「豚肉団子」「チャーシュー」「スパイシー豚肉サラダ」。これらは料理店の人気メニューではない。タイの動物園で生まれた「コビトカバ」の赤ちゃんの名前だ。

発端は、2024年に世界的ブームとなった「豚肉団子」を意味する「ムーデン」。その人気は、「食べ物の名前を動物に付ける」というタイらしいネーミング文化まで世界に知らしめた。
そして今度はドイツ・ベルリンで、なんと「ロールパン」と名付けられたコビトカバまで誕生。いま世界で“おいしそうな名前”を持つコビトカバが次々と爆誕し、ネット上を大いに沸かせている。

始まりは「豚肉団子」の虚無顔

きっかけは、2024年にタイの動物園で生まれたコビトカバの「ムーデン」だった。

SNSでミーム化したムーデンの表情 (khao kheow open zoo 2024年)
SNSでミーム化したムーデンの表情 (khao kheow open zoo 2024年)
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タイ語で「豚肉団子」を意味する彼女は、ぷにぷにのボディーと、時折見せる絶妙な“虚無顔”で世界中のSNSを席巻した。

当時、動物園の公式SNSはフォロワー120万人を超え、週末の来園者は約3000人から7000人へと倍増。混雑時には見学時間が1人5分に制限される日もあるほどのフィーバーとなった。人気は社会現象へと発展し、イタリア人カップルがムーデンの前でプロポーズを行ったほか、熱狂した来園者が飼育エリアに侵入してしまう騒動まで発生した。

姪っ子は「チャーシュー」で圧勝

このおいしそうな血統は、一代限りでは終わらなかった。2026年3月、ムーデンの姪っ子として生まれた赤ちゃんは、一般投票の結果「ムーデーン」、タイ語で「チャーシュー」と命名された。

左がコビトカバのムーデーン。右がタイ料理のムーデーン(チャーシュー)
左がコビトカバのムーデーン。右がタイ料理のムーデーン(チャーシュー)

驚くべきはその圧倒的な人気で、約37万票のうち、なんと35万票以上が「チャーシュー」に集中。候補には「甘い豚」「やわらか豚」「豚肉ソーセージ」など、もはやコビトカバの命名会議なのか、タイ屋台のメニュー開発なのか分からないディープな豚肉料理名が並んだ。

第3の刺客は「豚肉サラダ」

そして2026年6月、タイの「豚肉料理シリーズ」は、さらなる進化を遂げる。ムーデンの親族にあたる新たな赤ちゃんが誕生し、投票によって「ムーナムトック」に決定したのだ。

「豚肉サラダ」の名を授かった新たな人気者「ムーナムトック」(khonkaen zoo)
「豚肉サラダ」の名を授かった新たな人気者「ムーナムトック」(khonkaen zoo)

「ムーナムトック」は、タイ東北部の名物料理「スパイシー豚肉サラダ」。ライムの酸味と唐辛子の辛さが効いた、食欲をそそる一品だ。

こちらが「ムーナムトック」。コビトカバより先に親しまれていた“本家”のタイ料理。
こちらが「ムーナムトック」。コビトカバより先に親しまれていた“本家”のタイ料理。

他の候補にも「豚の串焼き」や「ぷるぷる豚」など、やはりおいしそうな名前がズラリ。ここまで来ると、タイの人々はコビトカバを見るたびに、お腹が空いてしまうのではないかと心配になるほどだ。

ブームはついにヨーロッパへ

この「動物においしそうな名前をつけるトレンド」は、ついに国境を越えた。

ドイツ・ベルリン動物園で2026年5月に生まれたコビトカバには、「ブレートヒェン」、ドイツ語で「ロールパン」を意味する名前が付けられた。

「ブレートヒェン」(ロールパン)と命名されたベルリン動物園のコビトカバ(Zoo Berlin)
「ブレートヒェン」(ロールパン)と命名されたベルリン動物園のコビトカバ(Zoo Berlin)

同園は公式に「動物に食べ物の名前を付けることは、いまネットで人気のトレンドだ」と発表。その代表例として、スコットランド伝統の「羊の内臓料理」にちなんで名付けられたエディンバラ動物園のコビトカバ「ハギス」、そしてタイの「ムーデン」を挙げたのだ。

あの「豚肉団子」のインパクトは、いまや世界のコビトカバ界のトレンドセッターとなっているようだ。

世界中の人の心をつかむコビトカバたち

実はコビトカバは、IUCN=国際自然保護連合が絶滅危惧種に指定する希少な動物だ。野生に残る成熟個体は2500頭にも満たないとされ、森林伐採や鉱山開発、農地化による生息地の消失が大きな脅威となっている。

「豚肉団子」ことムーデン(手前)もすっかり成長。母ジョナーと並んで食事中(2026年4月撮影)
「豚肉団子」ことムーデン(手前)もすっかり成長。母ジョナーと並んで食事中(2026年4月撮影)

ベルリン動物園では、人気コビトカバにちなんだチャリティーオークションを通じ、野生のコビトカバを守る活動への寄付も行われた。かわいさをきっかけに生まれた関心が、絶滅危惧種を守る力へと変わっていく。そう考えれば、一見、ユニークすぎるこの「おいしそうな名前」のブームにも、思わぬ意味があるのかもしれない。

次はどこの国で、どんな“ご当地グルメ”のようなコビトカバが誕生するのだろうか。
(FNNバンコク支局 関隆磨)

関 隆磨
関 隆磨

FNNバンコク支局特派員。1989年秋田県生まれ。2012年に仙台放送入社。県警・行政クラブ、報道デスク等を担当し、2026年4月~現職。