28日のニューヨーク外国為替市場の円相場は、円を売ってドルを買う動きが急速に進んだ。 一時1ドル=160円台と、7月末に日米が協調介入に踏み切って以降となる円安水準をつけた。
「金融引き締め」前向き志向
経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」での講演で、アメリカのFRB=連邦準備理事会のウォーシュ議長は、金融引き締めへの「タカ派」色を鮮明にした。
あらわにしたのはインフレへの警戒心だ。ウォーシュ氏は、FRBが重視する個人消費支出(PCE)物価指数の上昇率が、7月は3.7%だったと指摘した。ピーク時の2022年の6.5%からは鈍化しているものの、6月からは横ばいで、「基調的なトレンドが有意に改善したとは思えない」と評した。インフレ率は、改善ペースが緩やかで、目標の2%を上回り続けており、物価の安定こそ「FRBの最も重視すべき課題だ」と強調した。そのうえで、「基調的なインフレ率が、十分な速度で明確に目標へ向かっているという確信を持てないなら、まだやるべき仕事がある」と語り、物価上昇率が高止まりを続ける場合、利上げも辞さないとの姿勢をにじませた。
ウォーシュ議長は、7月のFOMC=連邦公開市場委員会後の会見では、利上げについて、「インフレの高止まりが続けば解決策の一部になる」と認めつつも、「唯一の手段とは言い切れない」との認識を示していた。市場では、利上げの方向性をめぐって曖昧さを残したことが、先行きの不透明感から長期金利上昇の一因になっているとの見方も広がっていた。今回の発言で、ウォーシュ氏は「金融引き締め」志向を印象付け、7月の説明不足の修正に動いたとの観測が出ている。
9月米利上げ予測 6割超
28日の金融市場では、ウォーシュ発言をきっかけに、FRBの早期利上げ観測が急速に広がった。アメリカ債券市場では、政策金利の見直しに敏感に反応する2年債を中心に売りが膨らみ、2年債利回りは、一時4.3%台と7月下旬以来の高い水準をつけたほか、長期金利の指標となる10年債利回りは前日比0.05%高い4.72%で取引を終えた。
金利先物の値動きからアメリカの金融政策を予測するCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)の「Fedウオッチ」では、9月に開かれる次回のFOMCでの利上げ予想が一時6割を超えた。7月の就業者数が市場予想に反し減少に転じたことが明らかになって以降、据え置き予想が過半を占めていたが、ウォーシュ発言により利上げ予想が据え置き予想を再び逆転した。
外国為替市場では、主要通貨に対しドル買いが入り、ニューヨーク市場の円相場は一時1ドル=160円台前半まで円安・ドル高が進んだ。市場では、日銀が9月に利上げに踏み切るとの見方が広がっているものの、FRBの利上げ観測が強まったことで日米の金利差拡大が意識され、円売りが優勢になった。
円買い介入 最大の15兆円
日本の財務省は、7月30日から8月26日の為替介入実績を発表し、総額15兆3993億円の円買いドル売り介入を行ったと明らかにした。アメリカとの協調介入も実施し、164円に迫った約40年ぶりの安値水準からの是正を図り、8月初めには一時155円台まで円高に戻したものの、介入効果は薄れつつある。
こうしたなか、ベッセント財務長官は28日、日本との協調介入の意義について説明する27日付けの書簡をXに投稿した。書簡は民主党のウォーレン上院議員宛てのもので、日本の混乱を防ぐことがアメリカの利益にどうつながるのかとのウォーレン氏の質問に対し、日本は米国債の主要な保有国だと指摘したうえで、円相場が無秩序な状態に陥れば、強制的なポジション解消の連鎖を招きかねず、世界の市場を不安定化させ、最終的にアメリカ金利の上昇を通じて、家計や企業の資金調達コストを押し上げる恐れがあると説明した。また、介入は、アメリカ財務省の緊急予備基金の為替安定化基金(ESF)で保有する外貨資産を、円と交換する形で実施したと明らかにした。
金利の安定に腐心するベッセント長官が19日に発表したのが、国債を市場から買い入れて償却する「バイバック」の拡大だった。残存期間が10年から30年までの国債の買い戻しについて、9月9日以降増額し、1回当たりの実施上限を従来の20億ドルから40億ドル以上に増やすというもので、発行から時間が経過し取引量が少なくなっている古い銘柄を買い戻すことで、米国債市場の流動性を高め、金利を下押しするねらいがあった。発表直後、アメリカの超長期債や長期債の利回りは急低下したが、その後再び上昇、日米協調介入に続く、バイバック増額というアナウンスを通じた金利抑制効果は長くは続かなかった。
円安基調一段と強まるか
週明けの金融市場は、円安進行、国内金利上昇の基調が続くとの見方が出ている。28日に160円台をつけた円相場は、ウォーシュ発言を受けたドル買い圧力が続き、円売りポジションが積み上がる可能性があり、市場関係者からは162円台を伺う展開になるとの声も聞かれるが、円買い介入への警戒感はくすぶっている。アメリカ金利の上昇が波及して日本でも金利低下の手掛かりは乏しくなり、長期金利は3%が視野に入るとの観測もある。2027年度予算の概算要求が8月末に締め切りを迎える中、総額は過去最大に膨らむ見通しで、財政への警戒感も高まりやすい。
今週は、31日~9月1日にG20財務大臣・中央銀行総裁会議が開かれ、9月4日にはアメリカの8月の雇用統計も発表される予定だ。国内外の当局者の発信や公表指標の内容に、市場が神経をとがらせる場面が続くことになりそうだ。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

