今週は日米の中央銀行が金融政策を決める会合を開く「中銀ウィーク」だ。アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は15~16日に、日銀は17~18日に開催する。金融市場はアメリカの利上げをほぼ確実視しているほか、日銀も0.25%の利上げに踏み切る公算が高まっている。
アメリカ利上げ確率「9割近く」に
11日に発表されたアメリカの8月の消費者物価指数は、総合ベースで前年同月比3.4%となった。7月と同じで、ほぼ市場予想通りだったが、食品とエネルギーを除くコアベースの前月比上昇率は0.3%と、伸びが7月から拡大した。
基調的なインフレ率の上振れが示されるなか、金利先物の動きからアメリカの金融政策を予測するCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)の「Fedウォッチ」では、15日からのFOMC(連邦公開市場委員会)の利上げ予想確率が、9割近くに達した。年末までに0.25%の利上げが2~3回行われるとの予想も7割を超えた。
利上げ観測が急速に広がるなか、11日のアメリカ債券市場では、長期金利が跳ね上がり、指標となる10年債利回りが一時4.99%をつけ、約3年前に記録した節目の5%に急接近した。金融政策の影響を受けやすい2年債の利回りも一時4.65%と、2024年7月以来の水準をつけた。
インフレ圧力と財政悪化リスク
市場で意識されているのが、アメリカのインフレを加速させ、金利を上昇させるふたつのリスクだ。
ひとつは、トランプ大統領が突如打ち出した「5000ドル配布」をめぐるものだ。
トランプ氏は9日の共和党大会で、「上下両院で共和党が多数派を維持できれば、アメリカ国民のすべての成人に1人あたり5000ドル(約76万円)を配る」と表明した。
単純計算で総額は1兆ドルを超える規模になり、需要刺激を通じてインフレを昂進させる可能性がある。
アメリカ連邦政府の債務は8月に史上初めて40兆ドルを超えた。GDP=国内総生産に対する年間の財政赤字の比率が6%前後に達するなか、「バラマキ」不安が、巨額の財政赤字への懸念を一段と高め、金利上昇の流れを強めている。
アメリカ財務省は9日、超長期債の買い戻し(バイバック)について、最大で従来の3倍となる60億ドルという上限額を公表したが、需給改善効果が期待できず、物足りないとの受け止めから、債券売りが優勢となった。
10日の国債買い入れ額は60億ドルの上限を下回り、長期金利の上昇を抑制できなかった。
遠のく原油供給正常化
もうひとつのリスクは、原油供給の正常化の時期が遠のきつつあることだ。
トランプ大統領は、9日、イランとの戦闘終結は中間選挙のあとになるとの見方を示した。10日には、イランの支援を受けるイエメンの反政府組織・フーシ派が紅海の玄関口にあたるバーベルマンデブ海峡近くの重要な港湾都市モカを制圧したと報じられたほか、サウジアラビアは、11日、ペルシャ湾から紅海へのパイプラインが攻撃を受け、稼働を停止したと発表した。
ペルシャ湾側から紅海側に原油を送り、バーベルマンデブ海峡を通過するルートは、ホルムズの代替ルートとして重要度が高い。アメリカのEIA(エネルギー情報局)によると、バーベルマンデブ海峡を通る4~6月の石油輸送量は日量810万バレルで、前年同期の1.8倍だ。
一方で、ホルムズ海峡経由の日量は490万バレルと、8割近く落ち込んでいて、バーベルマンデブ経由の代替ルートがストップすれば、影響は甚大だ。
WTI先物価格は、10日には一時1バレル=104ドルを上回り、中心限月として5月中旬以来の高値をつけた。
アメリカ自動車協会(AAA)が集計した全国平均のレギュラーガソリン価格は、12日時点で1ガロン=4.31ドルと、家計が負担増を意識する節目とされる4ドルを超える水準が続いていて、原油高によるインフレ圧力が顕著になりつつある。
1%切る変動金利はなくなる可能性
利上げがほぼ確実視されるアメリカのFOMCに続いて、日銀も17日から2日間の日程で金融政策を決める会合を開くが、円安や原油高による物価の上振れリスクを抑えるため、政策金利を現在の1.0%から1.25%に引き上げる公算が高まっている。東短リサーチなどによると、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む今回の会合での利上げ確率は11日午後時点で、98%に達した。
