外国人の利用は?従来のQR決済との違いとは?

デジタル通貨の研究開発で世界をリードする中国。2020年10月、広東省深圳市で「デジタル人民元」を使った実証実験は応募者の中から抽選で5万人を選び、一人200元ずつを配る形で行われた。しかし、参加者は中国人に限られていた。今後実用化される際には、日本人を含む外国人の利用も可能になるのだろうか。これまで公開された情報からみるとその可能性は高そうだ。

デジタル人民元の電子財布を開設する利用者
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アリペイやウィチャットペイに代表される中国の電子決済サービスを利用する場合、中国の銀行口座あるいはクレジットカードとを紐づける必要がある。国際クレジットカードも利用可能になったが、機能が一部制限されるなど、中国に銀行口座を持たない外国人旅行者は利用が難しいのが実情だ。

一方、中国社会のキャッシュレス化はかなり進んでおり、シェアバイクやデリバリーなど電子決済のみにしか対応していないサービスも多い。中国に口座がない外国人はキャッシュレス化による便利さの恩恵が得られず、不便を強いられている。

深圳の実証実験ではデジタル人民元が利用可能な場所に表記

今回の実証実験でわかったのは、デジタル人民元はより現金の扱いに近くなっていて、銀行口座がなくても利用可能だということだ。今後は、外国人旅行者向けの電子決済サービスの提供も期待される。

実証実験で使われた電子財布の開設にはスマホのショートメールによる認証が必要だったが、デジタル人民元の開発を担うデジタル通貨研究所の所長は、今後、認証方法を多様化する考えを示し、利用者の事情に合わせて使いやすくする考えを明らかにした。

北京冬期オリンピックでは財布不要に?

デジタル人民元は4種類

外国人向けのデジタル人民元の実証実験の計画はまだ正式に発表されていないが、2020年5月、中央銀行である中国人民銀行の易綱(い・こう)総裁がメディアに対し、「デジタル人民元を北京冬季オリンピック期間中にテストする」と述べた。

中国のデジタル人民元の専門家はその発言を外国人向けのデジタル人民元の実証実験の予告と見ており、「デジタル人民元の実用化によって2022年北京冬季オリンピックに参加する外国選手と観光客は現金をもつ必要がなくなるだろう」と予測している。

脱米ドル依存…アメリカの“監視網”からの脱却 

デジタル人民元の開発を立案した中国人民銀行の周小川(しゅう・しょうせん)前総裁は、個人の利用について「主に中国国内での利用を念頭に開発している」と指摘した。一方、中国政府は対外貿易におけるデジタル人民元の使用に積極的で、対照的な姿勢を見せている。

2020年8月、河北省と海南省の政府はそれぞれ「Eコーマスと対外貿易におけるデジタル人民元の使用を積極的に展開する」と発表した。中国は世界一の輸出大国だが、対外貿易決済において、米ドルへの依存度が高い。

アメリカの経済制裁を受けている中国とロシアは、ここ数年、中ロ二国間貿易での米ドルの使用割合を大幅に減らしている。2020年第一四半期には米ドルの使用が記録以来最少になったと報じられたものの、それでも依然として中ロ二国間の貿易額の46%を占めている。

米ドルによる決済は、アメリカの銀行や、銀行間の国際決済ネットワークSWIFT(国際銀行間通信協会)を通じて行われる。SWIFTはベルギーに本部を置く国際的なネットワークだが、実際にはアメリカの強い影響下にあるとされる。

このため、世界の資金決済情報をアメリカ当局が独占的に握っているとされており、アメリカはこれまでもドルを武器に北朝鮮やイランなどに経済制裁をかけてきた。このため米中対立が激化する中で、ドル依存を続けることは中国にとっては、リスクなのだ。

一方、アメリカ政府の財政悪化と中央銀行の貨幣増発による米ドルの価値低下の懸念やアメリカによる一方的な経済制裁へのリスクから、中ロだけでなく各国当局が米ドルに対する過度の依存への警戒を強めている。

鉄鉱石などの対外貿易に人民元決済を導入と中国国営メディアが報道

こうした背景もあって、中国政府は他国との貿易決済の際、ドルの代わりにデジタル人民元の利用に期待を寄せる。人民元の国際化を研究する中国の専門家は、デジタル人民元は従来の紙幣でなく暗号化したデータであるため、国際送金、決済の効率を大幅に向上させ、コストを抑えることができると指摘。その上で、対外貿易におけるデジタル人民元の利用を促進するために、取引相手に対し、中国政府が優遇政策を取るべきと提言している。

従来のドル決済に比べ、利便性やお得感をアピールし、対外貿易におけるデジタル人民元の使用を増やし、人民元の国際化を促進しようとの狙いがある。

デジタル通貨の戦国時代が到来?

デジタル人民元は、現状アメリカが握る金融覇権に対する挑戦でもある。しかし、これからは米ドルと人民元の二極対決というより、デジタル通貨の戦国時代になるといえるかもれない。

国際貿易で米ドルに次いで使われている通貨はユーロである。欧州中央銀行(ECB)は2020年10月「デジタルユーロに関する報告書」を公表し、その研究を加速させている。

ロシアやベネズエラを代表する石油や天然ガスなどの資源国もその資源を裏付けにした独自のデジタル通貨の開発を進めている。

また各国の金融当局が懸念を示し、発行が難航しているデジタル通貨「リブラ」について、フェイスブックは2020年4月に「リブラ・バージョン2」の白書を新たにリリースした。白書では、個別の国の法定通貨に紐付けるリブラ貨幣など、多様化に言及し、各国の伝統通貨にそれぞれ対応するリブラ貨幣のネットワークを構築する可能性を示した。

アメリカの金融覇権が揺らぐ現在、デジタル通貨が国際金融秩序に大きな変革をもたらす可能性がある。

【執筆:FNN北京支局 李 仁正】