鹿児島県の奄美大島と徳之島が世界自然遺産に登録されてから、2026年7月でちょうど5年を迎えた。2025年1年間の奄美大島への来島者は約45万人と過去最多を記録し、観光需要は年々高まっている。一方で、自然観察のルールやマナーをめぐっては新たな課題も浮上。希少な生き物たちを守りながら、訪れる人々に魅力を伝える取り組みが続いている。
夜の山道で出会う「アマミノクロウサギ」
7月上旬、奄美市の山中でアマミノクロウサギに出会った。奄美大島と徳之島だけに生息する国の特別天然記念物だ。電線にはこちらも固有種で国内最大級のネズミ、ケナガネズミの姿もあった。天敵のマングースの駆除などが進んだことで、アマミノクロウサギの個体数は増加しているという。

こうした希少な生き物が数多く生息する奄美大島は、生物多様性が高く評価され、徳之島・沖縄島北部・西表島とともに2021年に世界自然遺産へ登録された。登録当時はコロナ禍で観光客が激減していたが、その間に環境省や地元自治体などが力を入れてきたのが、観光と自然保護の両立を目指したルール作りだ。
「三太郎線」に設けられた予約制 9割近くがルールを遵守
奄美市住用町の市道「三太郎線」は、夜行性の生き物を観察するナイトツアーで人気のスポットだ。それまでは自由に行き来できる場所だったが、生き物の安全を確保しつつ質の高い自然観察ができるよう、夜間の通行を30分ごとの予約制にするなどのルールが設けられた。

地元のネイチャーガイド・越間茂雄さんとともにその三太郎線を走ると、車はルールに従い時速10キロ以下でゆっくりと進む。越間さんは道路沿いの環境についてこう説明する。
「道路は日光もよく当たり、柔らかい下草がどんどん生えてきて、森の中と違い餌が豊富」

アマミノクロウサギは車が近づくと一時的に逃げてしまうが、しばらくするとまた道路上に戻ってきて餌を食べる。対向車とすれ違った後でも、落ち着いて観察できるのはこのルールがあってこそだ。
環境省によると、ルールが導入された2021年10月から2025年10月までの4年間で、三太郎線を利用した車両は約1万5000台。このうち9割近くがルール通りに予約した利用者だった。
急増する「無断キャンセル」が新たな課題に
ただ、2025年には予約をしたにもかかわらず利用しなかった「無断キャンセル」が873台と急増した。ルールの定着化が進む中、新たな問題が浮上している形だ。
環境省奄美群島国立公園管理事務所の広野行男所長は状況をこう語る。
「未予約の車や、予約はしたが無断でキャンセルする事例が年によって増える」「完全にルールが100パーセント浸透している状況ではない。今後もルールの周知は継続して毎年丁寧に行っていく必要がある」
昼間の観察スポットとなっている奄美市の金作原国有林周辺の道路にも、利用者への認定ガイドの同行や同時間帯の車両台数制限といったルールが設けられている。

広野所長は自然保護の観点からも、ルールの意義をこう強調する。
「一定のルールというか利用のコントロールがされないと非常に自然が痛み、見られていた動物がいなくなることにつながる。誰もが理解できる・納得できるルールを地域で共有し、緩やかに運用していく。少しずつ見直しを含め改善を行っていく」

ガイドの越間さんも、島の変化を実感しながら語る。
「肉食の外来種がどんどん減り、生物が住みやすい島になってきている。人間が守ってあげないといけない。こういったルールは大事」

宿泊施設が急増、島外資本も相次いで進出
こうした自然を守る努力が、来島者の増加にも結びついているようだ。県によると、2025年に観光や仕事などで奄美大島を訪れた人は約45万人と、記録が残る1996年以降で過去最多となった。
実際に島を訪れた人たちからは期待に満ちた声が聞かれる。東京から来た旅行者は「あとは海と山と。楽しみにしている」と話し、千葉からの旅行者は「ナイトツアーみたいなものに参加してみたい。奄美特有の生き物とかを見たい」と語った。大阪から家族で訪れた人は「(カヌーを)こぐのは疲れたけど楽しかった。大阪と違いすごくきれいで、子どもたちも楽しめてすごくよかった」と満足そうに話した。

来島者の増加に伴い、宿泊施設の数も増えている。2025年8月1日時点での宿泊施設は433軒で、そのうち50軒は1年以内に新規オープンしたものだ。2026年に入ってからも島外資本の企業が相次いで進出している。7月3日に「MareBlü Amami」をオープンした坂口泰一社長は、進出の背景をこう話す。
「世界遺産を機に観光客も増えるだろう。1年中奄美大島は観光の対象になる」

交通事故や野生化したネコ、残された課題
世界自然遺産の登録から5年が経った今、奄美大島の観光が活況を呈していることは喜ばしい。しかし課題は残されている。アマミノクロウサギの交通事故や、野生化したネコへの対策などは依然として解決途上にある。
観光需要の高まりとともに来島者が増えれば、それだけ生き物たちへの影響も大きくなる。ルールへの周知徹底、そして無断キャンセルのような新たな課題への対応も求められる。美しい自然を守りながら、訪れる人々にその魅力を伝える努力は、これからも続く。
【動画で見る▶奄美大島・徳之島の世界自然遺産登録から5年 観光と自然保護の両立、現状は 】

