ブドウや桃など収穫を間近に控えた農作物を狙った窃盗事件が数多く発生している。
盗難被害も補償対象となる「農業収入保険」があるものの、農家の7割は加入していないという。被害農家は「条件によって十分な補填を受けられない」と指摘する。
一房3000円のブドウを“品定め”して窃盗
収穫の秋を迎えても、農家から上がる悲痛な声・・・

栃木市ではシャインマスカット400房、福岡県うきは市では梨5000個など、全国で農作物の盗難被害が相次いでいる。

岡山県のブドウ園に設置された防犯カメラの映像には、午前0時半過ぎ、農業用ハウスの入り口にリュックを背負い、長靴を履いた人物がたたずんでいた。

一度立ち去ったこの人物は、目出し帽にヘッドライトをつけ、再び姿を現す。

さらに1時間後、車がやってくると、地面に置かれた大量の袋を次々と積み込んでいく。
「緑の宝石」とも呼ばれるシャインマスカット、およそ200房が盗まれた瞬間だ。

農作物を狙った窃盗事件は年間2000件以上発生。
一方、検挙されるのは半数ほどで、“泣き寝入り”する農家も少なくない。
こうした農家には補償はないのか?フルーツ盗難被害のその後を取材した。

取材班が訪ねたのはブドウの一大産地である長野・東御市の果樹園。
実っていたのは、長野県限定で生産される一房およそ3000円の「クイーンルージュ」。
まさに収穫時期を迎えたブドウが狙われた。

東御こもだ果樹園 菰田央代表:
3年前に350万(円分)くらい盗まれて。この畑のクイーンルージュ、シャインマスカット(など)六百何十房、全部であわせて。

ブドウにかぶせていた袋には犯人が品定めをした形跡があり、より品質が良いものが盗まれたという。

東御こもだ果樹園 菰田央代表:
袋を外して中身を見て、ちょっと小さいしこの辺赤くないなといって戻す。
なんかでかそうだぞと。(袋を外して見て)やっぱりでかい、これを盗もうと。(袋を)巻きなおした形跡がいくつもあった。
実際、僕は泣きました。本当だったら大切なお客さんの贈答品になる予定だった。それを想像してずっと一生懸命作ってきたので、やっぱり涙出ました。
「農業収入保険制度」 被害農家は“泣き寝入り”
大切な農作物を盗まれ、農家は泣き寝入りするしかないのか―。
鈴木前農水大臣は7月、SNSにこんな投稿をした。

(鈴木憲和前農水大臣のXより)
「収穫期の農産物の窃盗事案が生じています」「万が一の被害による収入減には、農業収入保険制度が適用されます」

鈴木前農水大臣が発信した「農業収入保険」とは農家の収入減少を補填する保険のことで、自然災害のほか、病気やケガで収穫ができない場合、そして、今回のような盗難被害も対象となる。
菰田さんは…。

東御こもだ果樹園 菰田央代表:
こちらが加入申請書で契約の内容が書かれている書類です。
(令和)5年度の盗難が私の評価で350万くらい。本来だったらこれ(収入欄の1173万円)が1500万円くらいになったんではないかな。
3年前に盗難被害に遭った時は収入保険に加入していたという菰田さん。
被害額を少しでも穴埋めできると期待していたという。
しかし…。

東御こもだ果樹園 菰田央代表:
担当の方から「基準収入の9割を下回ったので使えます」という連絡がありました。
その下回った金額が数万円くらいだったんですね。それなら使わないという判断になりました。約350万円。完全に泣き寝入り状態になりましたね。
被害は350万円だったが、保険で補填されるのは数万円。補填額が少ないことから利用を見送る決断をしたという。
そもそも、収入保険の適用には条件がある。

それぞれの農家には「基準収入」と呼ばれる金額が決まっていて、盗難被害などで収入が減少しても、その9割を下回らないと適用対象とならない。

仮に様々な農作物を作っている農家の場合、ブドウを盗まれて収入が減っても、梨と合わせた収入が基準収入の9割を上回れば保険金はおりない仕組みなのだ。
さらに補填される金額も全額ではないため、菰田さんは保険の利用を見送ったという。
こうした適用の厳しさもあってか、農家の7割が加入していないという。

そのうちのひとつ、栃木県佐野市の果樹園は、過去に2度、桃が盗まれる被害に遭った。
さらに8月、シャインマスカットおよそ400房、80万円相当が盗まれた。

いずみファーム 猪股和泉代表:
手間かけて栽培してきて、最後収穫の時だけ持って行かれちゃうっていうね…。
ほとんど全部とられているので、発覚した時からすでにこんな状態ですよね。全然なってない状態。
3回の被害の合計額はおよそ180万円に。

いずみファーム 猪股和泉代表:
柵とかカメラとか結構設置したんですけど、夜の時間にライトつけながら夜な夜なやって。
完成するまではちょっと不安なので、当初4、5日この辺で車中泊、寝泊まりしてましたね。

かかった対策費用は20万円以上。それでも収入保険に加入しない理由は…。
いずみファーム 猪股和泉代表:
盗難でマイナスが出ても、トータルで見て基準値に達しないとなると、結局はお金(補填)が出ない。掛け金も大きいですから、そういう面を考えると仮に入っていたとしても、恐らく今回は出なかったと思います。
幅広いリスクに対する保険に理解を示しつつも、掛け金の負担と見合わないとの考えもあり、加入には至っていないという猪股さん。
「盗難に特化した補償があれば」と話す。

いずみファーム 猪股和泉代表:
うちの場合、結構な頻度で盗難に遭うので。対策もしているのに、それでも執拗に狙われているというところで、盗難だけを対象とした純然たるその保険、盗難保険みたいなものがあれば、ぜひ入りたいですよね。
盗難専用保険の「予定なし」
後を絶たない農作物の盗難。

被害にあっても保険金が支払われない場合があることについて、保険を運営する全国農業共済組合連合会(NOSAI全国連)は「被害に遭われた農業者の心情を考えれば、補填に至らないケースがあることは重く受け止めています」とする一方、「盗難だけを対象として収入保険の補償を拡充したり、盗難専用の商品(保険)を設ける予定はありません」とコメントした。

また、所管する農水省は、取材に対し「農業収入は毎年、一定程度の変動が生じるため、9割を下回る収入減少を補填の対象としている」と回答した。
(「イット!」10月2日放送より)

