岸防衛相は敵ミサイルの射程圏外から攻撃できるスタンド・オフ・ミサイルを新たに開発する方針を表明。また配備計画を停止していた地上配備型迎撃システム、イージス・アショアの代替案として、新たに2隻のイージスシステム搭載艦を建造することを決定。日本への脅威が多様化する中、菅政権の新たな方針によって日本の防衛力はどう強化されるのか。
今回の放送では3人の元防衛相をゲストに迎え、日本の安保戦略を掘り下げた。

長射程ミサイルの国産開発は自衛隊の安全のため

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竹内友佳キャスター:
12月18日に閣議決定が予定される長射程ミサイルの開発が日本の安全保障にもたらす影響は。新たに開発されるスタンド・オフ・ミサイルは射程が300キロを超え、航空機からも発射可能。これは自衛の範疇を超えて攻撃にも使えるとはなりませんか。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長:
スタンド・オフという言葉は相手の脅威圏外から攻撃をする意味。逆に言うと相手が長距離弾を持っているのにこちらにはない状態は非常に危険。自衛隊員の安全な任務遂行のために必要。今回のものは国産で、船からも陸からも撃てる。一発あたりの開発費も抑えられ、能力は高い。

中谷元 元防衛相 自民党安全保障調査会顧問:
国内でしっかりと作ることがコスト抑制にもつながり、日本の技術も上がっていく。今回これが可能になり、閣議決定された。中国の戦闘機、艦艇、ミサイルも射程を伸ばしており、国土防衛上長射程のものは必要。

森本敏 元防衛相 拓殖大学総長:
「相手のミサイルは届くがこちらのミサイルは届かない」では、国土以前に隊員や彼らが乗る船も守れず、国家の防衛はできない。そうした安全維持が結局は抑止になる。敵地に攻撃できるかどうかという物理的な議論は、現代の兵器のシステムの開発の論理とは全くそぐわない。
敵地攻撃能力になるのではないかという議論については十分国内で議論をして、わが方の領土あるいは艦艇を守るために不可欠であるということで、法理論上は乗り越えてきている。今回の射程延長について説明はついており、あとは技術開発がどこまで進むか。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
長射程のミサイルを持つと相手の領土を攻撃するかのような話をする方が国会にもいるが、攻撃なら短い射程でもできてしまう。遠くまで届く・届かないではなく、問題は政治の意図、政策としての判断。あくまでも自衛隊員が相手の脅威圏外から安全にしっかり任務を行うための装備。
また、「万が一の時はそれをやってもよい」と政治が自衛隊に認めなければ、隊員は勝手に自分たちで計画を立てて訓練・準備はできない。シビリアン・コントロールに影響する。だからこそ自民党は、相手領域内でのミサイル阻止の能力を持つことを政治の場で検討している。

ミサイル能力には閣議決定が必要

竹内友佳キャスター:
安倍前総理は退陣間際、ミサイル阻止に関する安全保障政策の「新たな方針」について今年末までに方策を示すとしていました。一方、加藤官房長官は、ミサイル阻止に関する「新たな方針」として開発するものではないと発言しています。

森本敏 拓殖大学総長:
官房長官発言が意味しているのは、まず今回の12式地対艦ミサイルの能力向上は、敵基地攻撃ではなく、あくまで日本の領土・領海・艦艇・航空機、そして隊員の安全を守り、国益を守ることが目的ということ。もうひとつは、900キロの射程を持つスタンド・オフ・ミサイルを導入する決断は既にしているので、「新たな」方針ではないと言っている。
憶測だが、安倍前総理の発言はもっと専守防衛や抑止についての概念的な新しい考え方を指している。それぞれの「新たな方針」という言葉の意味は違う。

森本敏 元防衛相 拓殖大学総長
森本敏 元防衛相 拓殖大学総長

中谷元 自民党安全保障調査会顧問:
安倍前総理の発言はイージス・アショア中止時の談話。単にイージス・アショアのようなBMD(弾道ミサイル防衛)だけを行ってもミサイル攻撃は防げず、撃たせないための抑止力や新型ミサイルへの対応を検討すべきだと言っている。

