現状の対策では限界 行政との連携で被害防止へ

JOC=日本オリンピック委員会らスポーツ関連団体は13日、アスリートが性的な意図で撮影されたり、SNSに拡散されるなどの被害防止を訴え、スポーツ庁に要望書を提出した。

選手に対する性的目的での撮影被害は、近年SNSを中心に画像が拡散するなどトップアスリートだけでなく中高生にも被害が及んでいる。
各自治体による迷惑防止条例等では「衣服の上からの姿の撮影」については取り締まることができない可能性が高く、現状の競技団体ごと、会場ごとの対策には限界があった。

声を上げる女性アスリートに誹謗中傷も 

女性アスリートの被害問題に詳しい、元オリンピック代表(テコンドー)でアスリート委員長も務めたことのある髙橋美穂氏は特に女性が活躍するスポーツ競技会の現状をこう語る。 

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「ここ数年は試合会場にアスリートの過激なファンが増えていた。競技を見に来たのではなく接触目的で、アイドルに握手をするような感覚で大会に押しかける人も多い。SNSなどでアスリートが周知しようと努力すればするほど、頑張れば頑張るほど、性の対象としてみられる選手も多く、雑誌やメディアで『美人アスリート』という切り口で紹介されると、その目線が増えてしまうこともあった」と現状を語っている。

今回出された要望書には
「関係者間の情報交換の場の設置」
「競技会場等での盗撮防止に関する事例共有への協力」
「関係省庁との連携」
を記載。来年の東京五輪・パラリンピック開催を前にJOCや各競技団体が、行政機関と連携して対策に取り組む形となる。 

一方で、選手側にはこんな声も寄せられていたと髙橋氏は続ける。
「性の対象としてみられた選手たちが被害を訴えようと声を上げると、誹謗中傷も激しかった。なかには『そんな露出の激しい格好で戦っているからだ』という意見が届き、選手側も被害報告を躊躇する現状があった」

盗撮・拡散防止へポスターも作成、一定のガイドライン作成に期待

選手が声を上げにくい状況を変えるため、JOCら関係団体は要望書を提出した同じ日に共同声明文を発表。
アスリートへの写真、動画による性的ハラスメント防止を呼びかけるポスターを作成した。
その中で「アスリートの盗撮、写真・動画の悪用、悪質なSNS投稿は卑劣な行為」と非難し、
情報提供を呼びかけるサイト(https://www.joc.or.jp/about/savesport/)を開設するなど、
被害撲滅に向け動き出している。

今回の要望書提出と声明文の作成にあたり、JOC籾井圭子常務理事は「法律での規制や行政に相談して対策を取るにしても、対策するための情報や実態把握などの『第一歩』がないといけない。今回が一過性で終わらないよう継続的に続けていく」と決意を語った。

また、声明文の中では「ユニフォームに問題があるという議論」にも触れ、「今回の問題の本質を捉えていないだけではなく、被害者(選手)側に非があるかのような誤解を与えかねないため、取り上げない」とアスリートを守る方針を明確にしている。

スポーツ庁に要望書を提出したJOC・山下泰裕会長は「動画、写真の悪用、それから悪質なSNS投稿。こういうところで選手がかなり被害を受けて傷ついている」とアスリートへの性的ハラスメント撲滅に強い意欲を示し、要望書を受け取ったスポーツ庁、室伏広治長官は「性的な意図を持った撮影やSNSでの拡散は看過できない問題」と延べ、問題解決に協力する姿勢を打ち出した。

髙橋氏はこの取り組みに一定の評価を与えるとともに、今後考えられる対策についてもこう述べている。
「現在は各団体で選手を守る対策がバラバラなので、一定のガイドラインが作成されることを期待したい。また、大会会場にポスターが掲載されることで抑止力が高まってくれればと思う。
個人的には野球やサッカーのような所持品チェックの対策も取り組みやすくなるのでは」

アスリートの魅力的な写真・映像は、競技を盛り上げる大きな要因にもなる。
しかし、その写真、映像を性的な意図で拡散する倫理観は、発信するメディアやファンが戒めなければならない。
先の髙橋氏は「写真を見る人のモラル(倫理観)が勝つか、興味本位の閲覧数が勝つか。私は見る人のモラルが勝ってほしいと思う」と延べている。
スポーツ界全体の願いに応えるためにも、正しくスポーツを楽しむ姿勢を、世界にアピールしていく必要がある。

(報道スポーツ部・川崎健太郎)

川崎健太郎
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