夏を代表する農作物、スイカ。「味は好きだが、黒い種を出すのが面倒」という人のために“種ごと食べられる”スイカの栽培に福岡県内で初めて成功した村がある。新しいスイカ誕生の裏に世界で唯一の技術がカギを握っていた。
甘い!種まで食べられるスイカ
福岡県東部に位置する赤村。かつての産炭地、筑豊を構成する自然豊かな村だ。赤村で農業を営む里村直樹さん。福岡県では初めてというスイカを栽培しているという。

「種が食べられるスイカで『TANEFREE(タネフリー)』というものです」。

今、まさに収穫期を迎えていて、里村さんは「この珍しいスイカで赤村が注目されて、村興しじゃないが、赤村の特産品にしたい。赤村の生産者が皆んなで協力したら、いいものができると思って作り始めた」と夢を膨らませる。

同じ思いで集まったのが里村さんを含む4人の生産者。気になる『タネフリースイカ』を切ってみると、黒い種が無い。きれいな赤一色で、小さな白い種以外は見当たらない。

『タネフリースイカ』は、種を黒くするために使うエネルギーが甘みに回るため、平均糖度は、13度以上と一般的なスイカより高く、甘みは皮の近くまで行き渡っている。

カギは“世界で唯一”のスイカの花粉
実は、この『タネフリースイカ』誕生の背景には、世界で唯一のスイカの花粉を手掛ける会社の存在があった。「うちの会社が、世界でただ1つの種がなくなる花粉を作っています」と話すのは、農業機械メーカー『オーレック』の命婦江里子さん。

命婦さんが作っているスイカの花粉を一般的なスイカに付けることで『タネフリー』になるというのだ。

「福岡では、なかなかこのスイカを作ってくれる所が見つからなくて、赤村の生産者が『作ってもいい』と言ってくれて、2年目にしてようやく商品化まで辿り着くことができました」と命婦さんは感謝の言葉を口にする。

2025年から赤村で作り始めた『タネフリースイカ』だが、アナグマの被害に遭って、収穫前に全滅。

2年目となる2026年は、様々な害獣対策をしたために100玉のスイカの収穫に成功した。

花粉で種なしにする技術研究 開発は1人
命婦さんが勤める福岡・広川町の農業機械メーカー『オーレック』は、草刈り機で有名な会社だが、新規事業で花粉事業を行っている。なぜ、農業機械メーカーが、花粉事業なのか?

「元々、ベンチャー企業で花粉事業をやっていたが、ベンチャー企業が無くなってしまったので、オーレックに技術ごと移して研究をやっている」と話す命婦さん。そのため特殊な花粉の研究開発に携わっているのは、命婦さんただ1人だ。

命婦さんの会社では、雄花をハウスから摘んできて、花粉だけの状態にするために花を切って収集している。まずは一般的なスイカの花粉を収集。

その方法は企業秘密だが、スタッフが手作業で丁寧に花粉を集める。

そして、その花粉を特別な機械に通すことで種が食べられるスイカの花粉ができあがるというのだ。「花粉で種なしにする技術は、世界でオーレックしかやっていない」と命婦さんは、胸を張る。

花粉を商品化するまでの長い道のり
しかし、花粉を商品化するまでの道のりは、苦労の連続だった。

「最初は何も分からなくて、露地にスイカを植えて花粉を採ろうとしたが、ハチが全部持って行ってしまって…」と命婦さんは振り返る。花粉を採取する前に虫が花粉を運んでしまい失敗。

そこで辿り着いたのがハウスでの栽培。虫が入らないように対策することで安定して花粉を採取できるようになったという。
それでも花粉事業を軌道に乗せることは一筋縄ではいかなかった。「10年以上前は、種ごと食べられるスイカを作っても種ありと同じ価格で買い取られたり、なかなか価格差がつかず、農家が1年でやめていった」(『オーレック』命婦江里子さん)。

種ごと食べられるスイカは、ハウス栽培が必須で、しかも花粉を1つずつ手作業で付けければならないなど、労力が掛かるため、農家に魅力を感じてもらえなかったという。

そうした中、「何か特産品を作りたい」という赤村とマッチングして栽培が実現。2年掛かりで福岡初の『種ごと食べられるスイカ』を初めて収穫することができた。

「来年、この4人の生産者で1人100玉、計400玉の収穫を目標に頑張ります。その先はこの大玉スイカを見て、赤村で農業がしたいという生産者が集まればいいなと思います」と栽培に携わった里村直樹さんは語る。

命婦さんも「スイカの未経験者でもタネフリーができるという第1の成功事例にもなったので、これを皮切りに全国でタネフリースイカを年中リレーできるように頑張りたい」と期待を寄せている。
特殊花粉のため海外流出の心配なし
命婦さんによると、既に熊本や沖縄、更には、韓国で『タネフリースイカ』が栽培され、人気となっているが、すべて『オーレック』社の花粉を使っているという。

一方で、無許可でブランド農産物が、海外に流出してしまうのではと心配の声があるが、タネフリースイカに関しては、タネフリースイカは、そもそも品種ではなく、特殊な花粉を使うことで、実ができるため、毎年、花粉を購入する必要があり、その都度『オーレック』に収益として入ってきている。売上は、年々増えているとのことで、更なる栽培の広がりに期待が寄せられている。
(テレビ西日本)

