約400年の歴史を持ちながらも、現在は一軒の製作所を残すのみとなっている宮崎県宮崎市佐土原町に伝わる「佐土原人形」。職人の高齢化により一度は途絶えかけた伝統が、一人の女性職人の復帰により再び光を取り戻した。85歳で筆をとる阪本由美子さんの思いと、母を支える娘、そして未来を担う子供たちへの継承の現場を追った。

唯一の製作所を守る85歳の職人

江戸時代に作り始められたと言われている宮崎県の伝統工芸品「佐土原人形」。

この記事の画像(13枚)

可愛らしい表情と鮮やかで優しい色合いをした人形は、長い間、人々に親しまれてきた。
宮崎市佐土原町に工房のある佐土原人形店「ますや」。約30年前に由美子さんが夫の兼次さんとともに大阪から移住して店を引き継いだ。

人形の形を作り、焼く工程を兼次さんが、色を乗せる作業を由美子さんが担当してきた。

長年、二人三脚で歩んできたが、由美子さんは体力の限界を感じて7年前に現役を引退。さらに2年前には夫の兼次さんが他界した。
一時は工房の取り壊しも検討したという。

佐土原人形店ますや 阪本由美子さん:
店を閉めようと思って整理したら、素焼きの人形がいっぱい出てきた。こんなに焼いてるから、色を塗らないことにはどうしようもないし。捨てるわけにはいかないし。

試しに1つ塗ってみると、当時の筆の感覚がすぐに戻ってきたという。

佐土原人形店ますや 阪本由美子さん:
ブランクは余り感じなかった。やってみたら、手が覚えてる。そんなにブランクがあったとは感じなかった。あまり遅くまでしたらいけないと思って、ここで止めようと思うが、なかなか止められない。

夢中で筆を動かす時間は、兼次さんとの別れから立ち直るきっかけにもなった。 

佐土原人形店ますや 阪本由美子さん:
ここにいて仕事してると、まだ兼次さんと一緒にしている感覚。仕事をしていると、一緒にいてくれる。寂しいとかそういう感覚はなくなった。

伝統を次世代へ繋ぐ体験教室

由美子さんの再出発を支えたのは、石川県から毎月通い続ける長女の寛子さんだ。

娘 阪本寛子さん:
父が亡くなった時は、様子がおかしいというか、上の空だし、何か言っても反応がなかった。年も年だし先が心配だなと思っていたが、人形を作らすと急に活き活きした。すごく幸せそうな顔をして塗っているので、こっちも頑張ろうかなという気になる。

佐土原人形の継承が危ぶまれる中、二人は次の世代に魅力を伝える取り組みも開始した。

6月には地元の小学生を対象とした絵付け体験教室を開催。子供たちは自由な発想で彩色を楽しんだ。

紺色の甲羅のカメを絵付けした児童:
手が震えて難しいけど、自分の思い通りに塗ることができた。

招き猫の絵付けをした児童:
首輪の色が決まらなかったので、2色にした 。

ニワトリの絵付けをした児童:
目を上に向けてかわいくした。

子供たちの、伝統の枠に捉われない斬新な色使いは、ベテランの由美子さんにとっても新たな刺激となった。

佐土原人形店ますや 阪本由美子さん:
こういう塗り方、こういう色合いもあるんだなというのは楽しい。こんな楽しい仕事が私に待っててくれたんだと思って、ほんとうに幸せ。巡り合えたということは。楽しいなという気持ちが残っていれば、また、佐土原人形も続いていくんじゃないかな。
 
かつて夫婦でつないできた伝統は今、母と娘によって、再び地域へと紡がれ始めた。由美子さんが一筆一筆乗せる鮮やかな絵の具は、佐土原人形の未来を映し出すかのように、力強く輝いている。

(テレビ宮崎)

テレビ宮崎
テレビ宮崎

宮崎の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。