円相場でドル買いの強さが一段と目立ってきた。18日のニューヨーク市場では、一時1ドル=161円80銭台に下落し、約1年11カ月ぶりの円安ドル高水準をつけた。

「タカ派」に傾いたウォーシュ新体制

アメリカ経済指標は、景気の底堅さを示す内容の公表が相次いでいる。5月の雇用統計は市場予想を上回る雇用増が3カ月連続となり、失業率も安定、17日発表された5月の小売売上高は前月比0.9%増と、4カ月連続の伸びを示した。労働市場や消費が堅調さを見せる一方、5月の消費者物価指数は、前年同月比の上昇率が約3年ぶりに4%台となり、企業間で取引されるモノの価格動向を示す卸売物価指数も前月比で最大の伸びを記録した。

インフレ懸念が強まるなか、FRB=アメリカ連邦準備理事会は、先週、ウォーシュ新議長のもと金融政策を決める会合を初めて開いた。政策金利は据え置いたが、市場では、金融引き締めに積極的な「タカ派」姿勢が明確になったとの受け止めが広がっている。 

FRB・ウォーシュ議長                
FRB・ウォーシュ議長                
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「物価の高止まりはアメリカ国民にとって負担になっている。物価の安定を実現する」会合後の会見でウォーシュ議長は、「物価安定」という言葉を何度も口にし、インフレ抑制への強い意思を示した。政策金利見通しでは、ウォーシュ氏は自らの見方を示さなかったが、予測を書き込んだ参加者18人のうち9人が年末までに1回以上の利上げを見込み、年内利上げの方向に大きく傾く内容となった。

アメリカ金利先物市場から政策金利を予想するFedWatchによると、次回7月会合でFRBが利上げに踏み切る確率は日本時間19日午前8時半時点で39.6%に上昇し、9月会合までの利上げ確率は68.7%にまで高まっている。

日米の金利差拡大を意識

アメリカとイランが戦闘終結に向けた覚書に署名したことで、中東情勢をめぐる警戒感がやわらぎ「有事のドル買い」は後退したが、アメリカの実体経済の底堅さと利上げ期待が「平時のドル買い」圧力を強める展開となっている。

内田副総裁
内田副総裁

日銀は16日、政策金利を1%程度に引き上げる利上げを決めた。入院中だった植田総裁に代わって会見した内田副総裁は「経済・物価情勢に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していく」として、「利上げを続けて基調的な物価上昇率を2%に着地させる」と述べたが、今後の追加利上げについて具体的なヒントは示さなかった。市場関係者からは、年に1回程度の緩やかなペースにとどまるとの見方も出ていて、日米金利差の拡大観測から円売りドル買いが優勢になっている。

物価で目立つ「肉類」の上昇

こうしたなか、広がっているのが、輸入品価格の上昇を通じた日本国内のさらなる物価高懸念だ。5月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合で前年同月比1.4%上昇した。伸び率は前月から横ばいだったものの、生鮮を除く食料の上げ幅が3.5%となるなど、食料品の値上がりが全体を押し上げる構図は変わっていない。

「とんかつ定食」の上昇率は3.8%
「とんかつ定食」の上昇率は3.8%

中でも目立ったのが肉類の上昇だ。鶏肉が4.6%上昇したほか、輸入牛肉が4.6%、輸入豚肉も2.6%の上げ幅となった。「とんかつ定食」の上昇率は3.8%だ。中東情勢の影響に加えて、円安によるコスト増が価格を上向かせる流れが続いている。

国産肉は、エサ代の高騰などを通じて円安の影響を受ける。JA全農は、家畜のエサとなる配合飼料について、7~9月の畜産農家向け出荷価格を1トンあたり約3700円引き上げると発表した。円安の強まりや原材料の国際価格高騰を踏まえたもので、値上げは3期連続だ。

6月の豚肉(ロース)の平均小売価格は、100グラムあたり283円
6月の豚肉(ロース)の平均小売価格は、100グラムあたり283円

特に、豚の場合、肉用1頭の生産にかかる費用の7割を飼料代が占め、影響は大きい。6月の豚肉(ロース)の平均小売価格は、100グラムあたり283円となり、高値水準が続いている。

値上がり基調にさらに拍車をかけそうなのが、猛暑での生育不良などによる出荷の落ち込みだ。農水省が、7~9月の出荷頭数について370万頭と、前年を2%ほど下回ると予想するなか、今夏の豚肉相場は、高値が顕著だった2025年の水準をさらに上回るとの見方も出ている。

6月の小売価格では、輸入牛肉(ロース)も100グラム435円、鶏肉(もも肉)も155円と、最高値を更新していて、肉類の価格上昇が家計を圧迫する懸念が強まっている。

再度の介入に高まる警戒感

市場では、政府・日銀が4〜5月の大型連休に続いて、再度の円買い為替介入に踏み切ることに警戒感が強まっている。意識されているのは、2024年7月につけた直近の安値161円96銭だ。このラインを超えると1986年12月以来、約39年半ぶりの円安水準となる。

片山財務大臣「投機的な動きがあれば断固とした措置をとる」
片山財務大臣「投機的な動きがあれば断固とした措置をとる」

片山財務大臣は19日の閣議後会見で、「投機的な動きがあれば断固とした措置をとる」と述べた。市場関係者の間からは、為替介入のほかに円の水準が自然体で切り上がる要素が見当たらないとして、「介入をめぐる条件は整っている」との声も上がるが、実需によるドル買い圧力が根底にあるなか、介入を実施しても円の押し上げ効果は一時的に過ぎないとの見方も根強い。

イランがホルムズ海峡の再封鎖を宣言し、アメリカとイランの最終合意に向けた協議進展が注視されるなか、今週は25日に、5月のアメリカ個人消費支出という重要な指標の公表が控えている。物価上昇基調の強まりが示されれば、早期利上げ観測が一段と高まり、ドル買いが一気に加速するケースも想定される。追加介入の可能性に身構えながらの神経質な取引が続きそうだ。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)