反町理キャスター:
では、安倍前総理の「新たな方針」は現在どうなっているんですか。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
これを受けて議論をしました。飛んでくるミサイルを撃ち落とすことは大変な技術で、大きな費用もかかる。抑止力を高めるためにはやっぱり元を絶つしかない。一番確実に食い止められる相手の領土・領域の領空内でのミサイル能力を持つべきというのが結論。そのように提言した。安倍前総理もその提言を評価しており、同じ意図だったのでは。

小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長
小野寺五典 元防衛相 自民党安全保障調査会長

反町理キャスター:
我が国にはすでにその能力があると思ってよい?

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
私たちは相手の領土を攻撃するような装備は持たないと戦後一貫して国会で言っており、そこを政治の場で乗り越えなければいけない。

反町理キャスター:
すると、装備や能力を持つスケジュールは見えているが、あとは理屈付けが必要だということ?

中谷元 元防衛相 自民党安全保障調査会顧問
中谷元 元防衛相 自民党安全保障調査会顧問

中谷元 自民党安全保障調査会顧問:
閣議決定が必要。「敵基地攻撃を目的としたものではない」と言ってはいるが、閣議決定がなければ研究も保持もできない。ところが、もう北朝鮮、中国、ロシアもすべて核ミサイルを持っている。国会の議論でも、「昭和30年に座して死を待つべきではない」と憲法的にそれが可能だとなっており、あとは官邸の決断。

一番効率的なのがやはりイージス・アショア

竹内友佳キャスター:
今年6月に河野前防衛大臣が配備計画を停止した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替について。政府は、運用上最適な海域へ柔軟に展開することが可能なイージス・システム搭載艦2隻を整備するとしています。

森本敏 拓殖大学総長:
イージス艦とイージス・アショアがきちっと配備できれば一番よかったが、残念ながらそうならなかった。その後代替について紆余曲折があった。「運用上最適な海域」という言葉が出ている。これは、イージス・アショアはもともと秋田と山口に置いた2つで日本全土を防護できるように考えられていたため、2隻を概ね同様の海域に運用するということ。

竹内友佳キャスター:
運用について、自衛隊員の方の人数をどれだけかけるかという点は。

中谷元  自民党安全保障調査会顧問:
イージス艦に乗る通常の人員数からの省力化は検討。定年を延長して人員を確保することも。現在定年は55歳ぐらいだが、船の専門家である熟練の方を定年延長で確保するということはできると思う。

反町理キャスター:
イージス・アショア2基のコストはおよそ4000億円。代替艦を2隻作ると4800〜5000億円以上、1000億ほどが追加でかかるという概算の数字。当初の計画は「タンクが民家に落ちるかもしれない」という話からダメになって変更された。このコストについては。

小野寺五典  自民党安全保障調査会長:
何度議論しても、一番効率的なのはやはりイージス・アショアだった。でも残念ながら中止となったのなら、イージスシステムを置く場所がないので船に乗せて海の上、という話。船ならば修理や補給など、ランニングコストがかかる。ものすごくお金も時間もかかるものを選択せざるを得なかったというのが今回の決定。

反町理キャスター:
搭載するイージスシステムにはSPY-7とSPY-6という2つの候補がある。もともとイージス・アショアに載せる予定だったのは前者ですが、アメリカの主流は後者。ではアメリカとの共同計画などを考えれば後者なのではという話もあるが、これは決まっているのですか。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
実際の運用においてどのシステムがいいのか、船はどの形がいいのか。これは、今回は実際に運用する海上自衛隊が、自分たちが運用する能力において判断したほうがいい。専門家に任せたほうがいいというのが今回の結論だった。

反町理キャスター:
どちらを選ぶかにかによって予算が何百億円単位で変わってくるとも聞く。自衛隊の装備の予算計画において、それを現場に任せるのはあり得る話?

森本敏 拓殖大学総長:
現場に任せるというか、現場の意見を十分に聞いて政治で判断する。そのことに尽きます。

BSフジLIVE「プライムニュース」12月14日放送