全国で書店の閉店が相次ぐ一方、個人で始める小さな本屋さんが少しずつ増えている。大型書店にはない店主ならではの選書や、カフェなどと一緒になった居心地の良い店内。そこには、本と人をつなぐ穏やかな空気が流れていた。

売れている本ではなく、置きたい本を

「自分じゃ考えつかない面白い話が読めたり、知らない意見を新しく取り入れられたりするのが好きです」
「癒やされますね。すごく楽しい」
“紙の本”を求め、多くの人が本屋さんを訪れる。いま、広島県内で新しいカタチの本屋さんが少しずつ増えている。

尾道市中心部にある「Books&Cafe 灯書堂」
尾道市中心部にある「Books&Cafe 灯書堂」
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2025年12月、尾道市中心部にオープンした「Books&Cafe灯書堂」。店内にはカフェスペースと本棚が両方ある。小規模かつ個人で営む、いわゆる“独立系書店”だ。
店主の新家幸太さんは、「出版不況と言われていますけど、毎日200点、300点と新刊が出ています。面白い本はいまも出続けていますから、本は楽しいぞと伝えたいですね」と笑顔を見せた。

店主・新家幸太さん
店主・新家幸太さん

大型書店のように幅広い品ぞろえではない。その代わり、本棚には児童書から実用書、小説まで、新家さんが厳選した一冊一冊が並んでいる。
「売れている本を片っ端から集めたわけではないんです。自分が読みたい本でもありますし、置いておきたい本というか」

利用客の一人は、「普通の本屋さんだと目的の本を探しに行くことが多いですけど、ここはお店の人がセレクトした本が並んでいるので、『こんな本があったんだ』という発見があります。読んでいると、その世界の住人になれるような気がして、僕は読書が好きです」と話す。

東京から観光中、店に立ち寄った利用客
東京から観光中、店に立ち寄った利用客

この空間を求めて、県外から足を運ぶ人もいる。
東京から観光中に立ち寄った人は、「出合いがある場所だと思います。オーナーさんが選んだ本だったり、自分の知らない本が置いてあったりして、そういう本に出合えるのですごく好きです」と魅力を語る。
また、福岡から訪れた人も「口コミだけではなく、実際に自分で表紙や内容を見て、ピンときたものを選べるのが本屋さんに来る意義なのかなと思います」と話した。

自動的におすすめが表示されるデジタルの便利さよりも、人が選んだ本との偶然の出会いを求めて、この店に行き着くようだ。

夫婦でかなえた「本とカフェ」の店

長年、出版取次会社やチェーン展開する書店で本の仕事に携わってきた新家さん。店づくりは妻・知秋さんと二人三脚で始めた挑戦だった。
知秋さんは「正直、最初は半分反対していました。もう1~2年間はずっと家庭内で話し合いでしたね。本当にやれるのか、という話をしたり」と明かす。

本屋さんとカフェを開業するために妻・知秋さんを説得
本屋さんとカフェを開業するために妻・知秋さんを説得

それでも新家さんは、本の温もりがある場所をつくりたいという思いを諦めなかった。
「どうしても本とカフェを組み合わせた店をやりたかったんです。一人では無理だったので、何とか賛成に回っていただけるように『お願いします!』と…」

愛知県の名店のコーヒーを学ぶ新家さん
愛知県の名店のコーヒーを学ぶ新家さん

本格的なカフェを目指し、愛知県の名店の店主からサイフォン式コーヒーのいれ方を直接学んだ。
「緊張するなぁ。手が震えるよ、本当」
慣れない手つきで練習していた新家さんも、いまでは香り高い一杯を提供するカフェのマスターだ。
本屋さんとしての儲けは決して多くない。しかし、“カフェの腕”を上げることで経営を両立させ、店は軌道に乗り始めている。

「お客さまに『こんないい本がありますよ』と伝えること。それはずっと続けていきたいですね」

開業のハードルを下げる新しい仕組み

こうした独立系書店の開業を後押ししているのが、大手出版取次会社・トーハンだ。

東京都内にある出版取次会社「トーハン」
東京都内にある出版取次会社「トーハン」

書店事業本部の袴田昌彦さんは「スモール経営」をキーワードに挙げ、こう話す。
「家族中心で経営したり、自宅を改装したりと、本屋さんが新しいカタチへ進化してきている。その進化の過程を見ているようなイメージです」

花屋さんと兼業する本屋さんも誕生(画像提供:トーハン)
花屋さんと兼業する本屋さんも誕生(画像提供:トーハン)

一般的に、書店を開業するには、取次会社から本を仕入れて雑誌や書籍を一通りそろえるため、委託販売の保証金など数百万円から1000万円以上の開業資金が必要となる。
そこでトーハンは保証金などを原則不要とし、開業費用を抑えられる新しい仕組み「HONYAL」を2024年10月から開始した。カレー屋さんと本屋さん、花屋さんと本屋さんなど兼業でオープンする店が続々と登場。この2年ほどで全国に80軒の新たな本屋さんが誕生している。

高校の国語教師から本屋さんの店主へ

その一つが、2026年3月、広島市安佐南区にオープンした「和books」だ。カフェでありながら、新刊だけでなく中古本も独自に取りそろえている。

店主の加藤由佳さんは31歳。2025年まで県内の高校で国語の教師をしていた。
「中古本の値札も教え子の生徒がつけてくれました」
加藤さんの挑戦を教え子たちも応援している。この日は、大学生になった教え子2人が店を訪れた。
「最初に聞いたときはびっくりしました」
「生徒思いな先生で、親身になって寄り添ってくれていました」

かつての教え子たちも訪れる「和books」
かつての教え子たちも訪れる「和books」

店で児童向け教室を開き、子どもの居場所づくりに取り組むなど、教師時代の経験が生かされている。
「『先生を続けたほうが良かったんじゃないか』『まだ若いのに』と言われることもあります。でも今もすごく楽しく、日々言葉を探しながらやっています」と加藤さんは話す。

店内に置かれた小さな黒板。加藤さんが毎朝、一日にふさわしい一節を書いている。
ーー私はその人を常に先生と呼んでいた。
この日は、夏目漱石の『こころ』から選んだ。

その日にふさわしい一節を黒板に
その日にふさわしい一節を黒板に

「文学の授業で一番思い入れがあって、力を入れていた作品が『こころ』だったので、その最初の一文を書いてみました」

一人で抱えず「本棚の前に立って」

加藤さんが選書した新刊の本棚には、人を思う「心」が詰まっている。
「エッセイや心のケアに関する本を多めに選んでいます。本棚の前でぼーっと背表紙を眺めているだけでも、自分に向けて言葉をかけられているような気持ちにもなって…。もし何か一人で抱えている人がいたら、ぜひうちの本棚の前に立ってもらえたら」

店主の中古本も販売
店主の中古本も販売

本に救われてきたという加藤さんの本棚は、訪れた人たちの心を温める。その本棚を眺める女性は、「選書が自分に合っているなと思うし、気になる本が多いので通っています」と話していた。

和books 店主・加藤由佳さん
和books 店主・加藤由佳さん

“活字離れ”が進んでいると言われる時代。しかし、加藤さんは店をオープンして気づいたことがある。
「若い世代は本を読まない、買わないと思われがちですが、そんなことはありません。この本屋さんを始めてみて、若い人がたくさん本を読んでいることを実感しました」

店主それぞれの個性が輝く、新しい本屋さんのカタチ。人の温もりと本に囲まれた小さな店が、広島県内で少しずつ広がっている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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