普段は街角で人々の笑顔を生むキッチンカー。しかし、いま注目されているのが、災害でライフラインが絶たれた被災地へ駆けつけ、温かい食事を届ける「移動する炊き出し」としての機能だ。能登半島地震での炊き出し経験から福井県内のキッチンカー事業者でつくる協会は「スムーズに動くには行政との情報共有が必要」として鯖江市と防災協定を締結。年内には県や福井市とも協定を結び、いざという時に迅速に動ける体制を整えている。
「唐揚げならマックス1000食以上」キッチンカーの底力
福井県キッチンカー協会の会長を務める佐々木周我さんのキッチンカー内部には、4層のフライヤーと鉄板が備わっている。「唐揚げだと、マックス1000食以上はできます」
調理はすべてガスで、発電機も搭載しているため、電気や水道といったライフラインが復旧していない被災地でも稼働できる。
さらに車内のスペースを活かし、食材だけでなく、依頼があれば物資も積み込んで届けることが可能だという。
キッチンカーの最大の強みは、場所を選ばず出来立ての食事を提供できること。自宅や避難所の台所が使えない状況下で、温かい食事を届けられる存在は、被災者にとって大きな支えとなる。
能登半島地震での教訓…受け入れ側は「それどころじゃない」
こうした強みを災害時に確実に発揮するため、県キッチンカー協会は2025年、鯖江市と災害時の支援に関する協定を締結した。
市が「〇〇町に200世帯があるから200食のうどんを持ってきてほしい」といった具体的な情報を提供し、協会はその指示に従って出動する仕組みになっている。
「市から優先車両として要請してもらえるので、一般車両が通れない道でもスムーズに災害地までたどり着ける」と佐々木さんは説明する。
どこに何食が必要か、どの道が通れるか―そうした情報を行政から得られることで、迅速に被災地に駆けつけることができるのだ。
協定には、炊き出しにかかる費用の一部補助も盛り込まれており、協会側の負担を軽減する配慮もされている。
行政との協定締結に積極的に取り組む背景には、石川県の能登半島地震での経験がある。佐々木さんは当時、キッチンカーで被災地に出向いて炊き出しをしようと石川県や金沢市に問い合わせたところ「ちょっと、いまはそれどころじゃない」という状況だったという。
「協定を結んでたら“ここに来てほしい”とか、スムーズに行けるルートを共有してもらえていたのでは」と振り返る。
大型のキッチンカーが壊れた道を通れず、逆に通行の妨げになってしまうケースを防ぐためにも、行政との密な情報共有が必要だと佐々木さんは考えた。能登での経験が、行政との協定締結へと動く原動力になったのだ。
食事がつなぐ人と人のコミュニティ
炊き出しの役割は、食事を届けることだけにとどまらない。佐々木さんが能登での活動で印象に残っているのは、仮設住宅の住民同士が食事の場で再会する光景だった。
「穴水の方に行った時に、仮設住宅の方同士が『あー!久しぶり』みたいに交流の場ができたのが、すごく良かった」と話す。
バラバラになった地域コミュニティが、温かい食事を囲むことで再びつながる。キッチンカーは単なる食事の提供だけではなく、被災者の心の拠り所としての役割も期待されているのだ。
鯖江市との協定を皮切りに、県キッチンカー協会は年内に福井県や福井市とも協定を締結する予定だ。協定の輪が広がることで、より広いエリアで、より迅速な災害支援が可能になる。

災害時のコミュニティーを豊かにするためにも、キッチンカーを災害支援に生かす取り組みが広がっている。

