人口減少や少子高齢化が地方の大きな課題となる中、不動産コンサルタントの牧野知弘氏は「東京一極集中は続かない」と指摘する。背景にあるのは、東京のマンション価格高騰による住居費負担の重さと、地方都市が持つ暮らしやすさや地域価値の再評価だ。マンション価格高騰の裏側、東京一極集中が続かないと見る理由、そして注目される地方都市の条件について牧野氏に話を聞いた。(シリーズの前編)
■「東京のマンション価格は実需で形成されていない」
東京23区の中古マンション価格が高騰を続けている。
不動産調査会社・東京カンテイのデータによると、2025年5月に販売された70平方メートル当たりの平均価格は前年同月比27.4%上昇し、1億2849万円に達した。
1億2000万円超えは5カ月連続で、過去最高を更新している。
不動産コンサルタントの牧野知弘氏は、この異常な価格形成の実態について説明する。
「東京都民の平均年収は600万円台。 中古マンション価格は年収の17倍になる。これは、飲まず食わずで、金利も考えないで、34年間、マンションに自分の稼いだお金を投じないとマンションを持てないということ。この無理な価格になってしまっているというのは、東京のマンションマーケットが実需で形成されていないという証拠」
本来は居住用資産であるマンションが“金融商品”と化し、国内外の投資家や不動産業者が売買を繰り返すことで価格が押し上げられているというのだ。
一方で牧野氏は、地方の不動産には全く異なる価値基準があると語る。
「地方の地価とは、土地の価格ではなく“地域価値”の地価だと思っている」
金銭では測れない食や自然、暮らしやすさといった要素こそが、これからの地方不動産の価値を決めるというのが牧野氏の持論だ。
■東京の中古マンション市場に「変調の兆し」
平均価格だけを見れば上昇が続く東京の中古マンション市場だが、牧野氏はすでに潮目が変わっていると指摘する。
注目すべきは、売出価格と成約価格の乖離だ。
「東京都内では最近、売り希望価格と実際の成約価格の開きが30%になってきた」と明かす。
これは、1億円で売りに出しても、実際に成約するのは7000万円前後となる計算だ。
この乖離の背景には、中古物件を仕入れてリノベーション後に転売する不動産業者の存在がある。
マンション価格が毎月上昇していた時期には成り立っていたビジネスモデルが、価格上昇の鈍化により行き詰まりつつあるというのだ。
また、金利上昇もマーケットに影響を与えているという。
日銀は政策金利を段階的に引き上げ、1%に到達した。
「投資家も金融機関から借り入れしている。金利が上がれば利回りのハードルも上がる」と牧野氏。
国内の投資家や転売業者が慎重になる一方、円安の恩恵を受ける外国人投資家は依然として活発だという。
不動産業の倒産件数も増加傾向にあり、「マーケット変調の兆し」だと牧野氏は見ている。
■東京一極集中は「続かない」と見る理由
地方にとって長年の課題である東京一極集中について、牧野氏は「続かない」と言い切る。その理由についても明確だ。
「東京にいる理由が徐々に薄れてきているから」
EC取引やネットサービスの発達により、日本中どこにいても都会的なサービスを享受できる時代になった。
一方で、東京の生活物価や住宅コストは高騰し、可処分所得は地方で暮らすほうが多くなるケースもあるという。
リモートワークの普及も後押しし、「なんで東京にいるんだろうと思う人がこれから増えてくる」と牧野氏は見る。
さらに、東京の人口増加の内実にも言及した。
「増加のほとんどは外国人の増加。地方から若者を奪っているという構図には、実はなっていない」
現在、日本の在留外国人は412万人に上り、横浜市の人口を上回る。牧野氏は、こうした外国人の増加が東京の人口動向にも影響していると見る。
■札幌・福岡だけじゃない、注目すべき地方都市
では、東京から地方への流れが生まれたとき、どの都市が選ばれるのか。牧野氏が“地方4市”として挙げるのは札幌、仙台、広島、福岡だ。
「別に東京に行かなくても、札幌や福岡に来ると仕事がある。生活コストは東京より安い。行く理由がない」と語る。
加えて牧野氏が個人的に注目するのが、宇都宮と静岡。
宇都宮は新幹線で東京にアクセスしやすく、餃子やジャズといったコンテンツで街のブランディングにも成功していて、子育て世代にも人気が高い。
一方、静岡は温暖な気候と豊かな食に加え、東京にも大阪にもアクセスできるバランスの良さが魅力だという。
九州では熊本にも注目している。水資源が豊富で、九州新幹線により福岡・博多まで約30分。
「大都市のいいとこ取りをした、アクセスの良い、自然が豊かで暮らしやすい町は探せばいっぱいある」と牧野氏は話す。
共通するのは、一定の人口規模と雇用があり、大都市へのアクセスが良く、教育環境も整っているという条件だ。
■新潟市の課題は「発信力」と「人の出入り」
自称“新潟推し”の牧野氏だが、新潟市の課題にも厳しく言及した。
「不動産の価値が上がるのは、人が出入りすること」
人の流入が経済を活性化させ、新たな挑戦や価値を生む。逆に人の出入りが止まれば、街は衰退に向かう。
新潟市は開港150年以上の歴史を持ち、北前船の時代から多様な文化を受け入れてきた土壌がある。
東京から新幹線で2時間という距離は京都と同等だ。にも関わらず、インバウンド客の取り込みでは京都に大きく後れを取っている。
「外国の方が京都にはお寺やそういう歴史的な遺産がたくさんあるから来ているからと思うじゃないですか。そういう方もいるが、ほとんどは京都でご飯を食べたい。日本の文化に触れたいんです。じゃあ、新潟に文化がないかというと、江戸から明治、大正、昭和の文化を受け継いでいる素敵な街だと思う。発展してきた新潟の街を現代でさらに発展するには、別に外国人という必要はなくて、東京にこれだけの人が住んでいて、新潟をあまりに知らないというのがもったいない」と牧野氏は指摘する。
牧野氏の新潟の友人は「エンターテインメントを見るには新幹線で東京に行けばいい。新潟に住んでいて困ったことがない」と話すという。
東京の“いいところ”だけをつまみ食いし、日常は地方で豊かに暮らす。そんなライフスタイルが現実的な選択肢になりつつある。
牧野氏は「地方対東京という見方はやや古い。これからは地方の中で輝く町とそうでない町に分かれる」と強調する。
地方都市にとって問われているのは、東京と比べてどうかではない。
選ばれる地方都市になるためには、自らの地域価値をどう高め、どう発信するかが重要と言えそうだ。
