人型ロボットが、人間の世界記録を上回るスピードでトラックを駆け抜ける。垂直跳びでは、3メートル近く跳び上がる。
8月22日から26日まで中国・北京で開かれた「世界人型ロボット運動会」には、世界16の国から2000台を超えるロボットが参加。
陸上やサッカーなど51種目で、急速に進化する人型ロボットの能力が披露された。
その舞台に日本から挑んだのが、GMOインターネットグループだ。
中国・Unitree社製の人型ロボット「G1」をベースに開発した「ひとみん」で、100メートル走、400メートル走、1500メートル走に出場した。
100メートル走では24秒3を記録し、74体中13位。400メートル走では予選を通過したが、準決勝でコースを外れ転倒し、途中棄権となった。
一方、1500メートル走では7位に入賞した。
GMOが出場したレースでは、いずれも中国メーカーのロボットが驚異的なタイムで優勝した。
「完成度100%じゃなくても」中国で感じた開発への姿勢
競技を終えたGMOのエンジニアに、大会への参加を通じて感じた中国のロボット開発の特徴について話を聞いた。
GMOインターネットグループ研究開発グループ シニアリサーチエンジニア
滝澤照太さん:
ロボットの性能自体は、世界各国のメーカーがいいものを出しています。中国もとても高いレベルに来ていますが、突出して先に進んでいるかというと、そうではない。
大会では、中国のロボットが人間の世界記録を上回るタイムを相次いで叩きだした。
前年の大会では21秒50だった100メートルの優勝タイムは、今年は8秒64に。わずか1年で、走行性能は大きく進化した。
ただ、滝澤さんは、こうしたロボットの多くは速く走ることを追求したレース専用のロボットで、その発展を「モータースポーツのようだ」と表現する。
一方、ヒューマノイドロボット全体に目を向ければ、中国だけでなく世界各国のメーカーが高性能な製品を開発しているという。
その中で滝澤さんが中国の特徴として挙げるのは、技術力もさることながら、開発の進め方だった。
GMOインターネットグループ シニアリサーチエンジニア
滝澤さん:
ある程度の段階でどんどん前面に出していく。完成度が100%じゃなくても、とりあえず売って動かす。そのマインドが他の国と違うと改めて感じました。
実際、大会ではスピードを制御しきれず転倒して炎上したり、ゴール後に減速せず壁に衝突して大破したりと、様々なトラブルも見られた。
GMOインターネットグループ シニアリサーチエンジニア
滝澤さん:
中国以外の国だと、そういうことが起こらないようにちゃんと考慮して製品を作ってから販売することが多い。中国には、ある程度リスクを取って、危険を冒してでも新しいものを動かせる環境がある。
ただ、滝澤さんは、こうした姿勢を単純に肯定しているわけではない。大会では安全性について「緩い部分もあった」と感じたといい、「それが良いか悪いかは様々な議論がある」とも話す。
競技のためだけではない GMOが大会に挑んだ理由
この「失敗を許容する」という姿勢は、今回のGMOの挑戦にも通じるものがあった。
高速で走らせれば、ロボットが転倒し、壊れることもある。
それでもGMO社内では、そうしたリスクを受け入れた上で、エンジニアが開発に取り組める環境が用意された。
実際、レースに臨んだ「ひとみん」の機体には、これまでの開発過程でついたとみられる無数の傷が残っていた。
一方で、GMOは競技に特化したロボットを開発するため、大会に臨んだのではない。
「ひとみん」のベースとなった「G1」は、中国のロボットメーカー「Unitree」が開発した、人間のように二足で歩き、物をつかむなど様々な動作ができる「汎用型」の人型ロボットだ。
GMOのロボットはこの「G1」の頭部を交換し、レーンを認識して走るためのセンサーやコンピューティングユニットなどを搭載。さらに、GMOの陸上選手の走りをモーションキャプチャーで取り込み、その動きのエッセンスをAIに学習させた。
現在の人型ロボットは、人間と比べて動作が遅いことが課題の一つだ。
しかし、単純にスピードを上げれば、転倒しないよう姿勢を保つことや、激しい動きによるモーターの過熱を防ぐことなど新たな課題が生まれる。
GMOはあえてレースという極端な環境でロボットを高速で動かし、こうした課題の解決に取り組んだ。
その先にGMOが目指しているのは、ロボットが製造業やサービス業、家庭などへ活躍の場を広げ、人とともに働く社会だ。
レースで得た技術やノウハウを、こうした未来の社会実装につなげるのが狙いなのだ。
GMOインターネットグループ シニアリサーチエンジニア
滝澤さん:
最速を目指すがゆえに、人から離れた動きをしてしまうようなものを作りたいわけではない。目的は、競技に特化して開発して優勝することではなく、競技で得たノウハウを社会実装につなげることです。
中国での挑戦から見えたもの
中国の大会で滝澤さんが目の当たりにした、完成度が100%でなくても、まず動かしてみるという姿勢。
今回、GMO自身も転倒や故障のリスクを受け入れながら、何度も何度も実際にロボットを走らせ、転倒を繰り返しながら、開発を進めた。
陸上選手の動きを取り入れながら機体を高速で動かし、その動きを制御する。今回の大会への挑戦があったからこそ、得られた成果の一つだ。
GMOインターネットグループ シニアリサーチエンジニア
滝澤さん:
そのマインドの部分がまずあれば、これまでとちょっと違うことはできると思います。
安全性を大切にしながらも、少し不完全でも一歩踏み出してみる。
中国での挑戦を終えた滝澤さんの言葉は、日本のロボット開発を前に進める一つのヒントにもなりそうだ。

