオフィスはどう変わっていく?

これまでのオフィスは、雇用者、会社側の視点で「限られたスペースにいかに多くの人を収容できるか」が課題だったといえます。

しかし、コロナウイルスの感染拡大でテレワークの推進やオフィス環境の見直しを余儀なくされた結果、一部の企業では出社の頻度が大きく減っています。
出社せざるを得ない場合も、オフィス内でのソーシャルディスタンス確保の観点からオフィス内の人口密度を下げるなどの対策が取られていますが、同時に人と顔を合わさない弊害も生まれつつあります。

業種・職種にもよりますが、オフィス面積の縮小と合わせ、オフィス内の人口密度は6~7割程度まで下がるのではないでしょうか。
 

マンション価格は下がるのか?

コロナが収束してもコロナ前の状況には戻らず、しばらくオフィスの空室率が上がる傾向が続くのではということだった。

そうなると、オフィスビルからマンションへの転換という動きは進んでいくのだろうか。供給量が増えれば住宅の価格も下がるように思えるが、これからの住宅市場にどんな影響を与えるのか?
ここからは住宅について詳しく聞いてみた。

――オフィスの空室率上昇は、マンション価格にどう影響する?

まず東京に限って言えば、「オフィス」と「マンションを含めた住宅地」とはエリアが分かれている傾向が強いと感じます。
オフィスの中心である千代田区・中央区にもタワーマンションは存在するものの数は多くありません。2013年ごろから上がり始めたマンション価格はすでに一般のサラリーマンでは手の届かない価格に達しているともいわれ、今後は大きく値上がりすることはないと考えます。

しかし働き方改革が進み、残業が減るなどした結果、所得が減る人が増え、住宅購入の予算も下がる可能性があることから、マンション価格も下落に転じる可能性が高いように感じます。
 

――現在の住宅市場はどんな状況?

住宅市況はすでに改善しつつあります。
特に中古のマンションや戸建ての流通量は前年同期比プラスにまで改善しています。
 

――コロナ禍で住宅のニーズはどう変化している?

昨今は共働きの家庭が増えていますが、子供がいる家庭では特に職場に近いところにマイホームを持たざるを得ない状況がありました。

それがコロナ禍でテレワークが常態化し、夫婦ともにテレワーク対応が可能な家庭などは、家が職場から少し離れていても子供の保育園への送り迎えなどの対応が可能になっています。また、自宅内にワークスペースを確保するなどのニーズも高まっています。
住宅へのニーズも変化し、都心部から少し離れても面積が確保でき、在宅勤務にも対応できる少し広めのマンションや戸建て住宅へのニーズも高まると考えられます。

――住宅市場は今後どうなっていく

ウィズコロナ、アフターコロナの中でも「駅から近い」という魅力はある程度維持されるでしょう。交通アクセスのよいマンションの価格は大きくは下がらないと考えられます。マンションも戸建ても少し広めの物件を求めるニーズはしばらく続くでしょう。

コロナが落ち着けば、駅から距離のある、都心部から離れたマンションの価格は徐々に値下がりに転じると考えられます。戸建て住宅の価格はコロナの影響はあまり受けないのではないでしょうか。

コロナ前から最近のマンション購入者の中には、戸建てからの買い替えも少なくありません。そうした需要の多くは高齢者です。セキュリティやバリアフリーなどの観点から戸建て住宅を売却してマンションに移る需要があります。また、そうした方々も、すでに築いている地元人脈を維持するため、「これまで住んできた場所を遠く離れたくない」というニーズがあります。
こうしたことから、戸建て住宅地に近く、駅からも近いマンションは今後もしばらくの間は根強い需要が続くと考えられます。
 

オフィスの空室率の上昇との因果関係はあまりないが、働き方改革の浸透や所得の変化によって、今後マンション価格は下がる可能性は高いということだった。

コロナ禍で住宅ニーズも変化しているとのことで、購入を検討している人は、値下がりを待つか今買うかの判断は慎重に行っていただきたい。
 

【関連記事】
卒論を残すのみだった大学生が中退…相談窓口「コロナ中退119番」に聞いた実情