日常的に「胃ろう」や「痰の吸引」など医療のサポートが必要な子供「医療的ケア児」。
命の危険にもかかわるケアを担う家族は、決まった時間に処置をしたり、24時間体制で対応したりと、その負担の問題が叫ばれてきました。
こうした中で、神戸市には医療的ケア児の訪問診療に特化したクリニックが誕生しました。
これまで通院が必要だった措置も自宅でできるようになり、医師に気軽に相談できるようになることで、家族の負担を大幅に緩和しています。
■医療的ケア児を1人で育てる父 張り詰めた日常
武居蒼空(そら)くん、4歳。重度の心疾患を抱えています。
生まれてすぐに入院し、何度も手術を受けて命をつないできました。
2歳半で退院してからの蒼空くんの命を支えてきたのは、父・武居悠己さんです。
【蒼空くんの父・武居悠己さん】「不意に、この子は歩けるようになるのかなとか、どこまでできるようになるんやろうと思ってズーンってなる」
目を離すことが怖い。そんな夜を、たった1人で乗り越えてきました。
胃に栄養剤を直接送り込む「胃ろう」は1日4回、決められた時間に注入しなければいけません。
■在宅でのケアが始まり、妻と離婚
妻とは、在宅でのケアが始まった頃に離婚しました。
【蒼空くんの父・武居悠己さん】「医師からは『絶対に風邪をひかせないでください』と言われ、心臓のこともあるし、(妻も)プレッシャーとストレスもあったんでしょうね。
(妻は)最後のほう、ケアをやるか自分が死ぬか、どっちかみたいな感じに陥っていたので、これは多分無理やなと」
友人と食事に行くことも、旅行に出かけることもありません。
【蒼空くんの父・武居悠己さん】「蒼空を連れてくる時点で、諦めたという言い方は悪いですけど、するつもりもなくこっちに来たので」
■全身の筋力が低下する難病 24時間体制でケア
兵庫県明石市で暮らす太田メリサちゃん、10歳。
全身の筋力が低下する難病を抱えています。生後半年で気管を切開し、人工呼吸器をつけました。
痰などが気道を塞がないよう、数十分おきの吸引が欠かせず、24時間体制で母と祖父母がケアを続けています。
【メリサちゃんの母・太田萌さん】「外科の先生から喉に入れるチューブを見せられた時、まだ0歳の小さい子の喉にこれが入るという現実にちょっとびっくりして…」
■片道1時間かけて通院「移動する間に窒息するリスクも」
病気の進行を遅らせる治療や体の状態のチェックは大学病院に行くしかなく、片道1時間かけて通院しています。
担当の医師は、移動に伴うリスクを懸念していました。
【メリサちゃんの主治医・坊亮輔先生】「移動する間に窒息するリスクや、お母さんが1人で連れてくるとなると、少し危ないかなと思います」
■神戸に訪問診療に特化したクリニックが開業
家族が長年望んでいたことが、実現しました。
神戸市に医療的ケア児の訪問診療を行うクリニックが開業したのです。
スマイルクリニック院長の鴻池善彦先生は、長年、小児の集中治療室「PICU」で働いていました。
【スマイルクリニック院長・鴻池善彦先生】「助けて終わりじゃないので、その後の子供たちの生活とか成長を、もう少し考えられたらよかったなと思うきっかけになりました」
■複雑なケアや訪問診療に対応する小児科医はほとんどいない
新生児医療の発達で命が助かる子が増えましたが、同時に医療的ケア児も増えています。一方で、複雑なケアへの専門知識を持つ小児科医、さらに訪問診療に対応する医師はほとんどいないのが現状です。
鴻池先生のクリニックは、あえて外来は受け付けず、全国的にも珍しい「訪問診療」に特化しています。
メリサちゃんの家では、人工呼吸器と胃ろうのチューブの交換も自宅でできるようになりました。今までは大学病院に行かなければできなかった処置です。
【メリサちゃんの母・太田萌さん】「ほとんど(病院に)行くことは減りました。病院に行くとなると、学校もお休みしたり、一日がそれになるんですけど。
訪問診療に代わってから前後に何か(予定)を入れることができるっていうのがすごくメリットでもあるかな」
■「訪問診療」が心の支えに
鴻池先生は、蒼空くんの訪問診療も請け負うようになりました。
1人で蒼空くんのケアを担う、父・悠己さんは、不安なことは夜でも、鴻池先生に連絡するようになりました。
【蒼空くんの父・武居悠己さん】「伝えられる相手がいるのはありがたいですね」
公園で、悠己さんは蒼空くんの両手を取り、一歩、また一歩と歩く練習を重ねていました。
【蒼空くんの父・武居悠己さん】「このまま手をつないで歩けたらいいなと思いますけど。今のところ一番の夢ですね」
日常に埋もれていた夢。やっと口に出すことが、できました。
(関西テレビ「newsランナー」2026年7月2日放送)
