詐欺の「売り上げ」ノルマに届かなければ、地下の密室に放り込まれ、拷問を受ける。
さらに、暴行や拷問で瀕死になった人から臓器を摘出し、売却していた疑いまで浮上している。
タイ軍は2026年9月、カンボジア国境付近に存在した巨大な国際詐欺拠点を、ASEAN=東南アジア諸国連合の監視団や報道陣に公開した。
今回のタイ側の公開によって、詐欺拠点の内部で人々が暴力によって支配されていたとみられる実態の一端が浮かび上がった。
地下に監禁室 排泄は容器へ…指を切断した痕跡も
公開されたのは、タイとカンボジアの国境地帯にある巨大詐欺拠点。
敷地面積は80ヘクタール(東京ドーム約17個分)を超え、157棟もの建物が立ち並ぶ。このうち29棟がオンライン詐欺に使われていたとされる。
この拠点では、日本語で書かれた詐欺の台本も見つかっている。
恋愛感情を利用して投資に誘導する手口や、過去に詐欺被害に遭った人物を再び狙うためのマニュアルなどがあり、日本も標的の一つだったことがうかがえる。
敷地内の一角にある4階建ての建物の地下には、12の小さな部屋が並んでいた。
現地メディアによると、詐欺のノルマを達成できなかった者や、組織から「用済み」と判断された者を閉じ込め、見せしめの拷問を行うために使われていたとみられている。
部屋には窓や換気口がなく、すべての部屋に監視カメラが設置され、中の人物が24時間監視できるようになっていた。
トイレはなく、排尿用のプラスチック容器が置かれていたという。
現地メディアは、施設内で電気椅子や電気警棒など、拷問に使われたとされる器具が見つかったと報じている。また、「指を切断された痕跡」も確認されたと伝えている。
病院の奥に残された「手術室」 臓器売買の疑い
今回特に注目されたのが、敷地内にある「病院」だ。薬局や診察室などを備えた施設で、内部には手術室も残されていた。
この病院は、詐欺組織の上層部にいる中国人らの治療に使われていたとみられている。
しかし、治療以外の目的にも使われていた可能性が指摘されている。
現地メディアがタイ警察の情報として伝えたところによると、詐欺のノルマを達成できず、暴行や拷問を受けて瀕死の状態になった人物から、腎臓や心臓などの臓器を摘出し、売却していた可能性があるという。
ただし、実際にこの場所で臓器摘出や売買が行われていたことを裏付ける証拠は、現時点では公表されていない。
カジノにマッサージ店…幹部だけが入れる「別世界」
地下に監禁室があった一方で、地上施設にはまったく異なる空間が広がっていた。
敷地内には、カジノ、ホテル、カラオケ、マッサージ店、飲食店などを備えた「エンターテインメント複合施設」が設けられていた。
性サービスに使われたとされる施設では、ベッドの四方をロープで囲い、まるでボクシングリングのようにした部屋のほか、鳥かごのような格子で囲われた設備も確認されたという。
利用できたのは、中国人の実業家や組織の幹部クラスに限られ、一般の詐欺要員には立ち入りが許されていなかったという。
巨大詐欺拠点の内部には、明確な「支配する側」と「支配される側」の構造が存在していたことがうかがえる。
中国語のスローガンと「日本人向け」の詐欺台本
中国の公安機関を模したとみられる部屋もあった。壁には中国語で、「自白すれば寛大に、抵抗すれば厳しく」とする標語が掲げられていた。
別の部屋には、机や椅子が雑然と残され、壁には「職場は暇な人間を養わない」「チームは怠け者を養わない」「仕事への姿勢を変えてこそ、自分の価値を高められる」と中国語で書かれている。
また、施設内では、日本語のほか、中国語、ベトナム語、英語など複数言語の詐欺台本が確認されている。
「詐欺拠点」と「軍事基地」の二つの顔
監禁や拷問が行われていたとされる詐欺拠点の実態に加え、タイ側は、この一帯が「軍事基地」としても使われていたと主張している。
タイ軍によると、敷地内にはカンボジア軍の拠点が6カ所あり、武器や爆発物も保管されていたという。タイ側は、こうした施設が狙撃兵の配置やドローン攻撃にも使われていたと説明している。
タイ軍は2025年12月の国境衝突後、この一帯を管理下に置いている。
タイ側は、この地域がカンボジア軍による攻撃拠点として使われていたため制圧したと説明し、国際詐欺を口実に領土を占拠したとの見方を否定している。
一方、カンボジア側はタイ側の説明に反発している。
カンボジアの情報相は、オンライン詐欺対策の必要性は認めつつも、犯罪の疑いを理由に他国軍が領土に入り支配することは認められないと主張。今回、タイ側が公開したことについても、現場の全体像ではなく、選ばれた情報だけが示された可能性があるとしている。

