4日のニューヨーク外国為替市場で円相場は3日ぶりに反落し、前日に比べ40銭ほど円安・ドル高の1ドル=156円20銭近辺で取引を終えた。この日発表されたアメリカの8月雇用統計が、労働市場の底堅さを示唆する内容となり、FRB(連邦準備制度理事会)の利上げ観測が再び高まったことで、発表直後は円安に振れたが、その後水準をやや戻した。
雇用環境が大きく改善
8月の雇用統計は、非農業部門の雇用者数が前月比16万2000人増と、市場予想の5万3000人増の3倍となり、今年2番目の大きさを記録した。製造業は1万6000人増え、およそ3年ぶりの高水準となった。速報段階で2万3000人減だった7月分も、2万1000人増となり、プラスに修正された。失業率は4.1%と、前月から横ばいで、市場予想と一致した。
4日のアメリカ債券市場では、長期金利の指標となる10年物国債利回りが一時4.81%となり、2日につけた2023年11月以来の高水準に並んだ。アメリカの早期利上げ観測は、FRBのウォーシュ議長が、8月28日の講演で利上げに前向きな姿勢を示したとの受け止めから強まったあと、ウォラー理事が3日に政策金利の据え置き支持を示唆したことで、いったん後退していた。だが、雇用統計の内容を受け利上げを織り込む動きが再び進んで、長期債利回りが上昇に転じ、金融政策の影響を受けやすい2年債の利回りも、前日比0.02%高い4.36%で終えた。
トランプ氏「金利を下げろ」
金利先物の値動きからアメリカの金融政策を予測するCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)の「Fedウォッチ」では、9月15〜16日に開かれる次回FOMC(連邦公開市場委員会)での利上げ予想確率が、前日の5割弱から6割弱へと上昇した。FOMCで投票権を持つクリーブランド連銀のハマック総裁は、4日、リンクトインへの投稿で、「インフレ率は高すぎる」として「目標を上回る状態が長引けば、抑制は困難になる」との見方を示し、利上げの必要性を改めて主張した。
雇用統計の内容にすぐ反応したのが、利下げを求めてきたトランプ大統領だ。自身のSNSに投稿し、「素晴らしい数字だ」と称賛しつつ、「金利を引き下げろ」と要求、「高い金利はアメリカを極めて不公平な不利な立場に追いやる」「私はそれを許さない」と訴えた。また、FRBについて「素晴らしい新リーダーの下でもっと賢くならなければならない」と注文をつけた上で、「たまには愛国者になれ」と強調した。9月会合に向け、ウォーシュ議長が、トランプ大統領と市場の利上げ圧力との間で板挟みになる可能性が出てきた。
日銀の“後手”懸念和らぐか
日本国内の長期金利は、指標となる新発10年物国債利回りが、1日、3%台まで上昇し、30年ぶりの高水準をつけたが、4日には一時2.8%台まで低下し、2営業日連続で下がった。先週後半以降、国内債は幅広い年限で買われる動きを見せ、利回りが低下している。
背景にあるのは、日銀の利上げペース加速がインフレ圧力を和らげるとの観測だ。8月30日、日銀の植田総裁と会談したアメリカのベッセント財務長官が、自身のSNSで「日本の金融政策の正常化」について議論したと明らかにし、植田総裁がアメリカでの1日の会見で、利上げ判断について「次回を含め、毎回の決定会合でしっかり議論したい」と述べるなか、市場では、日銀が9月17日~18日の金融政策決定会合で利上げに踏み切る可能性が高いとの見方が強まっていた。
さらに、2日の日銀の高田審議委員の発言を受けて、9月以降の利上げペースが速まるシナリオが明確に意識されるようになった。高田氏は、追加利上げについて「従来の半年に1度、年2回の状況ではなく新たな状況に対応した機動的な対応が必要になる」としたうえで、「一般論としては連続になることもあるかもしれない」と言及し、連続利上げや利上げ幅拡大の可能性が意識された。
日銀がこの先の利上げペースについての判断をより柔軟に行い、利上げにより円安が修正されていけば、輸入物価の上振れを通じたインフレリスクは緩和されることになる。市場でこれまで広がっていた日銀の政策が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」をめぐる警戒感が薄らぐ方向に向かうとの見方が出てきた。
巨額の資金を動かすGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が資産配分を見直し、円資産を増やす検討を始めたのではとの観測も、利回り低下圧力となった可能性がある。GPIFは、8月21日に経営委員会を開いていたことを公表した。
アメリカ利上げ占う“8月物価”
円相場は、1ドル=164円に迫る水準まで円安が進んだ7月末以降、アメリカとも協調して15兆円以上を投じた円買い介入が実施されるなか、一時155円台前半をつけたが、効果は長続きせず、8月末には160円台まで戻っていた。

今回は、9月2日以降、2日間で5円程度も円高に動く展開となった。介入の準備段階として金融機関に取引水準を尋ねるレートチェックが行われたのではとの声も一部で上がったが、日銀の利上げ加速観測の高まりにより、日米金利差の縮小が意識されたのが大きなエンジンとなった。介入は時間稼ぎに過ぎないとも指摘されるなか、円高是正に向けた利上げの重要性が改めて示された形だ。
今週はアメリカで、10日に8月の卸売物価指数、11日には消費者物価指数が発表される。9月のアメリカ利上げを占う最後の重要指標として、市場の関心は高い。関係者の間では、日米協調介入後も突破できなかった「155円」をめぐる攻防が円相場の当面の焦点になるとの声が聞かれる。アメリカ指標の結果に身構えつつ、日米の金利差がどう動くかを踏まえて、神経質な相場展開が続きそうだ。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