政策金利が1.25%に引き上げられれば31年ぶりの高い水準となり、住宅ローンや預金金利に影響が及ぶ。日銀は6月にすでに1%への利上げを決めていて、住宅ローンでは、変動型金利に徐々に反映されつつあるが、今回利上げされれば、もう一段上がっていくことになる。
住宅ローン比較サービス「モゲチェック」は、1%を切る変動型金利が、10月以降は見られなくなる可能性を指摘している。すでに借りている人の場合、9月に利上げされれば、基準金利は2027年4月に引き上げられ、2027年7月以降の返済分から反映というのが一般的なケースとなる見込みだ。ただし、「5年ルール」が適用される場合は、適用金利が上昇しても毎月の返済額は当面変わらず、返済額に占める利息分が多くなる。
1.25%への利上げが行われた場合、家計への影響はどうなるだろうか。みずほ総合研究所の試算では、2人以上世帯全体の平均では、預金利子が押し上げられる結果、利子収入の増加分と、ローンの利払い負担増の差し引きで、年間では約6000円のプラスとなる。一方、住宅ローンなどを抱えた世帯に限れば、平均で約1万9000円のマイナスだ。29歳以下では約5万円、30歳代では約4万1000円のマイナスで、若年層ほど負担が大きくなる傾向が見られる。
市場の関心は次の利上げペースへ
市場関係者の関心は、政策金利が1.25%に引き上げられたあと、その先の利上げペースがどうなるかに向かっている。翌日物金利スワップ市場が織り込む9月の先の利上げ確率は「12月まで」が8割を超え、その次の利上げについて「2027年3月まで」を見込む声もあがる。
行き過ぎた円安の自国金利への波及を警戒するアメリカ政府は、7月末に日本との円買い協調介入に踏み切ったが、ベッセント財務長官は、8月30日に日銀の植田総裁と会談した際、自身のSNSで「日本の金融政策の正常化」について議論したと明らかにした。
アメリカが日銀に早期利上げを求めたと受け取られるなか、植田総裁は1日、「毎回の決定会合でしっかりと議論していきたい」と発言、髙田審議委員も2日の講演で「一定の利上げの間隔や幅にとらわれず、機動的に対応する必要がある」と述べ、市場では日銀の利上げペースの加速が強く意識された。
ベッセント氏のさらなる円安けん制発言もあって、円買いへの巻き戻しが急速に進んだ円相場は、直近1週間足らずの間に約8円上昇する展開となった。
焦点の植田総裁会見
焦点は、日銀会合後の18日の植田総裁の会見だ。
追加利上げをめぐる発信内容次第で、円相場は上昇余地を探る展開になる可能性がある一方、機動的に動かないと受け止められれば、円安への動きが再燃する場面も想定される。
植田総裁の発言をめぐっては、過去に、利上げを決めても、円安に動いたケースがある。
2024年3月には、マイナス金利解除を決めた会合後の会見で、緩和的な金利水準を維持することを強調したことで、円相場が円安に振れたほか、2025年12月には、0.75%への利上げを決めたにもかかわらず、発言が次の利上げを急がない「ハト派」だと受け止められ、円安が進む展開となった。
円高が進行した事例もある。2023年12月には、国会で「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」と発言したことが「タカ派」だと受け止められ、円が急伸し、日経平均株価は大幅下落した。2024年7月には、0.25%への利上げを決めた会合後の会見で、見通しに沿って物価が推移すれば「引き続き政策金利を引き上げていく」と述べ、その後アメリカ経済の減速懸念が強まったこともあって、円相場は急速に円高が進み、日経平均の下げ幅は過去最大を記録することになった。
植田総裁がこの先の利上げについて、どのようなメッセージを打ち出すのか。会見は、円買いの今後の持続性をはじめ、金融市場の行方を左右する大きな節目になる可能性がある。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

