真夏に発生した熊本地震をきっかけに、避難所となる体育館の暑さ対策が改めてクローズアップされている。福井県内はというと、空調の整備率はわずか7.7%と全国平均を大きく下回る。さらに専門家は、災害関連死を防ぐためにも、高齢者や障害者、妊産婦など支援が必要な人を受け入れる「福祉避難所」の重要性を強く訴えている。現状を取材した。
冷房なしの体育館は“蒸し風呂”
福井市にある松本小学校は、地区で最初に開く指定避難所となっている。
8月中旬、防災士の飛田幸平さんが、その環境を確認しに訪れた。
「うわー暑いですねー…」
この日の福井市の気温は、午前11時の時点で30度。冷房が効いていない体育館の中は、それをはるかに上回る体感温度だった。
「天井からの輻射(ふくしゃ)熱や、壁からの熱も入るし、風通しが悪くて熱がこもるのが一番の問題」と飛田さんが指摘するように、まさに冷房のない体育館は“蒸し風呂”状態だ。
ところが、冷房を稼働させると、わずか10分程度で温度計は25度を示した。飛田さんは「全然違いますね。これだったら皆さんが避難しても、とても過ごしやすい環境になっていると思います」と話した。
冷房の有無で避難所の快適性は大きく変わる。
福井県内での整備率は全国平均の半分以下
文部科学省の調査によると、熊本県の公立小中学校で避難所に指定されている体育館の空調整備率は、2026年5月1日時点で20.9%。これでも全国平均の33.1%を下回っているが、福井県はさらに低く、わずか7.7%にとどまっている。
こうした現状を踏まえ、福井市は2024年の能登半島地震を機に動き出した。避難所となっている市内47校の体育館すべての空調整備に着手し、2026年度中に20校への整備を完了し、3年後までに47校すべてで整備を終える計画だ。
県内のほかの多くの市町でも、ここ数年で整備への着手が進んでおり、整備率は飛躍的に上がると見られる。
ただし、空調さえあれば安心というわけではない。
飛田さんは「ここに200人、300人が避難すると、それぞれ体から発熱し温度がより上がる」と指摘する。水分補給の呼びかけや送風機による空気循環など、複数の対策を組み合わせることが不可欠だとする。
直接死の4倍以上…災害関連死の脅威
避難所の環境整備と並んで、専門家が強く訴えるのが「災害関連死」への備えだ。
福井大学医学部名誉教授の酒井明子氏は、避難生活の長期化がいかに健康リスクを高めるかを数字で示す。
10年前の熊本地震では、死者278人のうち地震による直接死は50人。一方、避難生活の長期化などに起因する災害関連死は228人と、直接死の4倍以上に達した。
2年前の能登半島地震でも、直接死228人に対し、災害関連死は527人と倍以上の数字となっている。
酒井氏はこう説明する。「余震への不安や精神的なストレス、睡眠不足で疲労がたまってくると、健康リスクが高くなる。疲れや睡眠不足は体力を非常に奪い、災害関連死のリスクが高まってくる」
「自分で動けない人をちゃんと守る」福祉避難所の重要性
こうした課題に対して酒井氏が提唱するのが、「福祉避難所」の活用だ。老人ホームなどの福祉施設を避難所として指定し、高齢者や障害者、妊産婦らを受け入れ、看護師や保健師などの専門職員がケアに当たる仕組みだ。
能登半島地震では、勝山市の施設が輪島市から高齢者を受け入れた実績がある。
現在、福井県内では老人ホームなどの福祉施設を中心に、2025年10月時点で326カ所の福祉避難所が確保されている。
酒井氏は「自分たちの命を自分で守るのは鉄則。だからこそ、優先度の高い、自分で動けなくて避難できない人をちゃんと守ることが重要だ」と語る。
大規模な地震が発生した際、避難所に身を寄せる人々の命を守るためには、体育館の空調整備にとどまらず、福祉避難所の活用や健康管理まで、重層的な対策を組み合わせていく必要がある。

避難所での生活は、被災者のその後の体にも大きく影響する。過去には、避難所での過酷な環境にさらされて健康が悪化したせいで、日常生活に戻った後に命を落とす事例もあったといいます。
災害での全体の被害を最小限に抑えるため、空調の整備など一次避難所の環境改善が早急に求められます。

