「人食いバクテリア」とも呼ばれる「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」の今年の患者数が493人となり、過去最多になったことが分かりました。手足の筋肉が急激に壊死し、多臓器不全などになることがあり、致死率は30%にのぼります。

ありふれた菌が「凶暴化」!

今年6月にプロ野球・西武の森慎二コーチが42歳の若さで急逝したのも、「人食いバクテリア」感染による多臓器不全でした。

「人食いバクテリア」と呼ばれていますが、細菌は肉を食らうのではなく、毒素を出して、組織を液状化し、「壊死性筋膜炎」を引き起こします。原因となる細菌は数種類ありますが、最も一般的なのはA群溶血性連鎖球菌(溶レン菌)です。

A群溶血性連鎖球菌

聞きなれない名前ですが、実は決して特別な菌ではありません。子どもの咽頭炎などを起こす、ごくありふれた細菌で、健康な人であっても5~10%は、喉や皮膚に保菌している常在菌です。

ところが、このA群の病原性が変化して、「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」になることがあります。これが「人食いバクテリア」なのです。なぜ劇症化するかは解明されていません。

1時間に2~3cm壊死が進んでいく…

初期症状は、発熱、筋肉の痛み・腫れ、喉の痛み、傷口の激痛など、風邪と似た症状で非常に判別しにくいという特徴があります。しかし、ここで誤った判断をして治療が遅れると、大変なことが全身に起こるのです!

劇症化した「人食いバクテリア」は、病気の進行が極めて速く、一気に症状が広がります。細菌が急激に増殖し、通常は細菌のいない筋肉や筋膜を壊死させてしまいます。壊死の速度は1時間に約2~3cmと、恐ろしいスピードで進行します。

体の奥深くで組織が破壊されるために激痛が走りますが、その時点では既に大変なダメージを受けていることが多いのです。細菌は、血流に乗って全身に回り、数十時間で多臓器不全を引き起こします。

1~3日で死亡することもあり、死亡率は約30%にも達します。数十時間以内にショック状態で死亡することさえあります。また、妊婦が罹ると発病から1日以内に死亡する例が相次いでいることが、厚労省の調査でわかりました。

たたの「水ぶくれ」と思っていたら…!

感染した50代の男性は、最初は足に何の変哲もない「水ぶくれ」が出来たそうです。

気にも留めませんでしたが、「水ぶくれ」はなかなか治らず、次第に大きくなり、黒ずんできたそうです。そして突如、急激な悪寒が襲って来ます。床に就いたものの、高熱にうなされ、体温は41度近くに。翌朝になると意識はもうろう。病院を受診し、即入院となりました。

全身に腫れが広がり、腎臓や肝臓にも炎症が現れて、2日後には多臓器不全の危機に陥ったそうです。入院は3週間に及びましたが、治療が功を奏し、何とか回復を果たします。

治療が追い付かないと手足の切断も

治療法は確立していて、溶レン菌に良く効くペニシリンを大量に投与し、血中で一定の濃度を保ちます。

ただし、壊死性筋膜炎を起こしている部分は、血液の循環が悪くペニシリンが届きにくいため、切開して壊死している筋膜を除去するなどの外科的治療が行われます。しかし、治療の効果が菌の増殖スピードに追いつかないケースもあります。医師が診察している最中に、皮膚が紫色に変色した壊死部分が、みるみる広がっていった例もあります。

どんどん壊死が広がる場合は切断して止めるしかありません。

先ほどの男性も、医師から「もう少し遅ければ右足を切断せざるを得なかった」と言われたそうです。海外では、生命を救うため、四肢を切断した例もあります。治療は時間との勝負です。早期に治療するほど、生存率も高まります。

手足の傷には要注意

感染ルートについては、解明されていない点が多いのですが、咳などによる飛沫感染、傷口からの感染が有力とされています。

手足の傷や水虫にかかっている場所から感染しやすいとされています。特に免疫力が低下している、糖尿病などの持病のある人や高齢者は、傷が化膿したらすぐに受診することを心がけて下さい。


(執筆: 高山哲朗)