夏の甲子園を夢見て、すべてを懸けて戦う球児たち。その熱戦の裏側で、選手たちと同じように“人生を懸けて”グラウンドに立つ人々がいる。
福島県野球連盟に所属する約500人の審判員。そのほとんどが本業を持ち、有給休暇を使い活動する「アマチュア」だ。
1回のジャッジが球児の運命を左右する重圧の中、彼らはなぜ過酷なグラウンドに向かうのか。中学校教師と審判員の「二刀流」で夏に挑む一人の男性の姿から、試合を支える者たちの覚悟を追った。
準備重ねる審判
夏の舞台で躍動する球児たち。その舞台の裏側には、試合を支えている存在がいる。
大会が始まる10日前、福島県郡山市のグラウンドには、福島県野球連盟に所属する審判員たちが集まっていた。
毎年変わるルールや、ひとつひとつの判定に関わる細かな動き。本番で迷いなくジャッジするために、審判員たちは徹底的な準備を重ねる。
指導にあたる大滝忠明さんは、高校生最後の夏の大会だからこそ、たった1つのジャッジで流れが変わることを常に意識していると話す。すべてのプレーに対して事前の想定と準備をして臨む、それに尽きるという。
有休で活動する
連盟に所属する約500人のほとんどが、本業を持ちながら活動するアマチュア審判員だ。
塚本泰英会長によると、彼らの多くが自分たちの有給休暇を消化して審判に臨んでおり、家族がいる場合はその理解も欠かせないという。
1試合の拘束時間は2〜3時間に及ぶが、支払われる報酬は数百円から千円程度の実費レベル。実質的にはボランティアと同然の活動が現状だ。
教員との二刀流
中学校教員の本間貴博さんは、この夏、高校野球の舞台で審判員を務める1人。
週に17コマの授業や教材準備、クラス担任の業務、さらには教務主任として学校行事や時間割の調整もこなすなど、教員として多忙を極める毎日を送っている。
本業だけでも目が回るような忙しさだが、本間さんは「週末は土曜日に部活動を行って、日曜日は審判を務めているので、本当に休みはないですね」と笑顔を見せる。
かつては自身も選手としてグラウンドに立っていた。今は審判という異なる立場で、その経験を生徒たちに還元している。
野球が大好きだという強い思いと、顧問を務める部活動で子どもたちに1つでも多くのことを教えたいという純粋な気持ちが、彼の原動力だ。
一瞬の緊張感
夏の大会前、最後の練習試合は審判員にとっても最終調整の場となる。
「練習試合でも本番直前のジャッジになるので、緊張感を持ってやりたい」と本間さんは気を引き締める。
主審のマスクを被った本間さんの視線の先には、一瞬で勝敗を分けるプレーが待っている。最適な位置へ瞬時に動き、正確で公平なジャッジを下す。その裏には、かつて「申し訳ないことをした、できない自分が悔しい」とノートに反省を書き殴り、後悔を重ねてきた日々があった。
寄り添う覚悟
年間70試合に駆け付ける本間さんにとっても、“夏”は特別な季節だ。
「審判のせいで負けた、とは絶対に言わせたくない。特に高校野球で言えば、夏の甲子園を目指してやってきた選手たちの思いを、全力で出し切らせてあげたい。彼らがプレーに集中できるように、私たちが公正に判定していくことを意識したい」
大歓声を浴びるのは選手たちだ。しかしその影には、数え切れない準備と、私生活を捧げてグラウンドに立つ大人たちの静かな覚悟がある。
(福島テレビ)

