「女王がいないぞと気づいてから18日後には新しい女王蜂が出てくる」 初夏の呉羽丘陵、数十万匹のミツバチを束ねる養蜂家の一日を追った。

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梅雨こそがミツバチの「引っ越しシーズン」

富山市の呉羽丘陵の一角。この時期、あたりに響くのは無数のミツバチが羽ばたく音だ。緑に囲まれた養蜂場の巣箱の中には、約3万匹ものミツバチが暮らしている。

養蜂家の池田薫さんと池田竜盛さんが丁寧に世話をするこの場所で、梅雨を迎えるこの時期にある特別な出来事が始まる。それが「分蜂(ぶんぽう)」だ。女王蜂とともに群れが新たな住処を求めて旅立つ、ミツバチたちの引っ越しである。

池田薫さんはこう話す。「ミツバチが子育てして、女王蜂が活躍する場所。人工分蜂する。ミツバチたちもそろそろ分家をつくりたいと思う季節」。梅雨入りの時期は、ミツバチの群れが自然と新天地を求め始める、一年の中でも特別な節目なのだ。

富山では5月から6月にかけてが花の盛り。ミツバチたちが花の蜜を最も旺盛に集める時期だった。

「春の花が富山だと5月・6月ぐらいが勢いがあって、花の蜜をいっぱい採れる時期」と池田薫さんは語る。

採蜜を終えた巣箱では、次のサイクルが静かに動き始めている。蜂蜜を集める季節から、新たな命をつなぐ季節へ。呉羽丘陵の里山は、そうした自然のリズムとともに動いている。

3万匹を束ねる「たった1匹」の存在

巣箱の中に3万匹もの命が息づいている。しかし、その群れの中心に立つのはたった1匹の女王蜂だ。

池田竜盛さんが女王蜂を指し示しながら説明する。「これが女王蜂。シマシマが無くて大きい。何となくみんなに囲まれて、ロイヤルコートって言う。卵を産んでないところで働きバチにきれいにしてもらった後を探して産む」。

働きバチたちは女王蜂の周囲を取り囲み、まるで宮廷のように仕える。群れの命運は、この1匹にかかっているといっても過言ではない。

人工分蜂 新たな王国の誕生

自然界では、新しい女王蜂が誕生するタイミングで古い女王蜂が働きバチの半分を引き連れ、新しい巣を求めて飛び立つ。これが「分蜂」だ。養蜂家はこれを人工的にコントロールする「人工分蜂」という技術を用いる。

女王蜂とともに新しい箱に移される働きバチは約5000匹。わずか3万匹の群れが、半分以下にまで縮小するわけだ。しかし不思議なことに、そこから2か月ほどで再び3万匹規模の王国が出来上がるという。

その鍵を握るのが、新しい女王蜂の誕生だ。池田薫さんはそのメカニズムをこう語る。「女王がいないぞと気づいてから18日後には新しい女王バチが出てくる」。

「交尾飛行」と女王バチの生涯

誕生した新しい女王蜂は、巣の中にとどまらず外の世界へと飛び立つ。「交尾飛行」と呼ばれる行動だ。

「オスバチが群れている場所が高いところにある。10数匹のオスと交尾して。その後は巣箱の中でずっと卵を産み続ける。命尽きるまで。お腹に卵がある限り」と池田薫さんは静かに話す。

高い空の上で複数のオスと交尾を終えた女王バチは、その後は巣箱の外へ出ることなく、ひたすら卵を産み続ける。その一生は、群れのために捧げられている。華やかな「ロイヤルコート」に囲まれた存在でありながら、その運命はある意味で切ない。

国産ハチミツへの願い

養蜂家として長年ミツバチと向き合ってきた池田薫さんは、日本の養蜂業の現状についても率直に語る。

「ハチミツは94%が外国産、国産が6%。海外との関わりがまずくなると食べられなくなる」。

私たちが日常的に口にしているハチミツの大半は、実は海外からの輸入品だ。国内で生産される割合はわずか6%にすぎない。

だからこそ池田さんはこう願う。「別に海外から入ってこなくても問題ないよってくらい日本の養蜂業が元気になったらいいなと」。

初夏の陽光のもと、数十万匹のミツバチが羽音を響かせる呉羽丘陵。女王蜂を中心に命がつながれ、新たな王国が生まれ、また蜜が蓄えられていく。そのサイクルがきょうも続いている。

(富山テレビ放送)

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