カキの空輸減少 産地間競争に大きな痛手

10月から出荷が始まった広島の冬の味覚「カキ」。
養殖業者からは、早くも今シーズンの先行きを心配する声が多く聞かれる。

米田海産・米田礼一郎社長:
スーパーの方は、割とお客さんが多いということで堅調だということを聞いているんですけれども、問題は飲食店さんですよね。今のところ、カキを集荷する仲買業者からは、出荷を制限されたりということはないんですけれども…(新型コロナの影響から)本格的に回復してないということで、(カキの)需要が伸び悩むんじゃないかということを懸念していますね

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例年なら宮島に多くの観光客が訪れ、カキの売上も伸びる秋の行楽シーズン。
しかし2020年は、新型コロナウイルスの影響で観光需要も期待できない。
そこで期待が寄せられているのが、日本の人口の約3分の1が集中する首都圏での消費拡大。
東京・港区のスーパー。広島産のカキの傍らには、生産量第2位の宮城産が並ぶ。

クイーンズ伊勢丹白金高輪店 水産担当チーフ・辻佑太さん:
加熱用に関しましては広島。生食用は、宮城も扱っている

厳しい産地間競争が繰り広げられる中、2020年3月下旬から、広島産のカキに逆風が吹き始めた。
新型コロナウイルスの感染拡大で、飛行機による輸送が難しくなり、店頭に並ぶまでに1日多くかかるようになった。
鮮度が命のカキにとって致命的だ。

クイーンズ伊勢丹白金高輪店 水産担当チーフ・辻佑太さん:
(空輸できないと)賞味期限が1日短くなってしまうということで、取扱量が少なくなってしまうのかなと

佐川急便がJALと協議…カキの輸送力を増強

こうした状況に危機感を抱き、カキの出荷を担う業者が立ち上がった。
広島市中区にある、水産物の仲買を行う「カネウ」。広島市周辺のカキ養殖業者からカキを仕入れ、年間約1,000トンを全国に出荷している。

カネウ・村田泰隆社長:
これは(送り先が)静岡県。お昼ごろ出て、今晩の午前0時からあすの早朝の午前1時ごろに静岡に着く

出荷するカキの半分は、最大の消費地、首都圏へ向かう。
そのうち半分は、鮮度が最重要視される生ガキ。産地間競争に勝つため、飛行機で輸送している。
しかし…

カネウ・村田泰隆社長:
(新型)コロナが県内で発生したのが、ことしの3月ごろでして。そのころ、まだ前のシーズンのカキもやっていましたし、徐々にその影響を受けて、4月以降は、(空輸する)飛行機便が1割程度になりましたから

カネウ・村田泰隆社長:
シーズンの終わりかけではあったんですが、物流に関してはもろに影響を受けたので。運送便に関しては、昨シーズン終わってからずーっと危惧してました

広島空港では、新型コロナウイルスの感染者が増え始めた2020年3月以降、利用者が大幅に減少。東京 - 羽田便は相次いで減便され、運航する機体も小型化された。
首都圏へのカキの空輸は難しくなり、シーズン終盤は、トラックに切り替えてしのいでいた。

カネウ・村田泰隆社長:
お客様に一番の迷惑をかけるのが、発注時間の規制ですよね。「できるだけ早く(発注を)いただかないとできませんよ」となると、お客さんの方も「それじゃあ、遅くまで待ってくれるところの産地に頼みますよ」ということになりますから

首都圏で激しい産地間競争を繰り広げる広島県産のカキにとって、飛行機で運べないことは大きな痛手。
広島空港からの出荷を担う運送大手の佐川急便。カキ業者からの要望を受け、飛行機を運航するJAL(日本航空)に相談し、協議を続けてきた。

佐川急便広島空港営業所・菊地直人課長:
陸送ですと、(首都圏まで)12時間から13~14時間ですね。われわれが抱えているカキの十数社のお客様全体に対しても、航空便から陸送便に替わることで(発注締め切り時間が早くなり)オーダーが取りづらい。売れないという部分を解消するために(日本航空に)お願いして、売れやすくしたい

日本航空広島支店・柴田康宏リーダー:
やっぱり旅客の需要も落ち込みましたので…カキの物量も予測の方は佐川さんからいただいて、運航するのに、大型化するのに見合うかどうか。正直厳しい状況ではあるものの、ご協力させていただきたいと思っています

カキの輸送力増強を、前向きに検討してもらえることになった。

産地直送「空飛ぶカキ… 首都圏で鮮度アピール

そして11月1日 東京・羽田行きの旅客機にコンテナが次々と積み込まれていた。中に入っているのは、もちろん「カキ」。
日本航空は11月から、午後1時台の羽田便を中型機へ替え、約3.5倍のカキを運べるようにした。

空港の利用者は羽田便でさえ前年の2割弱という厳しい現状が続く中、広島への感謝と恩返しの決断だった。

日本航空広島支店・門屋秀臣支店長:
とれたばかりの新鮮なカキを翌日のセリに間に合わせるためには、このお昼の飛行機でなければ運べないという事情をお聞きしました。社内の中でもかなり検討を要しましたが、地元のために役に立ちたい。そういう願いで今回は大型化を決意いたしました

消費拡大を願う広島のカキ業者の期待を乗せて、飛行機は羽田空港へと飛び立った。
機体の大型化で、前の年と比べて80%アップの輸送を目指す。
翌日 東京のスーパーには、鮮度にこだわり、「空飛ぶカキ」と銘打った広島県産のカキが並んだ。

クイーンズ伊勢丹白金高輪店 水産担当チーフ・辻佑太さん:
空輸で(陸送より)1日早く店頭に着くということで、お客様に対しては、鮮度をよりアピールできるのかなと考えております。出来立てのカキをお客様に届けることができると、売り場でお客様に直接アピールできますので

カネウ・村田泰隆社長:
旅客が増えない中で、機体を大きくしてくれたということは、非常に感謝しております。新鮮なカキを全国の消費者の方に味わってもらえるというのは本当にありがたいことですし、佐川急便とJALには非常に感謝しています

減便による輸送力の減少を機体の大型化で補い、最大の消費地・首都圏へ、飛行機で新鮮なカキを送り込む「空飛ぶカキ」。
広島のカキ生産者たちの期待を乗せ、きょうも東京へと飛び立つ。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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