12月8日夜、菅首相は東京・虎ノ門ヒルズにある高級ホテル「アンダーズ東京」内のレストランに入った。麻生副総理兼財務大臣との会食に臨むためだ。9月の菅内閣発足以降、両氏の会食は10月17日以来2度目となる。ただ今回の会合はそもそも、先月に予定されていたものが両者の都合で延期となり“リスケ”された会だった。このため両氏は実質、月に一度、定期的な会合を開いているとも言える。

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ちなみに10月17日の前回の会合は菅首相がベトナムとインドネシアへの初外遊に出発する前日に開かれた。この場で麻生副総理は自らが首相を務めた時の経験を踏まえ、首脳会談に臨む際の目線の向け方や会談・会食での振る舞いなどについてアドバイスしたという。その後、外遊から帰国した菅首相は麻生副総理にお礼を伝えたという。現職首相と首相経験者の会食ならではのエピソードと言える。

総理と副総理 政権2トップの夜会合で何を食し、何を語ったのか

さて、8日の会合場所となったアンダーズ東京のレストラン「The Tavern」は菅首相が官房長官時代から利用する店の一つで、この日も菅首相側が選んだという。関係者によると菅首相はこの店で、ステーキやラーメンなどを好んで食べるということで、麻生副総理も肉を好んで食べることから、この日も両者でステーキを食したのかもしれない。飲み物は、お酒が好きな麻生副総理はワインを飲み、お酒が飲めない菅首相はウーロン茶や炭酸水を飲んでいたという。

この日はちょうど新型コロナウイルスの感染拡大防止策や経済振興策などを盛り込んだ事業規模73.6兆円の追加経済対策が閣議決定されたことから、両氏にとってもある意味で“一段落“した節目の日でもあった。

午後6時半過ぎから始まった会合は2時間以上に及んだ。国内外の諸情勢や党内情勢、自公両党間で決着が先送りされている75歳以上の医療費負担の行方など、様々な話題が出たとみられる。また焦点の解散総選挙の時期についても意見が交わされた可能性がある。双方の関係者からは「大変盛り上がったようだ」という声が聞かれることから、良好な雰囲気での会食だったことがうかがえる。

実は親密?根強い“不仲説“に双方から払拭する声 

そもそも永田町・霞が関周辺では、安倍内閣を共に支え今は政権のナンバー1・2となった菅・麻生両氏の関係を疑問視する声、もっと言えば不仲説が根強い。安倍政権時には衆院解散の時期をめぐって両氏の考えの違いが指摘されたほか、菅政権の人事に関しての溝もとりざたされるなどしてきた。

しかし両氏はそうした声をよそに、安倍政権時代から2か月に一度、定期的に会食し、安倍首相を支えるための課題等を共有していた。そして菅内閣となった今もその会食が続いている。関係者によると、菅首相は麻生副総理について「麻生さんには大変助けられている」と感謝の意を示し、麻生副総理も「菅首相を全力で支える」と語っているという。

さらに菅首相・麻生副総理の双方の周辺からは「両者の間を割いて、自らの政治力を増そうという勢力がいるとしか思えない」と言う声が聞かれるなど、不仲説は菅―麻生ラインの接近を警戒するための“風説の流布”だとの指摘が聞かれる。

当選8回で72歳の菅首相に対し、麻生副総理は当選13回の80歳で元首相だ。菅首相にとって麻生氏は大先輩だが、麻生氏の周辺は「麻生さんは総理大臣を経験し、総理というのはいかに孤独な闘いを強いられるかわかっている。だからどういう形で支えられるのが一番よいのか十分に分かっている」と語る。麻生氏としては、自らの経験を生かし菅首相の不安を少しでも払拭したいとの考えがあるということで、現に麻生氏は周辺に対し「首相になった途端に悪い話が入ってこない。だから党内や海外の情勢を自分が総理に入れないといけない」と自らの役割について話しているという。

一般企業に例えると若手がうらやむ超元気な社長と副社長

両氏は72歳と80歳と高齢ながらも、若手顔負けの体力と行動力が共通の強みだ。2人とも朝は日課の散歩などで体力強化にいそしみ、夜は2時間超に渡る会食をこなし、麻生氏はその後も別会合に夜遅くまで出席する。菅首相も官房長官時代は夜の会食を毎晩のように2件こなしていた。さらに人心掌握術や人を見る眼力も共通の強みで、一般企業に例えると超元気な社長と副社長といえるかもしれない。

両氏がお互いを本音でどう思っているかはともかく、権力闘争が絶えない永田町では両氏への嫉妬や、両者の間に亀裂を生じさせようという動きは、今後も続くとみられる。しかし菅政権が長期の安定政権を築くためには、菅―麻生両氏がより強固な関係を築き、ラインを強化していくことが重要だとの見方には説得力がある。両者が今後、どのような信頼を構築し、どんな日本の未来を描いていくかは政局のカギを握りそうだ。

(フジテレビ政治部 千田淳一)

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。